第106話 ルイスとログロイの戦い

「はあ? ソルドがいなくなった? どういうこった!?」


「悪魔が死に際に放った魔法に巻き込まれたっていう話ですよ。それ以上はよく分からないです」


 ソルド、そしてシルリアが行方不明。そんな一報を受けてルイスは取り乱し、ログロイも表情を硬くする。


 誰しも分かっているのだ、悪魔に打ち勝つには、ソルドの常識外れの剣術の力が必要だと。


「想定外の事態だし、一度戻るのもアリだと思うけど……どうします、ルイスさん?」


「どうするったって……」


 ログロイに問い掛けられて、ルイスは迷う。

 やってやると、自分でも出来ると奮起してここに来たが、ソルドがしてやられたと聞いて不安が一気に膨れ上がる。


 それを自覚して、ルイスは歯を食いしばった。


(情けねえ、結局俺はソルドがいれば大丈夫だって、甘えてただけじゃねえか!)


 これではダメだろうと、ルイスは顔を上げる。

 ソルドがいないのであれば、その分まで周りが奮起しなくてどうすると。


(負けられるか!!)


 持ち前の負けん気で恐怖を飲みこんだルイスは、このままやると気合いと共に叫ぼうとして……ちょうどそのタイミングで、近くから悲鳴が聞こえて来た。


「くっ、来やがったか!! 行くぞ、ログロイ!!」


「分かってます!」


 ルイスとログロイの二人で、現場に急行する。

 するとそこには、予想通りの……しかしある意味では予想外の光景が広がっていた。


「なっ……んだ、てめえは……!?」


 悪魔の出現によって、為すすべもなく倒れ伏す騎士達。そこまではいい。


 しかし、そこに唯一立っていたのは悪魔に乗っ取られた騎士ではなかった。

 人型ではあるものの、明らかに異形と分かる漆黒の体。

 頭からは角を生やし、背中に蝙蝠のような皮膜の翼を広げた化け物が、踏みつけた騎士の上で嗤っていたのだ。


『んん……? なんだお前ら、騎士じゃなさそうだが……ソルド・レンジャーの仲間か?』


「それがどうした!!」


 剣を抜き放ち、威嚇するように叫ぶ。

 そんなルイスに、その化け物はニタリと笑みを浮かべた。


『ハッ! スフィア、それにティルティ・レンジャー……ソルド・レンジャー以外はこの二人が要注意だって言われてたんだが、どっちもいねえじゃねえか。だがまあ、遊び相手としては十分か……精々楽しませてくれよ? サタン様から貰ったこの体を試すにはちょうどいい』


「ほざけ!!」


 どうやら、悪魔の王が手ずから作った体でこの現実世界に来たらしい。

 ならば遠慮なくその体を壊せるとばかりに、ルイスが斬りかかり……異形の手から伸びる鉤爪によって、それを防がれた。


 ガキンッ、と硬質な物同士がぶつかり合う音を響かせて、ルイスの体が宙に浮く。


『おいおい、名乗らせてもくれねえのか? 俺はサタン様直属の配下が一人、"八裂き"のゲリットだ。よろしく頼むぜ? そして……』


 片手で剣を受け止めながら、もう片方の手で構えを取る。

 鋭く伸びた鉤爪を、そのままルイスの心臓へ突き立てんと繰り出した。


『これでサヨナラだぁ!!』


「っ……!!」


 空中では回避も出来ない、やられる──

 そう思われた瞬間、間に白刃が割り込んだ。


『あん……?』


「別にいいけどさ、あんまり俺のこと無視するなよ、流石に少し腹が立つぞ」


 鉤爪が弾き飛ばされ、ゲリットと名乗ったその悪魔は怪訝な顔をする。

 悪魔達の間でもノーマーク、名前すら把握されていなかったその少年が、剣を手に立ちはだかっているだけでなく、全く競り負けることなく攻撃を防いでみせたのだ、意外にも程がある。


「俺だって、魔神流門下生だ」


『グッ!?』


 がら空きとなった胴体に回し蹴りを叩き込み、強引に距離を取らせる。


 何とか危機を切り抜けたルイスは、少し小さくなりながらログロイへ声をかけた。


「すまねえ、助かった……」


「しっかりしてください、師匠からの教えを忘れなければ、悪魔なんかに負けはしません」


「……ああ、そうだな!!」


 ルイスとログロイが肩を並べ、剣を構える。

 対するゲリットもまた、両手の鉤爪を伸ばし宙に浮かびながら口角を吊り上げた。


『クハハハ、いいじゃないか、そうでなきゃ面白くない……精々足掻け人間ども、俺達悪魔の礎となれ!!』

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