混"色"マッチング

nira_kana kingdom

混"色"マッチング

 黒田清臣くろだきよおみは何の変哲もない普通の大学生だ。サークルに所属したはいいものの半年で幽霊化し、勉強も赤点ギリギリ、休みの日は家でごろごろという何とも典型的な自堕落大学生に成り下がっていた。そんな彼だが一つだけ不満に思っていることがあった。


 そう……、出会いがないことである。


 高校生の時彼はバスケ部に所属しており、イケメン俳優に似ていたせいか女子人気も高かった。彼女も常にいたが、大学生になってからというものただのぐうたら大雑把野郎になっていた。見た目にも気を使ってないため、髪はボサボサ、目には隈を浮かべ、服装は四六時中グレーのパーカーだ。


 そんな彼に彼女ができるはずないのだが、彼は未だに過去の栄光にすがっていた。


「あ~あ、どっか出会いの場さえあればなぁ。彼女なんてすぐできるんだけどなぁ。」


 が彼の口癖である。


 そんなこんなで日々は過ぎ去っていき、いつの間にか夏になった。大学は夏季休業に入り、学生はまさに青春を謳歌する時期だ。旅行に行くなり、部活をやるなり、恋人と祭りに行って花火を見るのも一興だろう。


 しかし黒田は相変わらず家でゴロゴロしていた。冷房をガンガンかけて部屋でネトフリを見ていた。すると彼のスマホに一件の通知が入った。


 サークルの知人、赤城透あかぎとおるだ。最近全く会ってなかったのになぜと思いながら、LINEの画面を開く。


『3日後に合コンやるんだけどさー、人数足んなくて……。よかったらお前も来るか?』


 彼は返事を打とうとして指を止めた。ゆっくりと天井に視線を移す。


「合コンか、そういえば大学生っぽいことをしてこなかったもんなー。行ってみるのもいいかも。」


 これは彼女を作るチャンスだと思い、黒田は二つ返事で了承した。




 ◆◇◆◇◆




 合コン当日、赤城が予約したという高級フレンチに向かった。大学生には少し敷居の高そうな店で少しばかり彼は萎縮した。赤城の奴奮発したなと思いながら入店した。それと同時にもうちょっと着飾って来たらよかったとも思い、後悔した。


「おーい、黒田こっちこっち!」


 店の奥のテーブルで手を振る赤城の姿が見えた。


「ワリィ、ちょい遅れた」


「気にすんなって!


 相手はまだ来てないっぽいからよー」


 テーブルの端の椅子に黒田は腰かけた。腰掛けてから赤城を挟んだ向こう側に見知らぬ男がいることに気付いた。


「あの……、そちらの人は?」


「ああ、高校の時の後輩だ。晴山碧はるやまあおっつーんだ。今回の合コンのセッティングとか店の予約とか碧がやってくれたんだぜ」


「あ、どうも。俺、黒田清臣。赤城とは同じサークルなんでよろしく」


「おお、こちらこそ!


 あっ、早速お相手の方が来たようです!」


「おっ、ようやくか。碧、黒田今日は頑張ろーな!」


 男三人、謎の契りを交わした。


「ではまず軽く自己紹介といきましょうかね」


 晴山がご機嫌な口調で語りかける。それもその筈。目の前には彼らでは釣り合ってないんじゃないかと思えるほどの容姿端麗な美女が三人も並んでいた。そんな彼女達と付き合えるかもしれない状況下でテンションの上がらない男はいないだろう。


「あっ……、じゃあ私から。初めまして岸辺檸檬きしべれもんといいます。○✕大学の2年生です。今日はよろしくお願いします。」


 岸辺檸檬はショートヘアに上品なメイクを施した気品高そうな人だ。きっとお洒落が好きなんだろうと黒田は思った。


「じゃあ次うちね。はーい、うち椿翠つばきみどりっていいまーす。美容の専門学校にいってまーす。2年目でーす。今日はご飯ありがとねー、すっごく楽しみだなぁ!」


 椿翠は黒いミディアムヘアにピンクのメッシュが入っている。美容の専門学校に通ってるだけあってメイクは三人の中で一番上手い。服装も男を誘惑しそうな肩が透けているものを着ている。ギャルっぽくて明るい雰囲気……、これはこれでアリだなと黒田は思った。


「最後あたし。XYZ大学3年の白縫美琴しろぬいみこと。今日は誘ってくれてありがと。よろしく。」


 白縫美琴はロングの茶髪で内向きにカールさせていた。清楚っぽい見た目だが何だか気だるそうな雰囲気を感じる。正直この中だったら一番ないと黒田は感じた。


「じゃあ今度こっちから。僕は晴山碧っていいます。SS大学の1年生で保護猫サークルに入ってます。今日はよろしくお願いします!」


 晴山は童顔で身長も低めだ。髪型はアッシュグレイのマッシュで丸眼鏡をかけている。猫みたいな癒し系男子で年上のお姉さんに可愛がられそうだと黒田は思った。


「次俺。俺は赤城透だ。SS大学3年生バスケサークルに入っている。隣の黒田も同じサークルなんだが最近来てなくてな。まあそれは置いといて、今日はよろしく!」


 余計な一言が多い赤城は筋骨隆々で男らしい体つきをしている。正直彼女には困らないと思っていたが、そうでもないのかと黒田は思った。


「最後に、ご紹介預かりました、黒田清臣っていいます。SS大学3年生で一応赤城と同じバスケサークルに入ってまーす。ええと……、今日はよろしくお願いします」


 たどたどしい感じで合コンが始まった。


「じゃあまずはお互いの趣味について教え合いませんか?」


 晴山が意気揚々と提案した。


「あー、いいですね」


「うちもそれサンセー!」


「……少しだけなら」


 一人を除いて他は乗り気のようだ。


「ええとまず自分から……。自分作物を育てるのが好きで農業高校に通ってたんですよ、だから今一人暮らしなんですけどベランダでプランター栽培したり、大学でも圃場の一画借りてスイカ育てたりしてます」


 晴山はどうやらガーデニングが趣味らしい。まあ、黒田もSS大学の農学部だから彼の趣味についてある程度理解はできる。ただ、合コンで語る趣味にしては悪手じゃないかなと彼は思った。保護猫サークルとかそういう活動の話をしたらいいのにとは言い出せなかった。


「え、晴山さんてガーデニング趣味なんですか!


 実は私もなんですよ!」


 まさかの岸辺檸檬がこの話に乗ってきた。これには黒田も赤城も予想外だった。この展開に晴山は喜び檸檬と意気投合したようだ。やがて二人だけで話が弾みだし、誰にも止められなくなった。


「何か向こう止まらないんで……、俺たちも何か話しますか……」


 晴山に代わり、慣れない場回しを赤城が担当することになった。


「俺はこう見えて食べ歩きというか大食いが好きなんですよ。休みの日は色んなチャレンジグルメとか巡ったりしてるんだぜ」


 赤城、そういえばそんな趣味あったなと黒田は思った。でも大食いはナンセンスだと思った。中々赤城の食事量に合わせられる女性なんかいないと黒田は知っていた。彼は過去にバスケサークルの合宿でごはん20杯以上おかわりして皆をドン引きさせていた。さすがにこれは共感されないだろうなと黒田は思った。しかし、


「え!


 赤城チャン大食い好きなの!?


 うちもなんだけどー、意外ー!」


「おっ、そうか?」


 またまた意外にも椿翠が話に乗ってきた。


「赤城チャンは何が一番好きなのー?」


「俺っすか……、ええと唐揚げとかトンカツとか揚げ物系ですかね」


 茶色いな~と黒田は感じた。口には出さなかったが。


「うちもうちも!


 そうだこの写真見てよ、こないだのチャレンジグルメの写真」


「ええー!ここって有名なとこじゃないですか、いいなー、俺も行きたい」


「じゃあ今度一緒に行く?」


「あああ、是非!」


 赤城と翠の会話に花開いた。またまた黒田は蚊帳の外になった。他4人が盛り上ったため、取り残されたのは黒田と白縫美琴だけなのだが……。


「あの~、白縫さんって何サーですか?」


「入ってない、ずっとバイトばっか」


「へぇー、あの~、ちなみに何のバイトを?」


「古着屋の店員……」


「あ~、だからお洒落なんですね!」


「そ……、ありがと」


 黒田と白縫だけ絶望的に盛り上らなかった。黒田は何とかしてこの状況を打開しなければならないと思った。何とか話題を変えようと四苦八苦した。


 しかし、対して盛り上らないまま15分が経過した。白縫も苛立ちを隠せないのか返事が適当になってきている。いや、はなからこの合コンに乗り気じゃないのかもとも黒田は感じていた。


 もういいやと思い、黒田は自分の趣味について話すことにした。


「あの……、話変わるんですけど白縫さんっえ音楽とか聞かれます?」


「まあ、それなりには……」


「あ、ホントですか!


 自分も結構聴くんですよ」


「ふーん、で何を聴いてるの?」


GLAYです、親が世代でその影響で自分も……」


 そのワンフレーズを発した瞬間、白縫の目の色が変わった。


「待って……、GLAYって言った?」


 明らかに前のめりになって来た。あまりの変貌ぶりに黒田も驚きを隠せなかった。


「へ?」


「あたしも……、GLAYファンなの!」


「ホントっすか!


 いやー、マジで!?」


 まさかここで趣味が被るとは思わなかった。黒田にとっては不幸中の幸いと言うべきだろうか。戦況は有利に傾いていた。


「そうなの!


 知り合いに全然聴いてる人いなくて寂しかったんだあたし……」


 今がチャンスだと言わんばかりに黒田は猛プッシュを開始した。


「そうなんですよねー、分かります!


 あ、よかったら好きな曲とか教え合いません?


 今度よかったらライブも行きましょうよ!」


「是非!」


 その後、3組とも話が盛り上がり、無事カップリングが成立したという。


 めでたし、めでたし。

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