第107話 覚醒のルイス
「ルイスさん、俺がカバーするから、あなたが斬ってください。この剣なら悪魔だって斬れるはず」
「ああ、任せろ……!!」
ログロイの魔法剣は、量産できる代物ではない。
まして、今日の戦いはかなり急な話だったため、全員分の剣などとても作る時間はなかった。
そんな貴重な剣の一振りを、ログロイはルイスに投げ渡す。
託されたその剣を、ルイスは力強く握り締めた。
『お喋りは終わりか? さあ行くぜえ!!』
「くっ……!!」
鉤爪を伸ばし、悪魔のゲリットが突っ込んでくる。
それに剣を合わせて防御したルイスは、魔力を通してその力を起動した。
「喰らえ!!」
光の魔法を纏った剣が、ゲリットの鉤爪を斬り裂いていく。
これこそが聖なる力、世界の主人公たるスフィアの能力だと言わんばかりの理不尽な現象に、ゲリットは焦る──こともなく、鉤爪を切断されながらも、上手く刃先を逸らして回避してみせた。
「んなっ……!」
『クヒヒヒ、その力についてはもう聞いてる……本当にふざけた力だ、だが……!! そんなもん、当たらなきゃどうってこたぁねえのさ!!』
すぐさま切断された鉤爪を再生し、ルイスに斬りかかるゲリット。
しかし、すぐさまログロイがカバーするように剣を振るった。
『ハッ、そっちのわけわかんねえ光の力が無ければ、たかが剣──って、なんだこりゃあ!?』
スフィアの力が宿った魔法剣でなければ問題ないと、そう高を括っていたゲリットだったが、斬られた体が凍結して動きが封じられてしまったことに、目を見開く。
「魔神流剣術、《氷狼一閃》……!!」
『ちっ、このガキ……!!』
いくら普通の剣でロクなダメージが通らないと言っても、こうしてしまえば動きを止めることは出来る。
それを目にしたルイスは、すぐさま剣を構え直す。
「うおぉぉぉ!!」
『くそぉぉぉぉ!! ……なんてな』
「っ!?」
ルイスが剣を振るおうとした瞬間、ゲリットは自らの体を魔力に分解することで回避してみせた。
驚くルイスとログロイの前で、ゲリットは再度体を再構成して高笑いする。
『言ったろ、スフィアとソルド以外は、警戒するまでもねえってなぁ!!』
ゲリットの背中から翼が広がり、漆黒の魔力が無数の槍となって降り注ぐ。
何とかそれを防ぎながら、ルイスとログロイはじりじりと後退していった。
「くそっ、これじゃあ剣の間合いに入ることも出来ねえ……!!」
「落ち着いてよルイスさん、これくらい、あんたなら大したことないはずです」
「ああ? どこをどう見たらそんな評価になるんだよ……!!」
少なくともルイスの頭には、目の前の悪魔を攻略する術が全く思いつかなかった。
こいつの目には何が見えているんだと、そう嘆く彼に、ログロイは迷わず断言する。
「師匠の言葉を思い出して。師匠は、剣の腕だけを見てルイスさんを弟子に取ったわけじゃなかったはずだ」
「……そうだったな」
ガランドは、ルイスに対して"剣と魔法を組み合わせた自分だけの魔法剣術を生み出せ"と言っていた。
どうすればいいのか、まだ答えが見つからないが故に魔法を封印したままだったが……。
「ルイスさんだって師匠の教えを受けた、俺と同じ魔神流門下生なんだ。こんなところでだらしない姿を晒すのは許さない。師匠を信じて、ちゃんと剣の声に耳を傾けろ!!」
「……はっ! 分かったよ、こうなったらヤケだ、やってやらぁ!!」
剣の声を聞くってなんだよと、これまでずっとソルド達が当たり前にやっているそれにドン引きしてきた。
だが、事ここに至っては、それだけが現状の不利を打開する唯一の手段と言えるだろう。
ならば、今ここでそれを掴む。
掴んで、完成させるのだ。自分だけの剣術を。
「集中する時間くらいは俺が稼いでやる!! 早くしてよ!!」
『ちっ、邪魔だガキ!!』
ゲリットとログロイが剣と鉤爪を打ち合わせ、互角の戦いを繰り広げる。
否、純粋な力ではまだ幼いログロイが不利な分、徐々に押し込まれている様子だ。
早くしなければ、と焦る心を必死に宥め、ルイスは己の心と握り締めた剣に向き合うように瞑想する。
(俺だけの剣……これまで培って来た魔法と剣を、一つに……!)
ソードマン家が伝えて来た技……魔法のみで剣を成して戦う技術はルイスにはなく、剣に魔法を纏わせることしか出来なかった。
剣の上に魔法を乗せた攻撃は、結局のところ魔法による一撃と変わらない。故に、剣の重さの分だけ動きが鈍り、弱くなってしまうという思考だ。
それを覆そうと、剣に乗せる魔法をひたすらに大きくしてきた過去。
魔法を封印し、剣だけで特訓を重ねた魔神流の修行。
それらを思い出し、ゆっくりと剣に耳を傾けて──不意に、彼の心の中で自分に囁く声が確かに"在る"ことに気が付いた。
「そうか……そうだったんだな。俺がするべきことは、"逆"だったんだ」
剣を構え、意識を集中する。
これまでは、剣に魔法を"纏わせて"攻撃していた。
だが、違う。剣を剣として使いながら、魔法の力を上乗せするためには、剣に魔法を"込める"必要があったのだ。
「魔神流剣術、ソードマン式……一の型ッ!!」
剣身に魔力を通し、そこに使用されている鋼と魔力とを一体化させる。
ログロイが仕込んだスフィアの力さえも取り込んで、全てを一つに纏め上げ、剣そのものを魔法と化す。
『鬱陶しい……!! っ、待て、なんだお前、その光は、その剣は……一体何なんだ!?』
ルイスの構えた剣が、神々しいまでの輝きを放つ。
薄らと空気が歪んで見えるのは、それほどの熱量を帯びている証左だろう。
剣先に触れた石の壁さえ音を立てて溶け落ちるその様を見れば、どれほどの力を秘めているかは想像に難くない。
『くそっ、ここは一度距離を……!!』
「逃がすか!! 《天姫空閃》!!」
『てめっ、このガキ!!』
再び体を魔力に分解して逃げようとするゲリットだったが、ログロイの剣術によって空間ごと封じ込められる。
ソルドの技と比べればまだまだ未熟としか言いようがないのだが、一時的にゲリットを捕らえるくらいの力はあった。
そこへ、ついにルイスの剣が襲い掛かる。
「──《白焔斬》!!!!」
『くそっ、だがそんなもん、さっきみてえに逸らしてやれば……!?』
鉤爪を合わせ、ルイスの剣を逸らそうとするゲリット。
しかし、自慢の鉤爪は剣を逸らすどころか、触れることすら出来ずに蒸発していく。
いくらなんでも、こんな有様では軌道を逸らすことにすら使えない。
『バカな、そんな……この俺様が、こんなノーマークの連中なんかに……っ!! ぐわぁぁぁぁぁ!!?!?』
何者にも阻むことは出来ない、白く輝く焔の如き斬撃が、ゲリットの体を両断し──
こうして、ルイスとログロイの二人は、悪魔の一柱を撃ち滅ぼすことに成功するのだった。
次の更新予定
2025年1月11日 12:00
悪役令嬢の兄に転生したけど、魔法が使えなかったので剣で破滅フラグを叩き斬ります ジャジャ丸 @jajamaru
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