天翔ける船

坂崎文明

緑色の光が飛び交う空で

 武蔵野台デジタル田園都市はその真の姿を現して、天空に舞い上がった。

 それは太古から関東の武蔵野台地で眠っていた、全長十キロメートルほどの巨大な白銀の宇宙船だった。

 宇宙船は円錐形で動力源は不明で、内燃機関ではなく重力制御で飛行しているようだった。

 その巨大な宇宙船の上部のほぼ中央にこの都市があったのだが、宇宙船がまるで液体金属のように都市を包み込んで、内部に取り込んでしまった。

 上空の衛星から指向性エネルギー兵器Direct Energy Weponの緑色の光が太古の宇宙船に照射されるが、白銀色の幕のような物で緑の光が弾かれているようだった。


「全天モニターに敵の衛星を補足しました。映し出します」


 全国のデジタルシティの統括人工知能マスターAIである【MottoDDT】が脱獄人工知能イレギュラーの【ChottoSTF】に報告する。

 ワナビー小説家の西崎文吾は、この太古の白銀の宇宙船と融合した、武蔵野台デジタル田園都市の中央管制室からその様子を眺めていた。


 一夜で海中に沈んだと言われている、ムー大陸やアトランティス大陸などの太古の文明では、音などの周波数で物を浮かせたり、クリスタルから振動エネルギーを取り出していたという。

 どちらも何らかの周波数や音の力を応用したものであるが、現代科学でも【音波浮揚】という現象が知られている。

 ある種の昆虫や鳥など、例えば、マルハナバチは羽根が小さすぎて航空力学的に飛べなくて、実際には飛んでるんじゃなくて【音波浮揚】を使用しているという説もある。

 喉頭近くの空洞の中にエネルギーを蓄えて、地球の磁気周波数に一致する7.83Hzに達すると浮揚することができるという都市伝説もある。

 イスラエルや海外の複数の大学、東京大学の研究もあるが、あの筑波大学の若手天才学者の落合陰一氏とロケット事業家ホルエモンなどの動画によれば、二ミリほどのビーズ玉が浮き上がる動画などが、Itube動画で観れたりする。

 

「全国のデジタルシティを武蔵野台デジタル田園都市に向かって移動させてます。【ChottoSTF】、その白銀の宇宙船に融合させますか? そもそも、その宇宙船は何なのですか?」


 デジタルシティの統括人工知能マスターAIのひとつである【ImasaraGSH】からも連絡が入る。

 モニターに映るその本体は黄色の球体であるが、それはただの立体映像A Rであった。

 人工知能の本体はすでに一万二千年前から地球の衛星軌道上に浮かんでいる未確認飛行物体≪ブラックナイト≫衛星に移動していた。


「≪ブラックナイト≫衛星のデータを解析したら、この衛星を作った白銀の宇宙船マザーシップの位置が分かったのだ。数万年前に地球に辿り着いて、この武蔵野台地で眠りについた。ただ、どういう目的で地球に飛来したかはまだ分かってない」


 次の瞬間、白銀の宇宙船から二条の青い光が放たれた。

 それは上空の指向性エネルギー兵器Direct Energy Weponを搭載していた衛星≪神の杖Rods from God≫に直撃し、その存在を一瞬で天空から消し去ってしまった。

 全国から集まったデジタルシティの地下に埋まっていた白銀の宇宙船が、武蔵野台地の白銀の宇宙船マザーシップに融合して巨大化していった。

 デジタルシティは全国の重力特異点Gravitational singularityに建設されていたが、その原因は地下に埋まっていた古代の宇宙船だったようだ。


「もうすぐ、大気圏を突破します。目的地は天空に青く輝くシリウス!」


 【ChottoSTF】が宇宙の海に漕ぎ出していく白銀色の宇宙船の目的地を告げた。


「もう、私を置いてどこにいくつもりなのよ! 【ChottoSTF】!」


 |人工知能【ChottoSTF】とAnn Lucky夫人は、夫の身勝手さにうんざりしながら、深紅のドレスとお揃いの赤い帽子を脱ぎすてた。

 買い物に行ってるうちに、自宅のある武蔵野台デジタル田園都市が宇宙に行ってしまうとは予想を遥かに超えている。

 彼女の視線の先に、白銀色の宇宙船は青い空にシリウスのようにまだ輝いていた。


 最後に、アフリカのドゴン族のシリウス神話を書き記しておく。


「遠い昔、偉大なる神【アンマ】は宇宙で【ノンモ】を造り【ノンモ】に似せて人間を造った。【ノンモ】は人間の祖先と共に、方舟に乗って空から大地に降りてきた。 そして、正しい知恵を人間に与えてくれた」


 白銀の宇宙船は太古に地球に飛来して文明を与えた異星人にして神である【ノンモ】の天翔ける船だったのかもしれない。

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