ナビゲータは方向音痴


「「助けていただき誠にありがとうございます。」」


ソウルフに襲われた俺たちを助けてくれたのは先程茂みから出て来た謎の少女。

見た目からしてまだ幼い子供だと思う。

こんな子供に助けられて情けない気持ちでいっぱいだったがピナと共に礼を言う。


少女も最初に俺らを見た時はソウルフと遊んだると思っていたみたいだ。

無理もない。まさか初級モンスターに襲われてるとは誰も思うはずもないのだから。

少女は俺らがソウルフに襲われてると気が付くとすぐに腕に噛みつくソウルフを引き離してくれた。


親の仇の如く俺の腕を噛みついていたのに、少女は【大丈夫だよ、怖くない】と一言かけるだけでソウルフを懐柔していた。

まさに神業だった。


噛まれた後の腕は血だらけで肉が抉れて、惨い状態だったがピナの治癒魔法で傷を治す事が出来た。

そして今は少女にお礼として昼食をご馳走している所だ。


「えぇ!!ジュエルラビットって高級食材だよ!いいの?いいの!」

「「はいどうぞ。」」

「えへへ、やった!ソウルフを剥がしたでけなのに・・・」

「「いえいえ、命の恩人ですので遠慮なく食べて下さい」」

「・・・お兄ちゃんと妖精さんはなんで一緒に喋るの?」


ピナと声を揃えて返事をしていた事に不審に思った少女は俺達に問いを投げかける。

別に大きな意味はない。

たまたま、思いが重なるっているだけだからその質問には答える事が出来なかった。


「へぇ~!仲良しさんなんだね!」

「「違います。」」


それにしてもこの少女はなんと天真爛漫で可愛らしい子なのか。少し妹と面影を感じる。

ピナとは正反対だな。


「えぇ~、絶対に仲良しさんだって!君もそう思うよね?」

「キャン」

「「ひぃ!!」」


少女が膝の上に乗せたソウルフに同意を求める様に問いかけるとソウルフは返事をする様に吠えた。

その鳴き声に俺とピナは恐怖を覚え萎縮してしまう。


「あ~、ごめんごめん、二人ともソウルフ苦手だったよね。」


少女はソウルフに『群れにお帰り、また遊ぼうね。』と声を掛け森の奥に逃がす様に別れた。去る際にソウルフも『キャン』と鳴いていた,少女にお別れを言ったのだろう。


ようやくピナと俺に穏やかな平穏な時間が戻ってきた。


「お兄ちゃんは噛まれていたから嫌いって理由は分かるけど、妖精さんはどうして苦手なの?」


ピナが少女の問いに答えた。昨日聞いたピナが初めてソウルフに襲われた話をしていた。


「・・って、訳で苦手ね。」

「えぇ!一時間!?ミエリもこちょこちょ苦手だからそんな事されたら、シマウマになっちゃうよ!」

「シマウマ?・・・もしかして、トラウマの事?」

「うん!それ、虎と馬!」

「なんでそんなに動物で例えるの・・・それにしてもアナタの名前ミエリって言うのね?可愛らしいお名前ね!!」

「えへへ、ありがとう。・・・妖精さん達はお名前なんて言うの?」

「私の名前はピナ。」

「俺はナツ、志木夏」

「ピナちゃんにナツ兄だね!よろしくね!にひひ!」

「「可愛いな、この子!」」


俺とピナの思いが合致した。


昔の雪菜を見ているようで懐かしい感覚がする。小学生高学年になってからは変に大人ぶった態度をとる様になったり、少し俺から距離を置くようになってしまい、どこかで寂しい気持ちがあった。

もう、この機会にミエリも妹にしてしまうか?

雪菜には悪い気もするがアイツも新しい妹が出来て喜ぶだろう。


「いや、ゆっきーはお兄ちゃんを取られたと思ってショック受けるわよ。ナツが思ってる以上にブラコンよ。」

「そうだな、確かに雪菜は俺の事・・・・いや、なんでピナが雪菜のあだ名を知ってるんだ?それに性格まで詳しく。」


ゆっきーとは雪菜のあだ名で父や母、仲の良い友達の間で呼ばれている。本人も凄く気にっているあだ名だが・・なぜにピナがそれを知ってる?

しかも、今回の様な事は何回かあった。無駄に地球の事が詳しかったり。俺の情報に詳しかったり。


ピナは俺に何かを隠してる?

一度聞いてみるか。


「おい、ぴな・・・」

「あぁ~、ジュエルラビットが焦げちゃう。」

「えぇ!!、ミエリのお肉。」

「あ、ミエリはまだ幼いから火に近づいたらダメ!・・・ナツなにしてるの?命の恩人のご飯が焦げちゃうよ?はやく、取ってあげて。」

「・・・まぁ、いいか。」


なにか上手くごまかされた様な気もした・・・が今はミエリーの食事を焦がさない事が最優先で詳しい話はまた聞く事にしよう。



「ふぅん~。、おいしい!!」

「ミエリ、ゆっくり食べなさい。」

「うん!!」


ミエリがうまそうにジュエルラビットの肉に食らいつく。まるで今までロクに食事を得られていない様子にも感じれれる・・・


「ねぇ、お兄ちゃん?このお肉先生にもあげたい。」


先生?・・・だれか分からないが優しい子だな。

「ミエリ、ジュエルラビットはあと2匹いるからそれは全部ミエリが食べていい。」

「やった~!!」


嬉しそうにウサギの肉にかぶり付く。


「ミエリは優しい子だな。今何歳になんだ?」

「う~んとね。分からない。」


予想だにしていない回答が返ってきた。俺は質問を間違えたと思った。

が発した言葉は紙に書いた文字の様に消しゴムで消せない真実だ。この後のフォローについて考えよう。


「ミエリね、赤ちゃんの時に捨てられちゃったの。そこで今の孤児院で先生に育てらたのね。だからミエリは誕生日が分からな。先生は3歳か4歳だと思うって。」

「そうか、嫌な事を聞いてすまない。」


先生って・・・そういう意味か。

予想以上の回答に俺はうまいフォローが出来なく、謝る事しかできない自分が嫌になる。

雪菜ならもっといいフォローをしてくれるだろうな。


「大丈夫、慣れてるから。」


そんな、俺に気を使うミエリが愛おしく感じた。

そして、俺はミエリを守る決意を固めた。


「それに先生も孤児院の子たちも優しいから毎日が楽しいよ、」

「そうか良かったな。」

「うん、今日も森の・・・なんて言うんだっけ?短い犬?してたの!!。」

「短い犬?・・・・探検か!?」

「そう短犬!」


ここまで来たら言い間違えの領域を超えていた。

ミエリの領域内に立ち入ると脳が鍛えられる気がする。


「まぁ、あまり村から離れたら怒られるけどね。」

「ってことは近くに村があるのか?」

「うん、すぐそこにあるよ。」


ミエリが一つの方向に指さす

そこは木々が生い茂っていた、目を凝らして凝視する。


よく観察すると木々の間からうっすらと木製の家が見つかった。

ミエリの話からして村だろう。


こんな近くに村があった事を気が付けなかった自分も悪いが・・・それよりもナビゲーションのピナが気づけなかった事のほうが大問題だ。


「なぁ、ピナ・・・なぜナビゲータのお前がこんな近くにある村を気が付かなかったんだ?」

「・・・ごめんなさい、」


ごめんなさいと謝るピナ・・・何か怪しい、

絶対に何かがある。

この期に及んで逃げようとするなよ。


「ピナちゃん?」

「うぅ~、・・・分かったは自白します!!私は方向音痴よ!!」


・・・なぜ、君がナビゲーターに来たのか?甚だ疑問に思う。

本当にコイツは使えないな。

今度ソウルフに遭遇したらピナを生贄にして俺は逃げるか?。


「ごめんなさい!!謝りますからそれだけはやめて。」

「ふふっ!ピナの弱点を知れたからな。今後は困ったらこのネタを使ってやろう。」

「・・・ナツ意地悪!!嫌い!!」


ピナが拗ねるようにミエリの方に飛んで行った。少しからかい過ぎたかとも思ったが今までの事を考えたらまだまだ優しい方だと思う。


「ミエリ、ナツが虐めるよ~」

「可哀そうなピナちゃん。ミエリも意地悪なお兄ちゃん嫌い。」

「すいませんでしたぁぁぁ!!」


俺はピナではなくミエリに土下座をする。

ピナに嫌いと言われるのは良いがミエリに嫌いと言われるのは兄として心に来るものがある。


その俺の姿を見て二人は顔を見合わせて笑っていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ー初めての村(テイラ村)ー


「ようこそ!テイラ村へ」


ミエリに案内される様にやって来たのはテイラ村、俺が異世界に来て初めての村だ。

ピナから聞いた話だが村にしてはそこそこ栄えているらしく、村人の数は380人程いるらしい。

確かに大きな村で近くには畑や川などもあり食べ物に恵まれた村だとすぐに分かった。


「私の家に案内するね。!!」


ミエリの案内でミエリの家に向かう。

歩くこと数分で少し大き目の家の様な場所に辿り着いた。

目的地に着くまでの間にこの村を確認できた。


意外と広い村で家や人が沢山いた。

村人の人も気楽で優しそうな人ばかりだった・・・しかし俺はそんな村人を見て少し疑問に思ってしまう。

なんでこんなにも無理に元気を出しているんだろう?しかも大人だけが・・・


元気よく俺らにあいさつする村人はなぜか皆、疲れているように感じれた。


ミエリが家に着くと『待っていて』と言い家の中に入る

数分すると一人の大人の女性を連れて戻ってきた。


「先生~!このお兄ちゃん達がご飯をくれたの。」

「あらぁ、それは大変お世話になりました。」


先生?って事はミエリのお母さん替わりか。

すげぇ!綺麗な人だぁ・・・


美しさに唖然として呆然状態だった。

まるでモナリザが絵から飛び出して来た様な美貌の持っている上に言動から滲み出る母性もある。

なんて言うか?・・・こう授業参観とかでたまにすごい美人なお母さんが来る時あるだろ。それだよ。


「ミエリがご迷惑をおかけしてすいません。」

「いえいえ、ミエリには命を助けてもらったんで。」

「命を?・・・まぁ、外で立ち話もなんなので詳しいお話は中で聞きましょう。」


俺はお言葉に甘え事にして家へお邪魔させてもらう。


家の中は外観通り広く子供たちの賑やかな声が木霊している。

この孤児院には8人程たちが暮らしているようで一番上の子供は14歳みたいで逆に一番幼い子供は3歳ぐらいでミエリらしい。


廊下を歩き一つの部屋に案内された。

普段は子供の反省屋として使っている部屋らしい、子供がいない時はこうやって応接室として使っているようだった。


部屋に行く途中で何人かの子供にあった。その時にまた疑問に思った。多分だがこれはもう確定だろう!!


少し、タイミングを見て切り出そう。


「先生ぇ~、ミエリ悪い事してないよ?」


ミエリが不安そうに先生の服の袖をつかみ上目使いで訴える。

まるでお仕置きを受ける子供の様な目をしていた。


その状況を見かねた先生はミエリの頭にそっと手を置いて「今日は反省部屋として使わないから安心して。」と言う、その言葉を聞いてミエリは安心したように先生に抱き着いていた。


先生は呆れながらも嬉しそうにミエリを抱きかかえ俺たちを応接室に案内する。


中には机と椅子しかなく、ひどく殺風景だなと思う。

俺は先生を対面にする様に机を挟み椅子に腰かけた、


「お茶の準備をしましょうか?」

「いえ、お構いなく。」

「そうですか・・・ではまず、自己紹介をしましょう。私の名前はアリエルと言います。この孤児院は花園の先生を務めています。」

「アリエルさん・・素敵なお名前です。俺の名前はナツ、志木夏です、そしてこの妖精がピナです、よろしくお願いします。」

「よろしく~!!」

「ナツさんとピナちゃんですね、こちらこそよろしくお願いします」


3人で自己紹介の挨拶をかわす。


「それでは自己紹介も済んだので先ほどのお話を続けましょう。」


俺は話の続きの提案をする、アリエルさんは良く受け取ってくた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


数分間の話し合いで、俺はここまでの経験を話した。


村を探していた事、森を迷っていた事、ソウルフに襲われた事、それをミエリが助けてくれた事、そしてお礼にジュエルラビットをご馳走した事。


俺が話せる事は全てを話した。


「ジュエルラビット!?そんな高級食材をミエリにあげて良かったんですか?」

「いいんですよ、命に比べたら安い物です。」


ジュエルラビットの肉がどれぐらい高いか知らないが命に比べたら安い物だ。


「・・・ナツ、言っとくけどジュエルラビットってナツが想像するより高いわよ?」

「へぇ?いくらなんだ?」

「・・・150ガラよ、1ガラ日本円で約100円と思ってくれたらいいわ。」


1ガラ・・100円って事は。

150×100=・・・いち、じゅう、ひゃく、せん、ま・・・


「15,000円!?」


ウソだろ?あのウサギ1羽で15,000円、ヤバすぎだろ!!任〇堂の3〇Sが買えるじゃねぇか!!


「まぁ、命に比べたら安いでしょ!!あはは。」


コイツ、気が付いてて言わなかったな。

全く、・・・でも、まぁ、この村の現状ならこれは良い選択だったな。

よし、雑談も終わった事だし・・


「アリエルさん、一つ聞いていいですか?・・・答えたくなければ。答えなくても大丈夫です。」

「・・・ナツさんも気が付きましたか。」

「ナツさんも?ってどういう?」

「ピナさんは最初から分かっていたみたいですよ。」

「私は人の心が読めるからね」


なるほど、ピナも初めから気が付いていたのか。


「ナツさん、その質問を答える前にミエルを別の部屋に・・・」

「あぁ、孤児院の子・・・いや、村中の子供は知らないんだろ?」

「ありがとうございます。」


アリエルさんはミエリを他の子供たちと遊んで来なさいと言い、部屋の外に追い出した。


ミエリがいなくなり、部屋には大人・・・いや、ピナは子供か。


「おい!」

「心の声にツッコムなカッコよく決めているんだから。」

「だって、聞き捨てならない言葉が聞こえたんですもん。誰が子供ですって?」

「3歳児が何を言っているんだよ?方向音痴の赤ちゃんが。」

「ムキっ~、」

「あはは、お二人とも仲が良いですね。」

「「ちがう!!」」


アリエルさんが俺らの会話を聞き笑い始める。

せっかくのシリアスの展開が無駄だ・・・まぁ、これが俺達たしいがな。


「じゃあ、アリエルさんに一つ聞きます・・・なんでこの村の大人たちはご飯を食べないんですか?」


この質問は少し意地悪な気がした、なぜなら食べないではなく食べれないからだ。


この村に来てからずっと疑問に思っていた事は2つある。


1,村の人々は全員痩せていた。いや、厳密にはやつれていた。特に大人は全員だ。

2,無理に元気を出す大人たち、まるで誰かに元気だから心配しないでと言いたいようだった。


これらの状況からこの村では食糧不足が起こっている事が分かった。

しかし、ただの食料不足ではない気がする。

なぜなら、この村は食料に恵まれていた。


大きな畑に、家畜たち。近くには奇麗で大きな川もあって魚も取り放題だろう。

なにになぜ村の人たちは全員ご飯を食べないのだろう?


「この世界をあまり知らないようですね。ナツさんは転生者ですか?」

「転生者!?知っているのか?」

「この世界には魔王を倒す為に天界から転生者と言う世界を救う者がたまに降臨するんです。転生者はみな人並外れた強力な魔力と特殊な力を持って現れます。私たちは転生者に魔王討伐の願いを込め‘‘勇者‘‘と呼んでます。・・・ですが魔王に支配されてから200年間誰一人魔王を倒せるものはいませんでした。」


なるほど、転生者は俺一人ではないのか・・・確かにゴミ神もそんな事言ってたな。しかし、アリエルさんが思うような転生者とは少し違っていた。なぜなら俺は魔力がゴミだからだ。


「まぁ、アリエルさんが思う転生者とは少し違いますけどね。」

「ふふ、そうですか。ならあなたに教えます、この村の謎、そして東の守護魔人について」









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異世界転生ストーリーが嫌いな俺が異世界転生してしまったので神を殴って全力で抵抗します。 トマト天津飯 @kinoko0813

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