あと1ヶ月で転校する僕の青春ラブコメ【書き下ろしSS】
絵戸太郎/MF文庫J編集部
副委員長の杞憂
教室に一人はいる、委員長をさせられがちな女子――
今年もその印象によって、
「そうですね、私も
男子側の委員を決める際、
誠治とは去年も一緒に委員長をした。人となりも優秀さも、よく知っている。
クラス委員は学期ごと選出される。彼を委員長に立てて副委員長に収まれば、二学期は『私はもうやりましたので、他の方に経験を』と断りやすくなる。
押し付けられるなら最良の形で――それが、望月の密かな計算だった。
「こほん。えー機会をいただいたので報告します。この度、相影誠治は、一身上の都合により、この
……大誤算だった。
「そう、ですか。そんな事情が……」
誠治たちが転校アルバムの制作を始動して数日後の、職員室。
望月はそこで、誠治が「聞きたい奴だけ個別に話す」と言った転校理由を耳にした。
「新学期早々、迷惑かけてごめん」
誠治は頭を下げたが、母親の再婚と妊娠について聞けば、急な転校も仕方ないこと。
「とりあえず望月に繰り上がりで委員長してもらって、もう一人を選出……」
「嫌です」
担任教師の提案に、望月は俯いたまま口にする。
場所が職員室なのは、担任が言ったように後任選出の相談のためだったが――
「繰り上げは嫌ですっ、委員長は嫌ですっ、副委員長がいいんです!」
らしからぬ勢いで訴えると、誠治と担任が気圧された。
「そこ、重要なのか?」
「重要ですっ。部長より副部長、会長より副会長なんですっ! 副だからいいんですっ! 委員長みたいな男子を立てて、融通の利かない委員長に融通を利かせられる副委員長って位置取りがいいんですっ。後ろに控えて小さな責任、陰で大きな実権です!」
「……望月って、大和撫子っぽく見えて
「大和撫子って元々そんなんですよ?」
「あんまりそういうこと言うな。今時ちょっと角が立つから」
実家が老舗の和菓子屋である望月の持論は別として、問題は誠治の後任だ。
「だいたい副じゃなくても、委員長なんてやればできる仕事だろ?」
「それは相影くんだからです……」
秀才は自分の働きについて、「大したことはしていない」と言うものだ。
同じ仕事でも無能と比べて四苦八苦しないからだ。逆に無能は、誰でも頑張ればできる仕事で偉業を成した気になる。それが誠治の言葉を真に受けると、悲劇が起きうる。
「なら、先生と望月で後任を決めてくれ」
「そうだね。事情が事情だし、女子二人になってもいいよ?」
誠治の後に、担任が特例を認めた。男女一人ずつは慣例に過ぎない。
望月は級友たちのリストを脳内に広げて、任せられそうな人間を探し始める。
「明丸はどうだ? 成績はともかく引っ張って行けそうだし」
担任が翔を候補に出したが、望月は軽く首を横に振る。
「上から言うより、みんなと一緒になって輝くタイプだと思います。会議をするときも、あれで委員長と上手く呼吸を合わせてますから。現場から引き抜くのは惜しいです」
「
組みやすい性格と丁寧な気配りが好ましいのは、
誠治は複雑そうな顔をしたが、沈黙する。
「
「
「望月が委員長なら、素直な奴を沿えるだけでいいと思う」
何を聞いていたのか、誠治は『副』を外そうとしてくる。
「ですからっ、私は委員長の陰に隠れていただけで、大したことはしてませんからっ」
望月は手を振って断るが、担任までもが納得したような顔で頷いていた。
「まあ時間はあるし、組むのは望月だ。じっくり見極めてくれ」
担任が問題の先送りを決めたことで、望月は副の一字を失わずに済んだ。
「大丈夫かな?」
望月が先に退室した後、担任が誠治に問う。
「あの子なら安心ですよ」
すると誠治は、気負いなく肩を竦めるのだった。
――秀才は自分の働きについて、「大したことはしていない」と言うものだからだ。
あと1ヶ月で転校する僕の青春ラブコメ【書き下ろしSS】 絵戸太郎/MF文庫J編集部 @mfbunkoj
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