転生者と学ぶ異世界史 〜色付きゴーレムと魔導産業革命〜
真偽ゆらり
ゴーレム史 黎明期〜魔導産業革命
「じゃあ教科書の――」
気怠げな先生の声で始まる歴史の授業。
正直、異世界の歴史なんて興味はないが将来就きたい職業であるゴーレム技師の資格試験を通る為に今日も真剣に授業を受ける。ゴーレム技師の資格は実技も専門知識も満点合格だとしてもヒト種として確立されたゴーレムの歴史――通称ゴーレム史の点数が足りなければ問答無用で不合格なので。
「基礎型、いわゆる基本的なヒトの形だな。昔はヒト型なんて呼び方もされたが、知っての通り今では差別用語だ。もうお前らの歳じゃ冗談じゃ済まないからな」
昔、前世の記憶が蘇った影響で間違って口にして死にかけたっけ。
「ギアーロ、苦い顔だな。経験が――って、そうかギアーロは転生者だったな」
俺ことギアーロが転生者である事は周知の事実だ。
転生者は確かに珍しくはあるが俺の通っているこの高校のように生徒数の多い学校であれば一学年に一人か二人はいる。そして転生者であることは優位に働かない。俺が失言で死にかけたように前世の知識や習慣が生きる上で邪魔となる。
「転生者病は克服しているようだし、お前の志望しているゴーレム技師の就活には有利に働くから気を落とすんじゃないぞ」
転生者病とは自分が選ばれた存在であると思い上がったり知識チートをしようとしたりと前世の常識に基づいて問題行動を起こすことを指し、今では精神疾患扱いだ。
「しかし丁度いいし、何故転生者だった事がゴーレム技師の就職へ優位に働くか。その点も踏まえて授業をしていくとしよう!」
授業開始時の気怠げな声から一転、火の入った声。
クラスメイトから「なにしてくれてんだ」と言いたげな視線が刺さる。
先生がこうなった日は高確率で授業が延長されかねない。
「まずはゴーレム史を語る上では欠かせない世界最後の大戦についてだ。さてこの大戦の名称と終結した年号をギアーロ、答えろ」
「はい。第三次勇魔大戦、平和歴元年です」
「よろしい。ゴーレム技師の試験ではゴーレム歴で出題される可能性が高いが、分かるか?」
「確か……
「正解だ。この年号は技師の試験では必ず出題されて配点も異様に高いらしいから忘れるんじゃないぞ」
第三次勇魔大戦。
いわゆる勇者と魔王、ヒトと魔物の戦い。
基礎型のヒト種と多様型のヒト種による互いの存亡を懸けた戦いは奇跡的に勇者一行と魔王一行の和解という奇跡的な結末を迎え、永きに渡る平和な時代の幕開けとなった。永く語り継がれる戦いでありながら終戦の決定打になる最後の戦いについては詳細に語られる事はない。多くの人類史には勇者一行と魔王一行が戦いの果てに意気投合したとだけ。
「終戦と和平を成し遂げたのは勇者と魔王とされているが、その切っ掛けを作ったのは勇者一行の一人である商人というのは知っているか?」
知らない。
他のクラスメイトを見渡しても誰もが首を傾げている。
「その商人が実は転生者だったんだ」
なんだって!? 事実なら何故それが伝わっていないんだ。その偉業が伝わって言えば中学時代に転生者だからと虐められずに済んだかもしれないのに。
クラスメイト達からも戸惑いの声が生まれている。
「はい、静かに。その商人が転生者だからゴーレム系のヒト達は転生者に好意的なヒトが多い。が、好意的な理由は終戦の切っ掛けになったからじゃぁない」
そう言って先生は教科書を閉じた。
「さて、これから見せる資料にはヒトによっては刺激が強い可能性があるがお前たちはもう高校生だし問題ないだろう。耐えられないヤツはトイレに行ってもいいぞ」
黒板代わりの水晶板に映し出された映像……いや、漫画か? ペンとキャップが妙に艶っぽく付け外しされている。どうやら誰かが漫画を読んでいる主観映像のようだがこれ――
「これは大戦当時、かの商人が天から降らせたゴーレムたちへの福音。まぁ中には見る人によっては腐苦音とも呼ばれたりする書物だ」
――無機物系のBL本かよ!?
「これはゴーレムたちの外部記憶装置、その情報集積回路。通称ゴレシックレコードに記録された当時生きていたゴーレムの記憶だ」
ゴーレムは死んだあと
「これによりゴーレムたちは性に目覚め、その6年後――ゴーレム歴元年にゴーレムは人類として認められた」
映像は視点を空に向け降り注ぐ無数の本を映した後、遠くでゴーレムたちを眺めながらこの結果は予想外だったと頭を押さえる男の姿を一瞬だけ映して終わる。
「ちなみに和平に至った経緯もゴレシックレコードに記録されているが、それを見た歴史家達はそろって口を噤んだ。何故だか分かるか? ヒントは今の映像の中にある」
クラスメイト達が次々と意見を述べていく中、映像中のゴーレムが読んでいた本の内容を理解できてしまった俺は意見を言えないでいた。
「ふむ。ギアーロ、お前だけ意見を言ってないようだが?」
悲惨な戦闘だったなんて理由で歴史家達が口を噤むとは思えない。たぶん、きっと俺が意見を言えなかったのと同じ理由で世間には発表しなかったはずだ。
「言いたくありません」
「構わん。言え」
「…………勇者一行と魔王一行が和解に至った切っ掛けがエロ本だからです」
ああ、女子生徒からの冷ややかな視線が痛い。
「その通り! 第三次勇魔大戦はエロ本で終結した」
「はい。色欲が、性欲……エロ本が世界を救ったなんて歴史に記せません」
「別に先生はそう書いてもいいと思うけどな。事実な訳だし」
生徒から上がる非難めいた声に先生は続ける。
「よし、そこまで言うなら今のとこテストに出すからな? 歴史家の連中も無難に愛が世界を救ったとでも書いときゃよかったんだよ」
まさかノートにエロ本が世界を救ったと真面目に書く日が来るとは。
「さて教科書を開いて前回の続き、色付きゴーレムのところだな」
色付きゴーレム。
それは文字通り色の付いたゴーレムで体の構成が単一素材の
「色付きゴーレムはみんながよく知る基本種ゴーレムと違って身体に色があるわけじゃない。この色が無いって言うのは身体の構成素材そのものの色をしてるって意味な」
現代のゴーレムは多種多様で機械人形みたいなオートマタ種なんてのもいれば、他のヒト種と見分けがつけにくいアンドロイド種や特撮に出てきそうなロボ種なんてのもいて——いや、ロボ種に至っては特撮にロボ役で出てた。
「その色付きゴーレム達がどうやって色を付けていたかだが、詳しく知りたいやつはメッキについて調べるといい。先生の担当科目範囲外なので先生もよく知らん」
それでも先生かと誰かが突っ込むが先生は無視して授業を進める。
「この色メッキと呼ばれ、ゴーレム達が独自に生成したメッキに使う金属が重要でな。あ、お前達が思春期に入った事を指して言う『色めき立つ』って言葉の語源にもなってるな」
唐突に放り込まれた雑学。
色メッキをしだす、が変化して色めき立つとなったとか。異世界だと同じ言葉でも語源が違うので偶にテストで間違えて困る。
「色メッキの金属は色彩合金と言えば分かるかな? そう、お前たちが便利に使っているスマホなんかにもよく使われている金属素材だ」
この異世界は文明が発達し過ぎて転生者が知識チートなんてする余地が全く無かった。多少使い方は違えど転生前の世界と変わらないレベルの電子機器に対応する魔道具が存在する。魔法が存在する分、こちらの方が進んでいると言っても過言ではない。
「この色彩合金は色に対応した属性魔力の伝導性に優れている事が発見され、一気に魔道具の技術革新が進んだ。これが有名な『魔導産業革命』だ。テストに出すぞ」
チャイムか鳴るも授業は止まらない。
「魔導産業革命と合わせて覚えておきたいのが色彩合金目当てで行われたゴーレム狩りだ」
「先生、チャイム鳴りましたけど」
「うるさい今いいとこだ。このゴーレム狩りは苛烈を極め、ゴーレム種の人権が危ぶまれた。しかし、一人の男が立ち上がる」
「あの次の授業の先生来てます」
「もう少しだけ。その男は基礎型人種でありながらゴーレムの女性を愛してしまった。愛する女性の為に男は仲間を引き連れゴーレム狩りの大軍へと立ち向かう」
先生が唐突に話す愛の物語に女性陣が食いつき始める。あと次の授業が数学なせいか男子生徒に止める気配は無い。
「後に『ゴーレム解放宣言』と呼ばれる事件だが——」
ここで次の授業を担当する数学の先生が乱入。
「『魔=ギア・クロニクル』はその『ゴーレム解放宣言』が元となった作品なんです!」
『魔=ギア・クロニクル』
俺達の親世代が俺達位の年代に大ヒットした漫画作品。今でも根強い人気を誇り、新進気鋭の漫画家がリメイクした事でリバイバルヒットしアニメやドラマ、映画と世界的に大ヒット中である。そして両親が当時どハマりした為、俺の名前の由来となった作品。
「今日は数学なんてやめて歴史の勉強を兼ねてマギクロの映画を観ましょう! 私、大ファンで常に持ち歩いてるんで」
オタク気質の女数学教師の発言にクラスは今日一の盛り上がりをみせ、色めき立った。あ、興奮してどよめく方の色めき立つの方ね。
転生者と学ぶ異世界史 〜色付きゴーレムと魔導産業革命〜 真偽ゆらり @Silvanote
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