第105話 悪魔達の策謀
シルリアの指示で悪魔が現れた地点に到着した俺は、その惨状に顔を顰めた。
出現した悪魔に騎士が体を乗っ取られ、他の騎士を攻撃していたのだ。
今の今まで共に肩を並べていた戦友が突如として敵に回る状況に、他の騎士達も全力で戦えないんだろう。やられるがままだった。
「おい、ラーセン、しっかりしろ!! 俺が分からないのかよ!?」
『ヒャハハハ!!』
「ぐわぁぁ!!」
悪魔は人の体を乗っ取るっていう情報は、既に共有されていたはずだ。
けど、頭でそれを理解するのと、実際にその状況を目の前にするのとでは、覚悟の持ちようが違ったとしても不思議じゃない。
……悪魔を倒した経験があるってだけで、俺達の参戦を要望された理由がよく分かるな。
「魔神流剣術、特式・八の型!!」
剣を抜き放ち、暴れる悪魔と騎士達の間に割り込む。
ログロイに貰った剣を引き抜き、居合の要領で振り抜いた。
「《光波一閃》!!」
『グアァァァ!?』
俺の剣に斬られて、悪魔に乗っ取られた騎士が倒れる。
それを見て、今まさに襲われていた騎士が血相を変えて俺に掴みかかってきた。
「お前っ、何を……!!」
「落ち着いてください、取り憑いた悪魔を斬っただけで、本人は生きてますよ」
「っ……!?」
俺の言葉が予想外だったのか、半信半疑の様子で倒れた騎士の様子を確認して……大丈夫だと分かると、ホッと胸を撫で下ろす。
そして、俺に向き直って頭を下げた。
「すまない、俺はてっきり……」
「気持ちは分かるので謝罪はいいです。それより怪我人を早く医務室に」
「ああ、そうだな」
無事だった騎士達が、慌ただしく動き出す。
それを見ながら、俺は少し遅れてやって来たシルリアに話しかける。
「思った以上に、良くない状況かもしれないな」
「ん、騎士達じゃ悪魔に対抗出来ない」
「ログロイの魔法剣もそう量産出来るものじゃないしな……俺達でなるべく対処するしかなさそうだ」
ログロイの作る魔法具の剣は、いわば魔法そのものを特定の物体に封印して、後から解放出来るようにした代物だ。
誰でも使えるような魔法ならまだしも、聖属性の魔法となれば再補充にはスフィアの魔力が必要だし、とても増やそうと思って増やせるものじゃない。
俺も、ある程度節約しながら使うか……尽きる前に自力で悪魔だけを斬る技を身に着けるかしないと、ジリ貧になる。
「ソルド、また新しい悪魔が出てきたみたい。この先で」
「分かった、急ごう」
解決しなきゃならない問題は多いけど、今はまず目の前の戦いだ。
そう思って、俺はシルリアが告げた場所へ急行する。
騎士の体を乗っ取った悪魔を倒して、怪我人の保護を手伝って、また悪魔の出現に合わせて移動して……というのを何度か繰り返していくうちに、俺は違和感を覚えた。
襲撃が、妙に散発的だ。それも、俺の近くにばかり出てる気がする。
まるで、誘導でもされてるみたいな……。
『キヒヒ』
「っ、待て!!」
微かな疑念を抱きながらも、それについて落ち着いて考える暇もないままに悪魔との戦いが続く。
既に五体目。さほど強くもないそれを撃破し、ホッと息を吐いて……。
その一瞬の弛緩を狙い済ましたように、倒したはずの悪魔の魔力が宙を漂い、近くにいたシルリアを狙って襲いかかった。
「え……」
「シルリア!!」
仕留め損なったかと、慌てて間に入って剣を振るう。
けれど、死にぞこなった悪魔かと思われた黒いモヤは、悪魔ではなく最期の力を振り絞って放たれた魔法だったらしい。
切り裂こうとした瞬間に一気に拡散し、俺とシルリアを漆黒の闇に飲み込んで行く。
「くっ……!!」
咄嗟にシルリアを抱き寄せた俺は、庇うように体を盾にして……何も起こらないことに、首を捻った。
「……これは……」
顔を上げると、そこは俺達のいた拠点じゃなかった。
漆黒の空、どこか恐怖心を覚える独特の空気……ここは、覚えがある。
魔獣達の故郷、“異界”だ。
「……誰も、いないのか?」
最初は、自分達に有利な場所に引きずり込んで俺と戦う腹積もりなのかと思ったけど、特にそんな様子もない。
帰り道もなく、敵もいない。あるのはただ、何も無い虚無の空間だけ。
「私達……異界に、閉じ込められた」
シルリアの言葉に、俺は歯を食い縛る。
まさか、こんな形で戦場から引き剥がされるなんて思わなかった。
「ティルティ……みんな……無事でいてくれよ……!!」
祈るように呟きながら、なんとか帰る手段を求めて行動を開始するのだった。
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