勇者はスーパー戦隊パーティーを組んでみたい

暁太郎

何で俺の鎧は青いんだよ!

「嫌だ! 赤がいい、赤い鎧は無いのかよ!」


 城の謁見の間で勇者が地団駄を踏んで我儘を喚き散らしている。駄々をこねるガキと化した王国の切り札に、王はしどろもどろになりながら宥めようとしていた。


「お、お待ち下さい勇者どの、その鎧は月の魔力を加護とする、この世に二つとない防具なのです。その輝きは下級の魔族ならば触れるだけで逆に――」

「そーーいう事じゃあないの!! 色なの! 色っ。俺はレッドになりたいんだ!」

「れ、レッド……?」

「せっかく異世界で勇者になったんだからさぁ、やりたいんだ、スーパー戦隊モノ! 当然、リーダーの俺はレッドでだなぁ――」

「ままま、待って下さい! 何やら、勇者どのにコダワリがあるのはわかりました。しかし、その鎧なくてはこの先の厳しい戦いを生き抜けません」


 押しの強い勇者だったが、王も負けていなかった。魔族との決戦、国の未来がかかっている戦いなのだ。勇者の益体もない自論に巻き込まれるわけにはいかない。

 押し問答の末、何とか渋々ながら勇者に鎧を着させる事が出来た。

 しかし、勇者は要求を飲む代わりに「戦隊メンバー」の選抜を条件としてきた。


「しょうがないから、俺はクールなブルー役でいこう。だが、こうなった以上、リーダーたるレッドを選ばなきゃならない」


 リーダー、という言葉を聞いて王が連れてきたのは、王国騎士団の団長であった。責任感は強く、戦力としても申し分ない。本来なら勇者が陣頭指揮を取ってほしい所だが、致し方ない。少なくとも悪い人選ではないはずだった。


「勇者様、不詳この騎士団長、レッドたる大役を務めさせていただき――」

「ああああああ駄目だぁぁぁぁあああああああ」

「な、なんと!?」


 勇者はいきなり奇声を上げて床を転がりだした。一同が呆気に取られていると、勇者が続いて叫び倒す。


「こんな真面目くさった奴がレッドなわけねーーだろ! もっとこう、熱血で、向こう見ずで、あらゆる事に全力投球な馬鹿でないと駄目だ! こいつは、こいつはどっちかっていうとブルーの方じゃん!」

「も、申し訳ありません、勇者様のご希望に配慮できず――」

「違う違う違うぅぅぅぅぅぅ! そこに座れ! 俺が直々にレッドの心意気を教える!!!」


 突如として始まった勇者の「レッド講義」は二時間に渡った。朱に交わればレッドにしてやる、と言わんばかりの熱量を騎士団長はぶつけられ、ついに仕上がりを迎える。


「わた……俺が、レッドで……だぜ! ブルー、今日こそ、魔族たちを殲滅する為に、頑張りまし……だぜ!」

「青二才もいいとこなレッドだが、まぁそれは適宜修正していくとしよう」

「では、これで魔族退治の準備は……」

「足りねぇ!! 戦隊だぞ戦隊、あと三人いるんだよォォォ!」

「あと三人でございますだぜ!?」


 次に選ばれたのは魔術師だった。眉目秀麗の美女にして大魔法をいくつも扱える王国でも屈指の存在だが、いかんせん人付き合いが苦手なのが玉に瑕だった。

 勇者は魔術師に会うやいなや、こう言った。


「うわぁ~……服真っ黒すぎでしょ、陰キャオタクか?」

「何言ってんのかわかんないけど、とりあえず馬鹿にされてるのはわかったわ」

「そのトンガリ帽子デカすぎ……重くない? 首いわすよ? 大丈夫?」

「うるせーーーー! 勇者の勇は人の服装にケチつける勇ましさの事か!?」

「ピンクになろう」

「は?」


 突然の勇者の言葉に魔術師は目をしばたかせた。


「見かけが変われば、人も変わる。君は戦隊におけるピンクとなり、その面倒な性格を、ガビガビな服ごとキャピキャピの桃色で上書きするのだ」

「やめろ! 何がピンクよ、そんな派手で品のない色とか嫌よ!」

「そんな陰気くせー格好しといて何が品だァァァ!」

「てめーが一番品性ねーーだろーーーが!!」


 魔術師は抵抗しようと暴れるが、やがて取り押さえられて無理やりピンクのローブを装着させられた。

 すっかりキッチュな配色に染め上げられた魔術師は恥ずかしさのあまり床にうずくまって動かなくなった。


「桃の真似をしてるのかな? とりあえず、これで三人揃った」

「では次に参りま――痛ァッ!」

「チッ」

「よ、よしブルー、次はグリーンだぜですだな!」

「そうだ、もう候補は連れてきてある」


 グリーン候補は教会に務める神父だった。普段は街で奉仕活動に勤しんでいるが、強力な白魔術の使い手でもあった。

 見るからに柔らかそうな物腰、客観的な視点。文句なく勇者の求めるグリーンそのものであった。

 ただ一つを除いて。


「きみ、目がデカいね。パッチリしすぎてるね!」

「それが……何か問題でも?」

「糸目になろっか」

「いと……?」


 勇者の要求がわからず、神父は首をかしげた。


「普段はおっとりしていて優しいが、裏で狡猾な計算高さを見せる、それが俺の求めるグリーンだ! そのイメージの情勢に糸目は不可欠! ホラ目ぇ細めてホラホラホラホラ!」

「ええっと……これぐらいですか?」

「それは薄目だろうが! 逆に悪そうになってるっつーーの!」

「し、しかしこれ以上閉じると完全に見えなくなりますよ」

「頑張れ! 暗闇の中でも必ず光はある!」

「闇に閉ざそうとしてる人が言う台詞じゃないですよ!?」


 こうして、目元が異様に力んでいるグリーンが完成した。

 残る人員はあと一人となった。


「最後は……悩んだが、ブラックだ。圧倒的なまでの漆黒――」


 黒、と聞いてさっきまで丸くなっていた魔術師が鬼気迫る形相で立ち上がる。


「ちょっとォ! じゃあ私ピンクになる必要なかったでしょ!?」

「俺が求めているのは何者にも染まらぬ孤高の黒なんだよ! お前はウジウジして隅っこで座ってたら黒ずんだってだけだろーが!」


 魔術師は再びうずくまってむせび泣いた。


「黒騎士とかさぁ、ちょうど良さそうな人材いないの? レッド」

「そんな騎士は見たことねーだぜ! うおおおお、でもカッコいい気がするだぜぇぇぇぇ」

「よし、ちょっと慣れつつあるな」


 勇者はレッドの成長を見て満足げにうなずくが、ブラックの候補がまるで見当たらない。ウンウンと頭を悩ませていたところ、慌てた様子で伝令兵が駆けつけてきた。


「勇者様ッ! 魔族が、魔王が配下を引き連れて総攻撃を仕掛けてきました! 凄まじい進軍速度です、一刻も早く来て下さい!」

「なにィィィッ! まだブラックが見つかってないってのに!」

「ですが、もう猶予がないのです! あの禍々しいオーラにみな震え上がっています。お願いします、勇者様!」

「ん? ちょっとまって」

「え……?」


 伝令兵の言葉に勇者は手で静止をかけると、顎に手を当てて思案しだした。


「ど、どうなさったのですか勇者様」

「あのさぁ……その禍々しいオーラってさ……」

「は、はい」

「具体的に何色?」





「――と、いうわけで魔王くん、俺の戦隊に入って、一緒に魔王退治をやろう!」

「え、なにこれ新手の挑発?」


 調伏という名の勧誘によりブラックを戦隊に引き入れた勇者だったが、肝心の悪役がいない事に気づいた勇者は悪役を仕立てる為に国を奔走し、混乱の渦に巻き込んだという。

 後年、彼のあまりの身勝手さを指して「玉虫色」という言葉が生まれたのだとか。

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勇者はスーパー戦隊パーティーを組んでみたい 暁太郎 @gyotaro

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