第30話

 初夏の、緑が生い茂り、静かな雨が降る日。祖父の墓参りに来ている。傘を差しながらバケツと花を持つのは大変だった。墓場の小道を歩いていると、自分と同じように墓参りに来ている少女を見かけた。自分の通っている高校の制服を着ている。こんな田舎なのに、あんなにスタイルが良くて綺麗な人、いたんだ。思わず立ち止まってしまう。生ぬるい風が吹いて、少女のスカートとネクタイが靡く。少女は持っていた傘を、綴 と書かれている墓石の方に傾けた。

「 次は 私が先輩に、傘、渡しますね 。 」

聞きなじみのないはずなのに、どこかで聞いたことのあるような声。雨粒が滴った黒髪に、見惚れそうになった。短い髪に、白い腕。腕には、深く刻まれた傷が何本もあった。


 

 私が、空を飛ぶことにした日。三月二日。本当であれば、今日は大好きな後輩と屋上で昼寝をするはずだった。しかし、もう引き返すことはできない。上履きを揃えて、柵を乗り越える。春の風は、暖かくて心地が良い。ふう、と息をついた。屋上に繋がる階段の方から、誰かの足音が聞こえる。私は、ドアの方を向いて体重をかかとにかけた。宙を舞う。空はとても澄み渡っていて、昨日 大好きだった後輩と見た空と同じだった。一筋のひこうき雲が空に境界線を引くように浮かんでいた。頬が緩む。後輩の、眩しい笑顔が浮かぶ。


「 ういちゃん、明日はきっと、雨だよ。 」


明日には、もう 私の世界に いない君へ 

                      終

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明日には、もういない君へ 犀川こおり @ko_ri03050

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