第20話

二人の夫と再会してから、一日ぶりの食事を摂り、沐浴をして身を清めますと、ようやく、心も体も落ち着きました。

もう近衛兵は、塔の下にも内にもいません。塔は、いつもどおりに人は少なく、とても静かです。

前は、この静けさを陰鬱だと感じていましたけれど、今はむしろ心安らぎますわね。

本来、塔には、外部の者は入れません。ここは、巫のための塔なのですから。

今日は、公務も休みになりました。もっとも、眠っていたせいで、もう日が傾いていますけれど。

私は、再び、テフォンとアイテルを部屋に呼び戻して、長椅子に寝そべり、存分にくつろぎます。

露台から、さわやかな風が吹き込みます。

橙色の夕陽が、白い大理石の床をあたたかく照らします。

私の前では、アイテルとテフォンが和やかにおしゃべりしています。

ああ、なんと平穏なことでしょう。

この光景こそが、このような時間こそが、私が何よりも欲しかったものですわ。

今、私は一人で長椅子に寝そべっているだけです。

何をしているわけでもなく、誰と話しているわけでもありません。

でも、私は一人ではありません。

すぐ近くに、夫たちがいます。

私が言葉を投げかければ、二人のどちらかは、私の言葉に耳を傾けてくれるでしょう。

もちろん、私が一人でいたいなら、このように私を放っておいてくれるでしょう。

ああ、なんと、これは素晴らしいことなのでしょう!

側の卓には、ガラスの器に入った冷たい桃の果汁と、葡萄とオレンジ、蜂蜜を練り込んだ焼き菓子が並んでいます。

王宮からの届け物だそうでしてよ。

私が眠っている間、王宮からは、衣や宝石、食べ物、本など、さまざまな品が運ばれてきたそうです。

もちろん、テフォンを捕らえたことへの釈明は、何もなかったそうですわ。

腹立たしいですけれど、事を荒らげるのは本意ではございません。

二人の夫にも言われまして、今のところは黙って見ぬ振りをするつもりです。

「しかし、この塔が、星見の拠点になるとはなあ」

テフォンが椅子に背を預けながら天井を見上げます。

私が出しました提案書の返事は、無事、帰ってきました。

陛下は、私の提案を聞きとげ、塔に星見のための、遠見の大筒を作ることを了承しましたのよ。

それもあって、私は、今回のことは見ぬ振りをしているのですわ。ええ、何事にも、抜け道はあってしかるべき、ですから。

アイテルが、外を見ながら言います。

「王都で最も高いのがここなのですから適所でしょう。ミティス様もいらっしゃいますし、下には図書室もあります。大筒を置く場所も上には充分ありますからね」

今日の王都の空は、炎のように赤く美しいものでした。

夜空には、さぞ数多の星がきらめきましょう。

空を眺めながら、私は言葉を返します。

「本当、よかったですわ。陛下のだんまりには納得できておりませんが、テフォンも戻ってきましたし、星見もうまくいきそうで」

「すべてはミティスのおかげだ。よく行動してくれたな」

いつになく優しいテフォンの声色に、思わず身を正してテフォンを見ます。

テフォンは穏やかに微笑んでおりました。

「前だったら、二人とも迷うだけで時間が過ぎていただろう。正直、処刑は覚悟していたぞ」

「失礼な。笑いながらそんなことを言わないでください」

アイテルが苦笑いで返すと、私を見ます。

「俺たちが動けたのは、テフォン殿の影響もあるのでしょう。俺たちは、二人とも慎重ですから」

「そうですわね、前なら、確かにおろおろするばかりだったと思いますわ」

でも、今は違いましてよ。

今の私は、諦めが悪くなりました。

できることをしようと、身体が動くようになりましたの。

きっと、活発なテフォンの影響ですわね。

するとテフォンがクスリと笑います。

「影響と言うなら、俺もだ。俺は気が短いからな。昔なら、捕まる時にひと暴れして、二、三人は斬り捨てていた」

「暴れなかったので?」

「当たり前だ。お前とミティスに咎を及ばせたくなかったからな、大人しく従ったぞ。アイテルならそうするだろうとな。今思えば、それもよかったのだろう」

「それは、賢明でしたね」

「ああ、まったくだ」

私達は、顔を見合わせて、声をあげて笑い合います。

私達は、まぎれもなく、家族ですわね。

きっと家族というものは、こうして互いに助け合い、影響し合うものなのでしょう。

この二人を夫に選んだ私自身を、私は誇りに思いますわ。

「……さて、心身満たされたところで」

テフォンが、突然、艶っぽい目で私を見ます。

二人きりの夜にしか見せない顔ですわ。

戸惑っておりますと、大きな手が、私の手をそっと握ります。

「そろそろ、姫の体が恋しい」

いきなりのことに、鼓動が高鳴ります。

確かにテフォンとはしばらく肌を合わせておりません。

ですが、ここにはアイテルもいます。

あの日からアイテルとも、もちろん肌を合わせておりませんわ。

「テフォン殿、その前に俺が先でしょう。あなたがいない間、それどころではなくて」

「まあ、それはそうか。なら」

テフォンが笑って私とアイテルを見ます。

「三人で楽しめばいい。俺たちは二人とも、姫の夫なのだから」


日が落ちて、部屋がゆっくりと陰っていきます。

いつの間にか、ええ、ごく自然に、私達は立ち上がっていました。互いに睦み合うためですわ。

最初に仕掛けたのは、アイテルでした。

アイテルは私の背後に回ると、私を後ろから抱き締めます。

テフォンが前にいますのに、大きな手は、遠慮なく脇から忍んできて、そっと胸へ触れてきます。

長い指が先端にふれると、思わず吐息が漏れました。

その姿を、テフォンはじっと見つめています。

こんな姿を見られますのは、恥ずかしいですわね。

ですが、アイテルは気に留める様子もなく、なおも私の胸をまさぐり続けます。

首筋にアイテルの唇が触れ、声が零れた時でした。

「妬けるな」

そう呟くと、テフォンが私のすぐ前に来ます。

黒い瞳は、熱を帯びています。

私と肌を合わせる前と同じですわ。

テフォンは私の頬に手を添えると、顔を近づけています。

アイテルはかまわず首筋に唇を這わせ、胸元に刺激を与え続けています。

そのまま、私は、テフォンの唇を受け容れました。

最初は優しく唇を触れあわせ、徐々に、口付けを深め合っていきます。

すると、腰に、硬くて熱いものが押し付けられます。

アイテルが繋がりたがっているのですわ。

テフォンと舌を絡めあって、アイテルに胸の先端を優しく触れられていると、私も熱情が高まってまいります。

ああ、はやく、どちらでもいいから繋がりたいですわ。

今宵は一晩中、二人に愛されたいですわ。

そうしてしばらく二人と触れあっていますと、テフォンがゆっくりと唇を離します。

テフォンは笑って、すっかり濡れた私の口元を太い指で拭います。

「行くか」

テフォンの言葉に、アイテルが、いきなり私を後ろから抱き上げます。

そのまま寝台まで私を運ぶと、アイテルはゆっくりと私を降ろします。

青い瞳が、じっと私を見つめています。

言葉はありません。

少し怒っているように見えます。

テフォンと口付けを交わしたからでしょうか。

アイテルが衣を脱ぎ、続いて、テフォンも衣を脱ぎ去ります。

私の前に、二人の裸身が並びます。

どちらの体も、たくましく引き締まっていて、肌は艶やかです。

ええ、何度見ても、美しいと思いますわ。

もちろん、私と繋がる準備もできておりましてよ。

これから二人と愛し合うのだと思いますと、興奮が高まってまいりますわね。

すっかり服を脱ぎ去ると、アイテルとテフォンが寝台に上がります。

先に覆い被さってきたのはアイテルでした。

「順番的に、俺が先です」

「そうだったな。ならおれは口で愛してもらおう」

すると、アイテル自身が入口に触れてきます。

熱くて、気持ちがよくて、思わず甘い声が出てしまいますわ。

「ああ……もうこんなになって。すぐに入りそうですよ」

アイテルはそう囁きますと、私の腿を開き、熱で入口を擦り上げてきます。

「その声を聞くとたまらなくなるな」

テフォンがすぐそばに来て、大きな手で、私の頭を軽く持ち上げます。

目の前に、テフォン自身がありました。

「頼む」

私は、テフォン自身に顔を近づけて、口に含みます。

「…っ!」

テフォンが大きく息をつき、アイテルが何度も腰を動かします。

静かな部屋に、私たちが触れ合う水音だけが響きます。

不思議とためらいも恥ずかしさもありませんでした。

私は二人に、すべてを曝け出していますから。

「ミティス様、いきます」

アイテルが囁くなり、貫いてきます。

強い快感に、テフォン自身から思わず口を離します。

「おい、激しくするな」

「そう言われましても」

アイテルの動きは止まらず、私は翻弄されていきます。

「体勢を変えろ。後ろに」

テフォンの言葉に、アイテルは動きを止めて私を抱き寄せますと、ゆっくりと繋がったまま、背後へ回ります。

「そうだ、こうして二人でミティスを愛そう」

再び後ろからアイテルが動き始め、たまらず私は寝台に腕をついて四つん這いになります。

「ミティス」

テフォンの手が、私の顎を持ち上げます。

アイテルが与えてくる快感に耐えながら、私はテフォン自身をまた口に含みます。

「ああ、いい。そうだ…そうして俺たちを感じてくれ」

「ああ…ミティス様…」

私は二人の夫と繋がり、快楽を分かち合います。


ええ、今宵は二人と、交互につながりますことよ。

アイテルとテフォンは、どちらも大切な私の夫。

ですから、快楽も三人でわかちあいますの。

これから生まれてくる子が、どちらを父とするかはわかりません。

でも、そんなことは、もう、たいした意味を持ちません。

どちらが父であっても、私の子、次なる巫です。

私達は、その子を三人で慈しみますわ。

私たちは家族。三人でひとつですもの。

これまでも、これからも。


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二人の夫 澤村製作所 @miyuapo1017

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