色無き里の蝙蝠
@ns_ky_20151225
色無き里の蝙蝠
「見せてもらおうよ」
「うん、行こう」
灰色の子供たちはお互いを突っつき、転げながら蝙蝠おじさんの木に走って行きます。手に森で摘んだ黒い果物を持って。
「おじさん、見せて」
大声で呼ぶと白黒まだらの木のうろから、吸い込まれるような漆黒の蝙蝠おじさんが出てきました。差しだされた果物を受け取り、一口で食べると濃い灰色の汁が垂れました。子供たちは深い黒の目で見上げて笑います。真っ白な歯がきらきらしました。
「よしよし、準備をするからちょっと待つんだよ」
蝙蝠おじさんはいったんうろに戻り、小さい石と細い筒を抱えてまた出てきました。子供たちの目が吸い寄せられます。
「行くぞ。見逃すなよ」
小さい石を筒の先に当てると、石が輝きだしました。そして、見たことのない光があふれました。
「分かるか。これが『赤』だよ。この石はリチウムって言うんだ。よし次」
次の石はまたちがう色を発しました。
「これは『黄』。石はナトリウムだ。さあ、次で今日は終わり」
最後の石の色を見て、子供たちは寒そうだなと思いました。理由は分かりませんが。
「『緑』だよ。石は銅。はい、おしまい」
子供たちは蝙蝠おじさんが引っこんでもしばらくはその場から動けませんでした。それぞれに口を開きます。
「『色』か。いつ見てもすごいね」
「『赤』と『黄』と『緑』だったね。この前は『赤紫』と『橙』を見たよ」
「石はなに?」
「うーん、両方ともカ……、なんとかだった。ごっちゃになって覚えてない」
「きょうの『緑』も前のと違わない?」
「そうそう、でも前のは『黄緑』って言ってなかった? 石も銅じゃなかったと思う」
一人の子がうんうん考えて思い出しました。「バリウム!」 みんな笑い、いっせいに声を合わせて石の名前を口ずさみながら帰っていきました。
『リチウム!』『ナトリウム!』『銅!』『カのつく石!』『バリウム!』
蝙蝠おじさんはうろの中でその声を聞き、すこしだけ涙をこぼしました。呪いで色を奪われ、世間から隔離されたこの里で、唯一色の記憶を持つ自分、錬金術師だったわたしはこんな姿にされ、もう細かい研究はできないが、炎色反応だけが呪いを破るのに気づいてからはずっとこうしている。子供たちの好奇心に火をつければいつかこの呪いを破る人物が現れるに違いない。
さあ、と蝙蝠おじさんは気を取り直して微笑みました。好奇心の炎色反応は何色かな?
了
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