ういちゃんへ

 中庭。私は あんなに素敵な場所があることを知らなかった。他人の視線が 怖いものから綺麗なものだと 思えるようになったのも、ういちゃんのおかげだよ。 

 正直に全部書くけど、しばらく学校に行かなかったとき、死のうとしてたんだよね。結局 駄目だったけど。そのあとから、生きている気がしなくなったんだ。ずっと、死んでいるのか生きているのか、わからなかった。でも、一緒に猫を見た日も、手を繋いだ日も、隣で寝息を聞いた日も、寒い手を温め合った日も、最期に微笑んでくれた日も、全部現実ならいいのに ってずっと思ってた。死ぬのに失敗して、気を紛らわすために散歩していたら 鳥居の前で ういちゃんを見かけたんだ。あの時は、声をかけられなくてごめん。腕の傷も、見ないふりをしちゃってごめん。私の腕とお揃いだな なんて思っちゃってごめんね。ういちゃんが 2年生の男子と話してるのを こっそり見たり、心配になって保健室から出てくる ういちゃんの後ろを歩いたりするくらい、本当は大好きで仕方がなかったのに、ごめんね。

 初めてういちゃんに出会った日に 傘を渡したのは、私も同じ経験をしたことがあったからなんだ。雨が降っていることにも気づけないほどに、毎日がつまらなかったとき、すごく綺麗な先輩が傘を差し出してくれたんだ。その先輩は 結局、自分で人生を終わらせちゃった。それから毎日がもっと憂鬱になってさ。死ぬ日まで決めちゃってたんだけど、そんな時に 昔の自分みたいな後輩に出会った。それが ういちゃん。ういちゃんと出会ってから毎日が楽しくて楽しくて、死ぬのがどうでも良くなるくらい、幸せだった。

私は、桜木 初のことが大好きで大好きで仕方がなかった。ういちゃんになりたかったくらい、好きだった。三月二日、私が死ぬことにした日の最期の最期まで、たくさんの初めてと愛をくれてありがとう。


綴 想

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