第35話 真実 Part 2
【ナオの視点】
「ケンジ君…」
ケンジ君が痛みを抱えてリビングを離れていくのを見ながら、私は彼に対して同情の気持ちを抱かずにはいられませんでした。
彼が過去の出来事を語る中で、その顔には生々しい苦悩が刻まれていました。これらの告白が彼にどれだけの影響を与えたのか、深く心に刻まれた傷が見て取れました。
「はぁ…」
私は重い溜息をついて、床に倒れている価値のない義父に向き直りました。
「す、すまなかった……すべて俺のせいで…こんなことになるとは思わなかった。みんなが傷つくとは…本当にすまない……」
義父は床に崩れ落ち、部屋には彼のすすり泣く音が響きました。
「さて、いくつか質問したいことがあります。」
「…」
「なぜドラッグの取引を始めたの?」
「…卒業後、仕事を見つけることは意外にも簡単だった。しかし、私が得た仕事は、その努力に対して報酬が少なかった。そして、ある人と出会い、薬物の取引を始める機会を提供された。私はそれに興味を持ち、どれくらいのお金が稼げるか知りたくなった。給料はそれほど大きくはなかったが、仕事は簡単だったので、続けた。」
「じゃあ、なぜドラッグの取引をやめようと思ったの?」
「…リョウタが彼の母親を失った時、私は逮捕されて刑務所に入るリスクを冒すことはできないと気づいた。また、彼が父親を失うのは望ましくなかった... 皮肉なことに。」
「はあ… また同情を引こうとしているのかな…」
「どういう意味?」
「いや、なんでもないよ。」
「…」
「お母さん、私も質問があるんだけど。」
「私?」
「うん。二人が付き合ってた頃、彼の腕にあるこのタトゥーに気づかなかったの?」
私はお母さんに写真を見せました。
この疑問はずっと心に引っかかっていました。
「うーん、気づかなかったかも。意識してなかったのね。私たちがまだ付き合ってた頃、彼の腕を見るような場面はなかったから。」
「暑い日とかは?」
「彼は袖を肘までしかまくらなかったわ。このタトゥーは腕の上部にあるから、見えなかったのよ。」
お母さんはタトゥーのある場所、腕の上部を指差しました。確かに、これなら気づくこともなかったはずです。付き合っていた頃に怪しむ理由なんてなかったわけですね。
数秒後、お母さんは立ち上がり、義父を見つめました。
「あなた、離婚したいわ。円満に話し合って進めるか、それとも裁判で戦うか、どちらかにするか決めて。」
「……わかった。書類にサインするよ。今夜は別の場所に泊まる。」
彼は重いため息をつきながら立ち上がり、ジャケットを掴んで家を出て行きました。その後に残されたのは、感じられる静寂だけでした。
「本当にこれでいいの?まだ彼に言いたいことはない?」
「ナオ、仮に言ったところで何も変わらないわ。それよりも、あなたが真実を明らかにしてくれたことに感謝の気持ちを伝えたいの。」
お母さんが私を抱きしめると、涙が彼女の頬を伝い、彼女の体は感情の重みで震えていました。その瞬間、過去のすべての痛みと混乱が一気に表面に現れ、彼女を圧倒していました。
しかし、涙と抱擁の中で、私は……何も感じなかった。
私が真実を明らかにしたのは、お母さんを救うためではなく、この家族を引き裂くためだった。お兄ちゃんが最も彼女を必要としていたとき、お母さんが背を向けたことを思い出さずにはいられなかった。
その裏切りの記憶が、今の彼女に対する同情を覆い隠していた。
お母さんが泣き止むと、私は新鮮な空気を吸うために外に出ました。ドアを開けると、ケンジが壁に寄りかかり、空を見上げていました。
「ケンジ君?まだいたの?もう帰ったかと思った。」
「約束しただろう?全部終わったら、一緒にリョウタに会いに行くって。」
「ああ、すっかり忘れてた。ごめん。」
「今日の出来事を考えれば、無理もないよ。」
「真実を明らかにするための長い旅だったよね?」
「うん、痛みのある旅だった。本当は起こってほしくなかった。」
ケンジ君は拳を握りしめました。
彼の緊張を見ると、私はためらいましたが、どうしても尋ねなければならないことがありました。
「ねえ、ケンジ君……もし彼の秘密が誰にも知られなかったほうが良かったと思う?私たちがそれを明らかにしなかったなら、兄さんは刑務所にいないだろうし、お兄ちゃんも病院にいることはなかったし、君も彼の実の息子だと知ることはなかった。」
ケンジは空に視線を固定したまま、薄暗くなる夕焼けを見つめ、内省的で決然とした混じった声で話し始めました。
「誰にもわからない、もしかしたらその方が良かったかもしれない。でも嘘や秘密っていうのは……内側からすべてを蝕むんだ。ただ俺のことだけじゃなく、君のこと、リョウタのこと、みんなに関わっている。欺瞞の網の中で生きるなんて……それは生きる方法じゃない。」
彼の言葉が空気中に漂い、その日に明らかにしたすべての重みを感じさせた。私は彼の言葉に深く共感し、その真実が私の内側に深く響くのを感じた。この旅は私たちの人生の構造を引き裂き、私たちのアイデンティティを形作ってきた隠された真実を暴露した。
「真実が明らかになると、痛かった。」
ケンジは続け、彼の声には啓示の痛みがにじんでいた。
「私たちが知っていると思っていたすべてを粉々にした。でも、どんなに痛くても、真実と共に生きる方が、嘘と共に生きるよりもましだ。少なくとも今は、このすべての灰の中から、癒しを始めて再構築することができる。」
私はゆっくりとうなずき、今直面している厳しい現実を認めました。欺瞞のベールが取り除かれ、その下にある冷酷な真実が露わになった。それは動揺するものだったが、私たちが前に進むためには必要なことだった。
「俺はずっと、自分が本物だと思っていたものを信じて生きてきた。」
ケンジは後悔の色を含んだ声で告白しました。
「自分が誰なのか、自分の家族が誰なのか、知っていると思っていた。でも、それはすべて嘘だった。真実を知ることは……バンドエイドを剥がすようなものだ。痛いし、地獄のように苦しいけど、それが唯一の傷が癒える方法なんだ。」
彼の視線は空から地面に移り、過去の混乱について考えていた。
「昔は、無知は幸せだと信じていた。真実を知らない方がいいと思っていた。そういう側面も確かにあるだろう。でも、真実に直面すること、どんなに痛くても、それは解放されることなんだ。欺瞞の鎖から解放される、偽ることの重荷から解放されるんだ。」
私はケンジを見つめ、その顔に刻まれた葛藤を見ていた。痛みを抱えながらも、彼は新たな明確さを持って向き合っているのが明らかだった。彼の自己発見の旅は、直面するべき真実を掘り起こしてきた。
「まあ、過去は過去だ。これからのことに集中しよう。リョウタに会いに行こうか?」
「うん!」
私は急いで中に戻り、ジャケットを取って病院へ向かいました。お兄ちゃんに再び会うのが待ち遠しかった。
---
【お父さんの視点】
ここはどこだ?! 暗くて何も見えない。息をするのも苦しい。
私は動こうとしたが、手が拘束されているように感じた。恐怖と混乱が押し寄せ、頭に袋のようなものがかぶせられていることに気づいた。心臓がバクバクと音を立てて鳴り、恐怖と混乱が私を捕らえた。いったい何が起こったのか?
この状況に至るまでの出来事を思い出そうとした。家を出た後、すべてがぼんやりとしていた。頭に突然衝撃を感じた後、暗闇に包まれた。襲われたのか?誘拐されたのか?
考えが次々と頭をよぎり、そのどれもが恐ろしいものであった。空気が重く、明瞭に考えるのが難しかった。何か手掛かりになる音を聞こうと耳を研ぎ澄ました。
その時、かすかな音が聞こえた—硬い床の上を歩くような音。
カツ、カツ、カツ。
心臓が一瞬止まりそうになった。誰かが近づいているのか?音が突然止まり、再び不安な沈黙が私を包んだ。
叫ぼうとしたが、声が喉に詰まって出てこない。恐怖と混乱が私を捕らえ、周りの暗闇が四方八方から迫ってくるように感じた。ここに目を覚ましてからどれだけの時間が経ったのか見当もつかない。
拘束と息苦しい暗闇の中であがきながら、恐怖がじわじわと胸に染み込んでいった。この先、何が起こるのか?
「そろそろ時が来たな。」
心臓が胸の中で激しく鼓動し、息が荒く、短くなっていくのを感じた。突然、頭にかぶせられた袋が引き剥がされ、目が慣れるように瞬きを繰り返した。
「久しぶりだな。」
何年も聞いていなかった声。胃がひっくり返るような感覚で顔を上げると、目を見開き、恐怖がこみ上げてきた。
「ボス……」
目の前に立っていたのは、かつて麻薬取引をしていた頃のボスだった。その存在は、私が覚えていた通り、指導的で不安を掻き立てるものだった。彼は年を取り、顔には年齢とストレスの刻まれた皺があったが、目にはかつての鋭い光が宿っていた。
私は部屋を見回し、周囲に立つ複数の男たちの冷たく敵意に満ちた表情を見た。
彼らの目には軽蔑がうっすらと見え、怒りと嫌悪が混ざり合い、私の背筋をぞっとさせた。
「クアハハ、まだ俺のことを覚えているようだな。」
「ここはどこだ?」
「ここはな、すべてが始まった場所だ。お前の行動のせいで俺たちが罰を受けた場所だ。さあ、何をしたか覚えているか?」
「わ、わからない…」
「とぼけるつもりか。まあ、愚か者であることもお前の特徴の一つだ。だから、予想通りだな。」
彼は立ち上がり、私に影を落とすようにそびえ立った。その足音が不吉に響き渡り、彼は数歩離れて背を向けた。空気が緊張し、これから何が起こるのかという予感に満ちていた。心臓がバクバクと音を立て、私は耐えようと身構えた。
突然、彼は急に振り返り、一瞬のうちに、無情な動作で拳を私の腹に叩き込んだ。その衝撃はまるでハンマーのようで、息が詰まるような痛みを感じた。
「ぐはぁっ!」
私は痛みで身体を折り曲げ、息をするのも苦しい状況だった。視界がぼやけ、呼吸するたびに拷問のような苦しみが伴った。
部屋がぐるぐると回り、警戒して立っている男たちの顔が陰惨な霞の中に溶け込んでいくように感じた。
「とぼけていても無駄だ。もう一度聞く、何をしたか覚えているか?」
「……」
「答えないのか?」
「ぐはぁ!」
私は再び殴られた。世界はますます速く回り、頭蓋骨全体に痛みが広がった。
視界の中で踊る星々に目をしばたきながら、焦点を合わせようとする。鼻から血が滴り落ち、汗と恐怖にまみれていた。男たちは無表情で見つめ、その顔は冷酷で、断固としていた。
「最後のチャンスだ。何をしたんだ?」
ボスは低く唸り、声には危険な響きがあった。
もう嘘をついても意味がないことは分かっていた。今や真実を告げるしかなかった。わずかでも、それが私の唯一のチャンスだった。
「私は…金を返さなかったんだ。最後の仕事で…金を盗んで逃げたんだ。」
ボスは後ろに寄りかかり、冷酷な笑みが広がった。
「認めるのはそんなに難しかったのか?」
答えようと口を開いたが、言葉が喉に詰まった。ただ彼を見つめることしかできず、心臓が胸の中でドキドキと高鳴り、恐怖が声を絞めつけていた。
彼の表情が暗くなり、一瞬の楽しさは消え去った。
「お前のせいで、俺は大変な目に遭ったんだ。殴られるだけで済んで運が良かった。でも次は?」
彼は一瞬止まり、その脅しを重苦しく残した。
「次回は、運が良くないかもしれない。」
背筋に寒気が走った。彼が振り返り、警戒して立っている男たちに目を向ける。声は冷静で、ほとんど無関心な様子で命令を下した。
「お前ら、本当の問題ってのがどんなものか、彼に教えてやれ。自分の行動の結果を理解させるんだ。」
ブーツが私の脇腹にぶつかり、私は本能的に身を丸めて攻撃から身を守ろうとした。蹴りやパンチの一撃一撃が、自分の行動の代償を思い知らされるようだった。男たちは容赦なく、攻撃は計画的で執拗だった。
口の中に血の味が広がり、意識を保とうと必死に耐えた。視界は痛みの波とともにぼやけていった。
部屋には私の苦痛の音が響き渡った。苦しみのうめき声、肉に拳が当たる鈍い音、冷酷で断固としたボスの声。時間は伸びたように感じられ、一秒一秒が永遠の苦しみのようだった。
ついに攻撃が止み、私は冷たい床の上に横たわり、体は青あざと切り傷だらけだった。一呼吸するたびに苦しみが伴い、涙と血で視界がかすんだ。自分の心拍が耳の中でドラムのように響き、部屋にこもった沈黙をかき消した。
思考をまとめる暇もなく、荒々しい手が私の髪をつかみ、鋭い一撃で頭を引き上げた。痛みが頭皮と首を駆け抜け、目を強制的に開かされ、冷酷で断固としたボスの目と対峙した。
「俺の金はどこだ?」
「なくなった、全部なくなった。」
「なくなった? どこに?」
唾を飲み込んだ。口の中に血の苦い味が広がる。
「俺は…使ってしまったんだ。」
「何に? 何に使ったんだ?」
彼の手が私の髪をつかみ、激しく揺さぶられた。
「指輪に…二番目の妻のために。指輪に使ったんだ。」
彼は私を見つめ、信じられないという表情と怒りが交錯していた。そして、嫌悪感を込めたうなり声を上げながら髪を離し、私を突き飛ばした。私は床に倒れ、痛みを伴って体が崩れ落ちた。
「指輪? 俺の金を指輪のために盗んだのか?」
かろうじて答えられる状態で、体中が痛み、恐怖と痛みで頭が混乱していた。部屋は回転しているように感じられ、彼に焦点を合わせようと必死だったが、彼は背を向けて肩を怒らせていた。
「俺から金を盗んで、指輪に使うつもりか? 無事で済むと思うなよ?」
彼は再び私の方に向き直り、その目は冷たく計算しているようだった。
「お前は俺の靴の泥以下の価値しかない。でも、金は必ず取り戻す。」
背筋に冷たい寒気が走り、彼の視線が私を見定めているのが分かった。
「分かるか、人間のクズでも市場はある。」
彼は続け、残酷な笑みを浮かべた。
「人身売買だ。お前ならそこそこの値段がつくだろう。盗んだ金全額には届かないが、それでも始まりにはなる。」
言葉が腹にパンチを食らったように衝撃を与えた。人身売買。その恐ろしさが胸に突き刺さり、パニックの波が押し寄せてきた。
「いや、頼む! 金は用意するから。もう少し時間をくれ!」
「お前にはチャンスはあった。」
彼は冷たく言い放ち、部下たちに向かって命令した。
「連れて行け。買い手を探せ。朝までに奴を消せ。」
男たちが前に進み出て、その顔は硬く、容赦がなかった。彼らは荒々しく私を引っ張り上げ、立たせた。私は弱々しく抵抗したが、無駄だった。彼らの手は鉄のように硬く、私は殴られ、弱り切っていたので抵抗できなかった。
「いやだ!頼む!!必ず返すって誓うから!」
しかし、私の嘆願は聞き入れられなかった。ボスはただ冷酷な満足感を漂わせながら見ているだけで、部下たちは私を引きずり出していった。自分の運命を悟った時の衝撃は圧倒的で、喉から嗚咽が漏れた。
部屋から引きずり出される時、最後に見たのはボスの冷酷で無情な目だった。ドアが私たちの背後で音を立てて閉まると、それが私が最後に見た日の光だった。
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【ケンジの視点】
俺たちは現在、彼の部屋へ向かって進んでいた。
「起きてるかな?話したいことがたくさんあるんだ。」
「ハハ、きっとそうだね。でも、もし寝てたら、また今度にしよう。」
「うん。できるだけ早く元気になってほしい。」
彼の部屋の前に立ち、ドアを開けると…
「お兄ちゃん、起きてる?」
「リョウタ、約束通り、戻ってきたよ。」
しかし、俺たちが部屋に着いたとき、彼はもういなかった。
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遅くなってすみません。次の章を書く気になれませんでした。これで第2巻の終わりです。次の巻が最終巻になります。全てを書き終えるように頑張ります。読んでくださってありがとうございました。
もう遅い...すべてを失った @Foas
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