異世界人【フィリア】星域へ

第8話・知的生物種族蒐集家女帝『サドナンデス・フィリア』登場……たぶん

 異世界宇宙を進む、超異世界女型要塞【プルシャ】の船内では、大ホールで食事会が開催されていた。


 見たことも無い食材の料理に、蛮族料理人のミスジ・ハラミは興味津々で目を輝かせる。

「うわぁ、ナニこれナニこれ! ボクが見たことも無い食材の料理ばかり……プルシャ、教えて、この肉なに?」

「それは、四種肉カルテットミートです。宇宙ブタ、宇宙ウシ、宇宙ニワトリ、宇宙シャケの四種類の最高級の肉味を同時に味わえます」

「食材はどこから?」

「すべて、船内で調達されています……近いうちに食物エリアに案内しますから、見学しますか?」

「見たい、見たい」


 その時、豪快に料理皿がひっくり返る音が響き。

 ウェイトレス姿のクー・ロンが、やっちまったという顔で頭を掻く。

「やっちまったぜオレ。まっ、どうせ調理ロボットが作る料理だから、また調理させればいっか」

 その言葉を聞いたハラミが、怒りの形相で戦斧の柄尻を床に打ちつけると、クーに向って言った。

「良くない! その発言は調理人に対する非礼だ、訂正して謝れ!」

「はぁ? なに言っているの、異世界人の蛮族料理人」

 クーは悪びれた様子もなく、開き直った口調で言った。


「元々、オレは配膳アンドロイドだったんだよ──いつも、派手に容器に入った料理を床にぶちまけていたぜ。あまりにもドジっ娘過ぎたので、宇宙船のオペレーターアンドロイドにリストラされた……そのために、時々は敵戦艦の光弾軌道を計算間違いするぜ、ワイルドだろぅ」


 円盤型の掃除ロボットが、床に散った料理を片付けているのを眺めながらハラミが言った。

「とにかく、ボクを厨房に案内しろ。料理人に礼が言いたい」


「調理しているのは、オートメーション自動化された調理マシンだけれどな……あっ、一人と言うか一体。職人気質の料理人ならいるか、アレとなら異世界人の蛮族料理人とも気が合うかも知れない……ついて来い、厨房に案内してやるから」

 クーとハラミが、大ホールから厨房へと消えると、下半身が触手タコ型宇宙人のピピが言った。


「それでは、異世界人のみなさん……女型要塞【プルシャ】名物の〝脱皮温泉〟はいかがですか? 一皮剥けてスッキリしますよ」

 カミュがピピに訊ねる。

「脱皮温泉ってなんだ? なんとなく、危険そうなネーミングだが」

「大丈夫ですよ、あたしは結構あの温泉好きですぅ。プルシャには娯楽施設もそれなりにありますから楽しんでみては……元々が都市型宇宙船ですからぁ。パイも行く?」

 黄金色の飲み物を飲みながら、金属生命体のパイ・ライトが言った。

「あたしは、先日行ったから遠慮しておく……脱皮した皮をもらえば、加工してまた自分が着る生皮にするから」


  ◇◇◇◇◇◇


 ハラミを除いた異世界人の一行は、ピピ・リマに案内されて。ドーム型の建物に到着した。

 建物の中にある脱衣ルームで脱衣した一行は、広いホールに立った。

 メリノが首をかしげる。

「何も無い場所だぞ……風呂は?」

 ピピが触手を動かしながら言った。

「ミストシャワーを浴びてから、脱皮をするんですぅ……ほら、はじまりましたぁ」

 天井から、ミストが噴出されてドーム内に満ちていく。ミストは裸体を濡らすと徐々に噴出が弱まっていく。

「見本を見せますから、こんな風に脱皮するんです……えいっ」

 そう言うとピピは、頭から体皮を一枚スルッと脱いでしまった。

「ほら、簡単でしょう……一皮剥けるとスッキリしますよぅ」

 ピピは脱いだ皮を車輪が付いた、ロボットカゴに放り込んだ。


 カミュが、首の後ろに手を回す。

「おもしろそうだな、一丁やってみるか……この辺りから脱げそうだな」

 カミュがスルッと皮を脱ぐ。

「思っていたよりも、脱皮をするってのは簡単だな」

「拙者も」

「あたしも」

 異世界人たちが次々と脱皮する。


 メリノは、調子に乗って連続して脱皮する。

「おもしれぇ! どんどん脱げるぜ!」

 ピピがメリノに注意する。

「あっ、脱皮は数回でやめておいてください……脱ぎ過ぎると血管まで浮いて見える、人体模型みたいになっちゃいますから」


 腐れ聖女ドール・ジも脱皮をしたが、他の異世界人とは異なった脱皮体質変化が起こった。

 ゾンビ皮が体から離れると、中から茶色のスポンジ体聖女が現れた。

「あはっ、脱皮をしたら体質変化してしまいました……ゾンビ臭が消えてゾンビ・レディから、湿ったスポンジ臭のスポンジ・レディに変わってしまいました」

 スポンジ・レディになったドールの近くにいつもいる、モンスターボール生物たちも脱皮をする。

 リズムが目を細めて、脱皮を果たしたモンスターボール生物たちを見る。

「あなたたち……誰?」


 毛皮が脱げてツルンとしたワーウルフ。

 牙が取れて可愛らしい子供顔コウモリのヴァンパイヤ。

 もはや、頭に皿がある半魚人のカッパ。

 一番の変化は、包帯が無くなって乾燥した素顔の即身仏顔になったミイラだった。


 ワーウルフに毛が一瞬で生えて。

 ヴァンパイヤが、大人コウモリの牙顔にもどり。

 カッパのウロコが剥がれて、元のカッパにもどり。

 包帯が巻きついて、ミイラに変わる。


「みんな脱皮をして、スッキリしたな……アレ? イケニエは?」

 カミュが周囲を見回すと、見慣れない少女の姿があった。


 カミュが見慣れない少女の、頭から皮を引っ張り剥ぐと皮の下から裸のイケニエが現れた。

 イケニエにボディブローをするカミュ。

「どさくさ紛れで、二つ前の前世の姿にもどっているんじゃねぇ!」


  ◇◇◇◇◇◇


 そのころ、厨房では──ハラミは、オートメーション自動化された調理マシンの細長い金属箱から。ベルトコンベアーに乗って次々と出てくる料理に言葉を失っていた。

「これが料理人? この無機質な機械が? 人間の料理人は?」


 クーが、ハラミに言った。

「人間じゃないが、料理長なら、あそこの椅子に座っているぞ」

 クーが指先で示した先には、銀色の円筒形胴体、コック帽子をかぶったような銀色の円筒形頭、細い金属のロボット手足で料理人エプロンをしていた。

 細長の四角い目と、口をした等身ロボットが、キセルのようなモノを口に咥えて休憩している。

 レトロなロボットの近くには調理台があり、輪切りにした丸太をそのまま使った調理板があった。


「料理長『源サン』──神の味覚回路を持つ匠ロボットだ、あのキセルは格好つけのダミーキセルだ……現サン、異世界人の料理人が厨房を見たいと言ったから連れてきた」


 源サンが、細長い目を点滅させながら言った。

《それが、プルシャの姐御が話していた異世界人かい……なるほどな》

 椅子から立ち上がった源サンが、ハラミに近づく。

《ふ~ん、調理マシンの若造よりは味はわかりそうだな……おめぇ、名前は?》

「ミスジ・ハラミ……源サンは、この厨房で何をしているの?」


《オレか、オレの仕事は味と盛りつけの最終チェックよ……調理マシンの作る料理は均一化されていて、料理人の魂と心がこもっていねぇ……異世界の料理人と言ったな。悪いが調理の腕前を試させてもらうぜ》


 そう言うと源サンは、業務冷蔵庫の中からナゾ肉の塊を取り出してきて、調理台の上に置いた。

《この肉を調理してみな……美味い料理に仕上げたら、この厨房への出入りを認めてやる》

「約束だよ」

 ハラミがナゾ肉を戦斧でスライスと切り刻み、深めの皿に入れるとナゾ肉の煮込み料理が完成した。


《不思議な調理方法だな? 魔法か、どれ実食を》

 源サンが、完成した料理を口に運んで実食する。

 源サンの手から和箸が床に落ちる。

《こ、これは……う・ま・い・ぞ・ぅぅ!》

 源サンの口から、光線が天井に向けて放たれた。


 それを見てクーが言った。

「久しぶりに源サンの〝うまいぞぅ光線〟を見た……喜べ異世界人、源サンに認められたぞ」

「異世界人じゃなくて、ボクのコトはハラミって呼んで。これからは、君のコトもクーって呼ぶから……クーって呼ばれるの嫌い?」


「いや、嫌いじゃないオレのコトはクーと呼んでくれ……まさか異世界人の友だちが、アンドロイドのオレにできるなんて想定外だ」

 そう言って、クー・ロンは唇の端を少しだけ上昇させた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る