第8話

 拓哉がエクイテスとの訓練を始めてから一週間後。ついに最初のギルドの実技試験が始まった。拓哉はすでにその試験に申し込んであり、すでにオフィスビルのエントランスに到着していた。拓哉と同じく受験目的か、かなりの人数がエントランスでたむろっている。

 拓哉は受付へと向かい、受付嬢に今日の試験についての説明を受けに行った。


「こんにちは。餓狼がろうギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でいらっしゃいましたか?」

「今日は餓狼ギルドの実技試験があると思うのですが、その案内を受けに来たのですが…」

「ああ、受験生でしたか。では、本人確認のため試験申し込みに当たってネットの方で記載して頂いた、お名前とハンターランクを言ってもらってもよろしいですか?」

「ええと、名前は鈴木拓哉です。ハンターランクはE級です」


 拓哉が自身の名前とハンターランクを言ったところで、いきなり周囲からの笑い声が聞こえ始めた。目の前の受付嬢もくすくすと笑っている。何だろう、と不思議に思って聞き耳を立てるとハンターたちの会話が聞こえて来た。


「おい、聞いたか?あいつE級の鈴木拓哉だってよ。無能力者が実技試験受験者だとさ」

「クククッ、ほんとだぜ。無能力者のくせにな。笑えるぜ」


 どこもかしこも似たような会話内容だ。拓哉はなぜみんながいきなり笑い始めたのか、理解した。要するに無能力者である彼をバカにしているのだ。拓哉からしてみれば今更気にすることでもなんでもない。ハンターになってから今まで同じような事は何度も言われ続けて来た。本当に今更のことなのだ。


 だが、このことに我慢できないものが一名。そいつはいきなり拓哉の後方に姿を現し、そして静かに、一言言った。


「黙れ」


 明らかに殺意の籠ったその言葉は、静かに、だがよく響き渡った。その言葉と、エクイテスの視線に、今まで拓哉のことをバカにしていた者たちの笑い声がぴたりと止まった。


「貴様ら。誰のことをあざ笑っているのか分かっているのか?このお方はこの世の全てを統べる神であられるのだぞ?それをそこらのゴミ同然の貴様らがあざ笑うとは…」


 エクイテスはそこで一度間を置き、そして再度、しかしより一層殺気を込めて言った。


「万死に値する」


 あまりにも殺気と圧が籠ったエクイテスの声に、誰も、何も喋ることが出来ない。それどころか体が勝手に震えている始末。

 いや、一人だけ。一人だけ命知らずのならず者のハンターがいた。屈強な体つきに、スキンヘッドのいかつい顔をしたB級ハンターだ。彼は素行が悪いことで有名で、巷では『ハゲゴリラ』の名前で通っている。勿論、本人の前でこの名称を使うほどの馬鹿はさすがにいない。


「おいおいおい、どっから現れたんだか知らねぇが、E級のそれも無能力者で有名なあの鈴木拓哉が神だって?笑わせんなよ?こいつが神だったら世界中の全員が神だわ」

「黙れ、下賤げせんなサルが。とっとと神の前から姿を消せ」

「いい加減にしろよ?サルはてめぇだろ」


 いきなり始まった口論に、喧嘩(口論も含め)慣れしていない拓哉はただおろおろとすることしかできない。しばらく睨み合っていた二人だが、ハンターの男の方が先に動いた。


 男はビルの床がめり込むほどの勢いで一気にエクイテスに踏み込んだ。腐っても彼はB級ハンター。それなりの強さを持つハンターのため、彼よりも低級のハンターには消えたようにしか見えなかったはずだ。無論、拓也はエクイテスの特訓によって動体視力も上がっていたため、問題なくその姿を捉えることができたが。


 男はエクイテスの懐に一瞬で潜り込むと、エクイテスのみぞの当たりを狙って、拳を一気に引き抜いた。


 ガシャンッ!

 ガラガラガラッ!

 ドスンッ!

 

 ものすごい音を立てながら吹き飛んだのは、B級ハンターの方だった。ビルの壁にめり込んだ男はそのまま気絶してしまった。


「やはり下等なサルはこの程度か。こんなはした実力で神を侮辱するとは、なんたる所業。貴様ら、今回はこれで許してやる。だが二度と神のことを侮辱することは許されないぞ」


 B級ハンターである彼が一瞬でやられたことにより、拓哉を神だと認めるよりも、エクイテスの実力がとんでもないものだと大半の人物が分かり、皆一斉に頷いた。エクイテスは満足したのか、透明化インビジブルを使い、姿を消した。


「え、えっとぉ、実技試験の案内をしていただきたいのですが……」

「は、ひゃい!た、只今ご案内いたしましゅ……」


 恐怖に震える受付嬢に話しかけると、彼女はめちゃめちゃ噛みながらも、拓哉に案内を始めた。

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無能力者のダンジョン無双~自分だけ入れるダンジョンで神が宿りし五つの指輪を手にした最弱ハンター、測定不能のSSS級ハンターとして無双する~ Booske @infurukun

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