この世界に色がついた物などない

雲条翔

世界に色なんてない

 私が中学生の頃の話。


 白衣を着たイケメン物理教師が教壇に立ち、やたらとイケボでこう言い放った。


「これから光の反射について教えるが、君たちに言っておく。今、目に見えている世界は、すべてまやかしだ」


 この教師は、外見だけなら女子にモテそうな、メガネの理系男子だったが、ちょっと変わり者だった。


 この話も、冗談なのか、本気なのか、笑っていいのか、教室中の生徒が答えを掴めずに、変な空気になっている。


 教師は黒板を「バン!」と強く叩く。黒板が揺れた。


「この黒板。何色に見える? 黒い板と書いて黒板だが、実際は濃い緑色に見えるだろう。真っ黒よりも、長時間見ていて目が疲れない色なんだ。でも、濃い緑色では、ない!」


 行き先が見えない、不思議なトークはまだ続く。


「私の着ているこの白衣。何色だ? 白? 違う。白い色じゃ、ない!」


 生徒たちは「この人、何を言っているんだ……?」とザワザワしだした。


「ポストは赤? リンゴも赤? 違う。赤い色ではない! 机は? 椅子は? 教科書は? 制服は? どんな色だと思う? んー、聞くまでもない、それは不正解だ。何色なのかと考えた時点で不正解なんだ」


 教師はポケットからプリズムを取り出した。

 窓から差し込んだ光で、プリズムは黒板に七色のアーチを映し出す。


「プリズムはなぜカラフルな光が見える? 光は、波長だ。もともと、光の中にいくつもの色が存在している。プリズムはそれを拾っているだけだ。ポストやリンゴは、光の中でも赤い波長だけを反射する塗料や物質にすぎない。他の色も自然界にはあるが、ポストやリンゴは反射しない。反射した光を、人間の網膜がキャッチして、赤いと思うだけなんだ」


 教師は、唖然としている教室を見渡して、こう言った。


「この世界に、色がついた物など、ない。特定の光を反射する存在と、その反射を認識する人間の目で、色という概念が成り立っているだけだ」


 記憶を頼りに再現した、実話です。濃いキャラの先生だったなー。

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この世界に色がついた物などない 雲条翔 @Unjosyow

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