敏腕エージェントの日常7

信仙夜祭

今日は、戦争の回避か~

 俺こと敏腕エージェントは、今、新しい任務のために移動中だった。


 まあ、なんだ……。別なパスポートを得て、また敵国に潜入するのだ。

 顔は変えられないが、髪型と髪の色を変えたので、すぐにはバレないだろう。

 以前の街とは、大分離れた街を拠点にするつもりだし。


「あなた……。次の仕事は決まっているのですか?」


 以前の任務で救った、元お姫様。今は妻として同行して貰っている。

 下級エージェントの資格を得て、今は俺の片腕だな。

 しかし……、仕事か~。


「もう一度、暗号文を読んでくれ」


 妻が、暗号文のかかれた新聞を取り出した。


『敏腕エージェント、国王に君の妻のことがバレてしまった。今は影武者がお姫様を演じているが、戻す気がないのであれば、病死にするそうだ。君はしばらくの間、敵国で身を潜めて欲しい。国王の方は、組織の方で説得してみる。元お姫様に危険が及ばないように……な』


 ため息しか出ないよ。まあ、手を出しちゃったしね。

 ちなみに子供はできていませんでした。


 しかし、また潜入任務か~。少し休みたいのもある。


「それでどうするのですか?」


「暫くは、ホテル暮らしをして、住処と仕事を探そうか……」


「本当に行き当たりばったりなのですね……」


 エージェントの仕事なんてこんなもんよ?





 ホテルについたら、組織から通信が入った。

 妻が読んでくれる。


『敏腕エージェント、困ったことになった。国王が、王族護衛軍を出兵させるそうだ。それほど末子の奪還を優先するみたいだ。そして、それを口実に戦端を開くみたいだ。頼む、戦争を回避してくれ』


「これって、どんな指令ですか? 内容がないのですが」


 アバウトだよね。『戦争の回避』って……。


「どうする? 王城に戻るか?」


 ……その、オーラ全開の怒気を止めよう。


「王族護衛軍……。通称混色衛兵カラフルに狙われるとなると、簡単には逃げられんな。それに、敵国に軍を派遣するとなると、戦争回避のために逃げ回ってもいられないし」


「擬装用の死体でも用意しますか?」


 それで納得してくれればいいんだけどね。まあ、無理だろうな~。



 次の日、国境でのにらみ合いが始まった。

 敵国としては、訳が分からないだろう。良く分からない人物の引き渡し要求……。まあ、口実だよね。

 両国が戦争をしたがっているのは、明白だ。

 その回避のために、俺が動いていたのだけど、結果、活躍し過ぎて火種を作ってしまうとは……。だが、あの時お姫様を救わなければ、戦端が開かれていただろう。

 遅かれ早かれなのかもしれない。両国の首脳陣が、戦争をしたがっているのかな?


「どうなされるのですか?」


「赤の軍に向かおう。知り合いがいるはずだ」



 結局のところ、俺たちは投降した。

 戦争を起こされるよりは、ましだとの判断だ。


「久しぶりだね。敏腕エージェント」


「皇太子様もお元気そうで、なによりです」


「お兄様……」


 もうね……、この人しか頼れないのよ。昔、任務で護衛をしたことがあったので、ちょっとだけ繋がりがあった。


「ふう~。これで君は、義理の弟か……」


 俺の方が、年上なんだけど?

 まあ、細かいことはどうでもいい。


「お兄様? わたくしは、お城には戻りませんよ?」


「ああ、分かっているよ。それと、軍を撤収させようか」


 良かった。戦争は回避された。

 後は、俺たちの処遇だな……。





「結局は、スパイの洗い出しだったと?」


 事の顛末を聞いた。


「色々な所に密偵スパイが紛れ込んでいてね。あぶり出せたよ。急に戦争になれば、ボロを出す者が続出だったね」


 今回はなにもしていないけど、また活躍していたようだ。

 しかし、敵国のエージェントは質が悪いな。


「それと君たちの処遇だけど……。諜報活動を中止して、王族護衛軍に所属して貰う。ちょっとね、王族の中でも揉めててね。力を貸して貰いたいと思う」


 俺に拒否権はないけど、これからは内政に関わるのか~。政敵とか嫌だな~。





 こうして、今日もこの国の平和が護られた。

 敏腕エージェントの活躍は、終わらない。つうか、今回はなにもしなかった。

 終わりが見えない戦いは、今後も続いて行く――かもしれない。

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