第29話

 学校を休んで、バスで先輩の葬式会場に向かった。雨が降っていた。先輩と初めて会った日も、雨だったような気がする。この田舎からは そこまで遠くない場所に行くのは、最後に先輩と出掛けたとき以来だった。ういは バスに揺られているとき、ずっと夢の中にいるように感じていた。

 会場に着いてから 受付で名前と住所を記入すると、受付をしていたスタッフの方が あ、と声を出した。

「 綴 様の奥様から お手紙を預かっております。 」

 礼を言って受け取ると、スタッフの方は再び受付の仕事に戻ってしまった。この手紙は、きっと想先輩が書いたものに違いない。しかし、今は読まないでおくことにした。読んでしまえば 終わりを告げられる気がしたから。ブレザーのポケットにそっと入れて、棺桶のある場所へ向かった。親族の方はまだいらっしゃらず、何人かが後ろの列に座っている。軽く頭を下げて席に着くと、 お経が読まれるのを無心で待った。


 お経、数珠の擦れる音、体に響く りん の音、啜り泣く声。耳を塞ぎたくなるほどに、昨日までは聞くはずのなかった音がたくさん聞こえる。ご両親は 俯きながら肩を震わせている。ういは、泣けなかった。ただ、たくさんの花に囲まれている遺影を見つめていた。周りの花よりも、綺麗で眩しい笑顔だ。

 棺桶に花を添える時間がやってきた。すでに先輩の体の上には植物がたくさん添えられていた。添える、というよりは 見えないようにしている感じがした。しかし、顔だけは綺麗なままだった。もう筋肉も緩んでいるからか とても静かな表情で、肌は 絵の具で白色を塗り足したように、更に白くなっていた。ういは 白い百合を手に取って、そっと先輩の左耳の方に添えた。もう触れることも、近づくこともできなくなるのだと思った。そう思うと、やっぱり涙が零れてきた。止まらなかった。あんなに大好きだった人がこの世からいなくなるだなんて、信じられなかった。ういは 大好きな先輩が火葬されるまで、ずっと涙を零していた。


 帰ってきてから 自室に閉じこもった。家に着いたときには もう月が高く上がっていた。ブレザーのポケットから白い手紙を取り出した。手が震えて上手く持てず、両手で持って読んだ。読んでいる最中、ずっと先輩の声がしていた。

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