金縛り

おひとりキャラバン隊

金縛り

 俺は動けなかった。


 いつもの寝室。


 いつもの天井。


 目の端に映る振り子時計を見れば、時計の針は、2時を少し過ぎたところの様だ。


 部屋にはカーテンの隙間から差し込む月明りらしき光しか無く、俺は、その月明りに照らされてぼんやりと見える若い女の姿に視線を釘付けにされていた。


 その女は寝ている俺の身体に馬乗りになるような姿勢で、じっと俺を見下ろしている。


 重さは感じない、


 それどころか、自分の手足の感覚が無い。


 ピクリとも動かせない自分の手足。


 顔も動かせず、視線だけを巡らせる事が出来る。


 俺はどうなってしまったんだ?


 眼の前の若い女は誰だ?


 俺は金縛りにあったのか?


 金縛りなんて、疲れて脳がバグった時に起こる感覚異常であって、霊的な原因なんかない筈だ。


 なのに何だ? この状態はまるで…


 …まるで、何だ?


 いい表現が浮かばない。


 …いや、そもそも俺って誰だ?


 俺が誰で、この女が誰で、ここがどこで、今がいつで…


 そもそも、一人称は「俺」で合ってるのか?


 もしかしたら「私」の方がいいんじゃないのか?


 自分の事を男だと思っていたが、もしかしたら違う気もしてきた。


 そもそも時代背景からして分からない。


 振り子時計なんて、俺の部屋にあったっけ?


 時計の針が指している時間が正しいかどうかも怪しい。


 時計が指していたのが深夜2時だと思いこんでいた気がするが、そもそも今が昼間の可能性だってあるじゃないか?


 …駄目だ。


 情報が不足していて、明確な答えが出せない。


 …とりあえず、今ある情報を整理しよう。


 ここはどこかの住居の様な部屋の中で、壁と天井は白いビニルクロス貼り。


 自分を見下ろす若い女は、どうやら動く気配は無さそうだ。

 

 しかし、よく見れば女は縁の無い眼鏡を掛けている。


 月明りが女の顔を照らした瞬間、眼鏡のレンズに光が反射した。


 眼鏡のレンズに映った姿に俺の思考は凍り付いた。


 そこに見えたのは、ビーカーに入れられた2つの眼球で、俺と視線が合っている。


 …つまり俺は…

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金縛り おひとりキャラバン隊 @gakushi1076

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