第9話・知的生物種族蒐集家女帝『サドナンデス・フィリア』登場……今度は本当だよ〈一旦ラスト〉

 脱皮温泉からブリッジに、もどってきた異世界人一行に、ビキニアーマー姿の仮想体プルシャが言った。

「では、みなさん……そろそろ、次の目的地を決めたいと思いますが。艦長のメリノさん

、あたしの一存で決めてしまってもいいでしょうか?」


 艦長席に足を伸ばして座ったメリノ・ウールが言った。

「宇宙のコトは、慣れているプルシャに、しばらくは任せる……地上てのケンカになったら、アタイの出番だけれどな。宇宙での戦闘は副官のカミュと船体のプルシャが手慣れていそうだから任せる」


 プルシャがビキニアーマーのビキニ部分を前方に引っ張って、パチンッと音を弾かせながら言った。

「航路を任せていただき感謝します……それでは次の行先は」

 プルシャが前方の宇宙図スクリーンを指差す。


「フィリア星域『女帝惑星フィリア』へ」

 ビキニアーマーのブラから二ツ目ガルムの声が聞こえてきた。

《姐御、本気マジかよ……あの、変態女帝が統治している星に行くのかよ》


 ビキニアーマーのパンツから、プルシャの声が聞こえてきた。

「異世界の方々に宇宙に慣れてもらうには、一番近い最適な目的地だと思いますが」

《どうなっても知らないぞ、オレは加勢しないからな》


 ガルムが沈黙すると、プルシャがパイに指示を出す。

「進行方向を惑星【フィリア】ポイントへ……〝跳躍ジャンプ航行〟の準備を。異世界人のみなさん、これから未体験の跳躍航行をしますけれど……気楽に構えていてください、体が空間的に裏返ったりはしませんから」

 女神のヌクテ・メロンが、不安そうな表情でプルシャに質問する。


「跳躍航行って?」

「距離空間を一気に縮めて目的地に到着する、一般的な宇宙航海方法です……平気、平気、滅多に死ぬことはありませんから……あはははっ」

「なんか、最後の言葉と空笑いが、ものすごく不安を誘うんですけれど」

 パイがイラッとした様子で、プルシャに指示を仰ぐ。

「どうするんですか? 跳躍するんですか? しないんですか? もうすぐ跳躍不可空間に入っちゃいますよ……不可空間に入ったら一時間ほどは、船体に亜空間ラッピングできなくなりますから……早く決めないと」


「跳躍準備して下さい……異世界人のみなさんは、座席に座ってシートベルトを着用……体質によっては跳躍酔いがあるかも知れませんが。その時はその時で」

「跳躍酔いって……一体ナニ?」

 メロンが聞き返す前に、超異世界女型要塞【プルシャ】姉型の船体に亜空間ラッピングがされて、プルシャは半ば強引に跳躍した。

 前方から迫ってくる、漆黒の断面闇が通過していく。

 それは、数秒の出来事だった。

 プルシャが言った。

「闇空間が通過した部分は前空間を跳躍しました。通過途中の部分は、まだ元の空間座位に残っています」


 跳躍が終了した船橋ブリッジでは、跳躍に慣れない異世界人たちの軽い跳躍酔いが勃発していた。

「グスッ、お父さまお母さま、ごめんなさいメリノは悪いヤンキー姫です……しかってください……グスッ」

 跳躍酔いの影響で、しおらしい気弱なエルフ姫に変貌したメリノが泣きじゃくっている一方で、リズムは激怒していた。


「バーローッ、何が魔法を弱くするか、もっと魔法が強いヤツを見つけて潰してこいだ! 好き勝手なコトを言いやがって、あの地図ヲタクの魔導マスター! 酔っぱらわなきゃ、やっていられねぇや! バーローッ」


 メロンは、イケニエを捕まえてグチりながら、説教をしていた。

「だいたいねぇ、あたし自身が女神だっていくら言ってもカミュは認めてくれないのよ……これって不公平だと思わない、ちょっと聞いているのイケニエ。あなたも男ならカミュみたいにシャキッとしなさい、シャキッと」

 説教されているイケニエを眺めるドールが、奇妙な声で笑い転げる。

「うけけけけけけっ」


 異世界人たちを襲ったメチャクチャな跳躍酔いの状態も、数分後にはめて元の状態にもどる。

 メリノが頭を押さえながら呟く。

「跳躍とやらが終わった直後の記憶がねぇ……アタイ、いったいナニをやっていたんだ?」


 異世界人たちの酔いが醒める中、時間差の遅れ酔いをしたイケニエがブリッジの隅でリバースする。

 すぐに、円盤型の清掃マシンが走ってきてイケニエの口から出たモノを片付けると、ムチでイケニエの体を叩きはじめた。

「なんで、オレだけぇ」


  ◇◇◇◇◇◇


 イケニエがムチ打ちされている間に、プルシャが言った。

「みなさん、前方のスクリーンに注目してください……アレが【惑星フィリア】です」


 巨大スクリーンには白色と黒色の、陰陽太極図のような模様の惑星が映し出されていた。

 カミュが言った。

「宇宙にはオレが知らないうちに、さまざまな星が増えたな」

 その時──ブリッジに警報が鳴り響いた。

 惑星フィリアの映像に変わって、映し出される小艦隊。

 プルシャは、腰の西洋剣の柄を握り締める。

「やはり、出てきましたね……フィリアの女帝『サドナンデス・フィリア』自慢の宇宙艦隊の一部が……パイ、小艦隊の構成は?」

「プルシャ姐さんだったら、見ただけで瞬時に把握できると思うけれど……えーと、宇宙空母が四隻、宇宙戦艦が二隻、巡洋宇宙艦が一隻、宇宙駆逐艦が十二隻……合計・十九隻」


「艦体の形状は?」

「宇宙空母を除く艦が、先端が鋭角で細長い艦体の剣型ソード艦」

「女帝サドナンデスの無人艦隊『宇宙の剣』ね。女帝が本気を出したら、こんな小艦隊じゃ済まない」


 プルシャがそう言った瞬間、いきなり小艦隊は素粒子ビームを要塞プルシャに向って撃ってきた。

 素粒子ビームは、プルシャの脇をかすめる。

 仮想体の脇の下を覗くプルシャ。

「大丈夫、当たっていない……パイ、クー、ピピ。反撃と防御をお願いします」

 クーが頭を搔きながら言った。

「面倒くせぇな、ビームの弾道計算してやるから。ピンポイントシールドの操作、触手で頼むぜピピ」

「了解、ピピピ」


 プルシャが、やり過ぎ強力魔女のリズムに言った。

「リズムさんは、こちらの台の上に立ってください」

 言われた通りに低い円筒形の攻撃補助台に立つサーカディアン・リズム。

 リズムの前方には、凸面したレンズのようなモノがあった。

「前方の曲面レンズの表面に上から音符のようなモノが流れ落ちてきますから、中央のヒットポイントに重なったら爆裂魔法を放ってください」

「やってみます」


  ◇◇◇◇◇◇


 クーが計算した着弾予測座標に、ピピが触手で小型シールドを操作して防御する。

 時々、クーの計算間違いで着弾すると『HIT』の文字がスクリーンに表示されて、赤いパトランプ灯が回転する。

「わりぃ、計算間違いしちまった」


 リズムの方は、落ちてくる音符と連携して発射される『ミラクルタキオン粒子ビーム』に、タイミングを合わせて爆裂魔法を放つ。

 ミラクルタキオン粒子ビームに乗せて、宇宙を飛んでいく爆裂魔法。

 敵艦の強固な艦壁に命中して、内部で爆裂する。

 プルシャが言った。

「これぞ、魔法とオーバーテクノロジーの融合……【ミラクルタキオンビーム爆裂魔砲】です……リズムさん、爆裂魔法の連打が降りてきました、タイミングを合わせてください高得点が狙えます」

「ごめんなさーい、魔法が強すぎて、ごめんなさい」


 宇宙空母二隻が沈みんだ時に、巨大スクリーンに中華風の格好をした女性の姿が映し出された。

《歓迎戦終了じゃ、ちんの、宇宙空母をこれ以上、撃沈されたらたまらんからのぅ……惑星フィリアへの着陸を許可するぞえ、久しぶりじゃのぅ──プルシャ、髪型変えたかぞぇ》

「蒐集女帝『サドナンデス・フィリア』……着陸許可を感謝します」

 超異世界女型要塞【プルシャ】姉型は、ゆっくりと惑星フィリアの宇宙空港に着陸していった。


  ◇◇◇◇◇◇


 異世界人一行は、中華風の宮廷の城へと迎え入れられた。

 宮廷城の女帝の間では、サドナンデス・フィリアが玉座に鎮座していた。

 サドナンデスが言った。

「朕がこの惑星と星域を統治している、サドナンデス・フィリアじゃ、好きなだけ滞在するが良いぞ」

 女帝が仮想体のプルシャに訊ねる。

「異世界人を乗せて宇宙に出たのは。やはり捨てられた帝国と、あの男へ一泡吹かせるためか」

「その通りです……あの神を名乗っている皇帝に、一泡吹かせてやるためです」

「必要なら、朕の最強艦隊が加勢するぞぇ……朕はプルシャの味方じゃ……ところで」

 サドナンデスは、異世界人たちを一瞥いちべつすると、清掃マシンからムチ打ちされ続けているイケニエを指差して言った。


「朕の趣味は知的生物物種族の蒐集しゅうしゅうじゃ……朕は無理矢理にコレクションを集めたりはせん。自ら望んで朕の生体コレクションに加わりたいと望んだ者しか蒐集せん……お主、イケニエとか申したな。どうじゃ朕のコレクションの一つにならぬか……円筒形の保存カプセルに、仮死の裸体状態にしてピンク色の生命維持液の中に浮かべ、ライトアップすれば──お主なら映えるぞよ」


「なんでオレだけ、遠慮します……ガーッ、いつまでムチ叩きしているんだ! いい加減にやめろ!」

 イケニエは、円盤型の清掃マシンを蹴飛ばした。


  ◆◆◆◆◆◆


 数日後──異世界人一行が惑星を離れる日がやって来た。

 宮廷城での送迎食事会の最後に、女帝サドナンデスは自分の性癖余興を見てもらいたいと言った。

「これは、朕のコトを深く知ってもらいたいから。客人には毎回披露しておるのじゃ……いつもの下等生物をここへ」

 女性の召使いたちが、鎖に繋がれた半透明な巨大ナマコかウミウシのような生物を連れてきた。

 食道も半透明なので、飲み込んだモノが丸見えになる。

 サドナンデスは、興奮した様子で衣服を脱いでワンピースの水着姿になって半透明な巨大生物に言った。

「はぁはぁはぁ……さぁ、いつものように朕を飲み込むのじゃ」


 半透明な巨大軟体生物は、サドナンデスを頭から呑み込む。

 軟体生物は、鎖で縛られた先へはサドナンデスを呑み込めないようになっていた。

 下半身を生物の口から外に出したサドナンデスが、恍惚とした表情で召使いたちに向って言った。

「はぁはぁはぁ……さあっ、朕のお尻をムチで叩くのじゃ」

 召使いたちが、ののしりながら女帝のヒップをムチで打つ。

「変態女帝!」

「変態女王!」

「変態女帝!」

「変態女王!」


 打たれるたびに、頭を下にして忘我した女帝の口から享楽の声がもれる。

「あふぅぅぅ、これじゃ朕が求めていたモノは、もっとムチで臀部でんぶを叩いて、ののしりの言葉で朕を責めるのじゃ……あぁぁぁ、気持ちいいのじゃ」


 イケニエが召使いの一人からムチを奪うと女帝のヒップを、ののしりながら叩きはじめた。

「面白そうだからオレにもやらせろ、このメス豚! ド変態女!」

 途端に呑み込まれている、サドナンデスの表情が険しくなる。

「お主、今なんと言った……朕を侮辱すると許さんぞ、ムチ打ち百叩きの刑じゃ」

 召使いたちのムチが一斉に、イケニエに向けられる。

 いつの間にか、イケニエに蹴飛ばされた清掃マシンもムチ打ち刑に加わっていた。

「なんでぇ、オレだけえ!」


 ムチ打ちされているイケニエを腕組みをして眺めながら、カミュが呟いた。

「神は死んだ、この世界は不条理で満ちている」

 異世界人たちの宇宙の旅はまだまだ続く。

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超異世界女型要塞【プルシャ】姉型~異世界の宇宙〈ソラ〉は五分前に爆誕しました~ 楠本恵士 @67853-_-

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