第14話
裕の葬式を終えた数日後、私は最後に裕と訪れた公園にいた。
四十九日法事にはまた帰ってくるけれど、明日には一度大学に戻らなければならない。だから少しだけ寂しくなって、気付けばここにきてしまった。癖のようなものだろう。
五年の月日を経ても、相変わらずこの公園は人気が少なく、しんと静まっている。隣に誰もいないからか、ベンチに座るもやけに広く感じた。
過去にタイムリープしたことで、未来が少しだけ変わった。それは裕のピアスや、時間軸の変動だけではなかったようだ。
これは私の憶測でしかないけど、裕は私が五年後の世界からきたことを薄々勘づいていたんじゃないだろうか、とよく思う。そうでなければ、自分のために生きろなんて簡単に出てこないだろうし、「未来」なんて単語も早々口にしないはずだ。
それを確かめる方法はもうないから、これはいつか私がそっちの世界に行くときにでも答え合わせをするとしよう。
私はスマホを操作して、裕とのメッセージのやり取りを開く。これに気付いたとき、私は彼にすべて見透かされているような気分になった。
『君が幸せでありますように』
顔を上げると、何十年も前から植えられた桜の木々が風で揺れた。よく見れば、桜の蕾がいくつか見受けられ、今か今かと春を待ち望んでいるようだった。
「今年も綺麗に咲くといいね、裕」
私は右耳に付けた赤いスタッドピアスをそっと触れる。
もうすぐ春がやってくる。蕾が芽吹く季節だ。
でもここに君はいない。それでも季節は巡っていく。
優しい風に背中を押されるように、私はベンチから立ち上がった。
【芽吹く季節に君(だけ)がいない 完】
芽吹く季節に君がいない 橘 七都 @flare08
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