感じたのは……
月猫
誰か教えて……
私は、幽霊を視たことがない。
人のオーラも視たことがない。
『虫の知らせ』というものは何度か経験しているが、大したことはない。
だから、介護の仕事を始めてから体験した『これ』が、一体何なのか私にもよく分からないのである。
食が細く、ご飯を少し食べては「ごちそうさん」と言う方だった。
なのに私たちが「もう少し頑張ろうね」とご飯を口に運ぶと、何も言わず頑張って食べてくれていた。
多分、ご本人はもう食事を必要としていない。
ただ、私たちのために食べてくれていたのだと思う。
この方は、もうすぐ亡くなるのだろう。
新米介護士の私にも、それ位のことはわかった。
なのにどうして、この方はこんなにも透明感があるのだろう?
死を受け入れているから?
此の世に未練がないから?
もうすぐ命が尽きるとは思えない綺麗なエネルギーの人だった。
そんな風に感じていた方が、お亡くなりになった。
ご飯を受け付けず、どんどん衰弱していく方がいた。
トイレの介助で感じた、その方にまとわりつく黒いモヤモヤ。
夫が倒れる前に感じた色と同じだ。
黒いエネルギーに覆われていたこの方もお亡くなりになった。
ある日の昼下がり、その方にふと目が止まった。
キラキラしているように見えたのだ。
「すぅーっとした、透明感のある方だなぁ。綺麗だなぁ。優しさが、こんな風に現れるのかなぁ? 私も、この方のようになりたいなぁ」
微笑みを絶やさない優しい方だった。
トイレだって一人でできる。
食事もしっかり食べている。
元気だった。
ある日彼女は、便失禁をしてしまった。
「恥ずかしい。情けない。こんな失敗するなんて……」
そう落ち込む彼女に
「大丈夫ですよ。私だって、そのうちしちゃうと思うなぁ。だから、気にしなくて大丈夫」
新米介護士の下手すぎる慰め。
そんな私にも「ありがとう」と言ってくれた。
それがその方との最後の会話。
誰もが驚く突然の死だった。
私のこの体験が、何を意味するのかわからない。
この世に未練も怨みもなく天寿を全うされる人は、透明な色に包まれるのだろうか?
じゃあ、黒いモヤモヤはなんだろう?
あれは、重い病気のサインなのだろうか?
それとも……
感じたのは…… 月猫 @tukitohositoneko
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