五色の花の物語

季都英司

不思議な力を持つ五色の花が願いを叶えるお話

 あるところに願いを叶えてくれるという、とてもとても不思議な五色の花が咲いていました。


 その花は赤・黄・緑・青・紫の五色の花びらをそれぞれ1枚ずつ持った幻想的な変わった花で、それぞれの花びらの色ごとに違う力を持っていて、その色の力で願いを叶えることができました。

 そんな五色の花は誰も知らない場所にひっそりと美しく咲き誇っていて、誰も知らないはずの花なのに、なぜかみんなの噂になっていて、いつもみんなが願いを叶えてほしいと、その五色の花を探しているようなそんな花でした。


 五色の花は意志のある花でした。

 そして叶える願いの好みがありました。

 自分のためだけの願いを叶えようとする人間が大嫌いで、欲にとらわれて願いを叶えようとするような人間には、決して見つからないのです。

 そんな人間がどんなに近くまできていたとしても、五色の花がこの人間の願いを叶えたくないと思えば、隠れてしまって絶対に見つけられないのです。

 そうしてずっと長いこと隠れて咲いていました。


 そんな五色の花が、なぜ噂になるかと言えば、もちろん願いを叶えた人が実際にいるからなのです。


 最初に願いを叶えたのは、小さな村で働く青年でした。

 彼の村は豊かな土地から遠く離れた辺境で、とても痩せた作物もろくに育たないような村でした。

 それでも彼は必死に土を耕し作物を育て、森でわずかな食べ物を探し、自分の家族のみならず村のみんなに分け与えるようなそんな青年でした。

 彼はあるとき森の奥深くで五色の花を見つけました。このときはまだ誰も五色の花を知りませんでしたが、美しく不思議な花の神々しさを見た彼はつい祈りました。

『自分の村が豊かになりますように』

 五色の花はその願いを気に入り、緑の花びらをその青年に与えました。

 青年がその花びらを持ち村へ帰ると、その後不思議と村はたくさんの作物がとれるようになり、近くの森には果物や木の実が豊富になるようになりました。

 青年はその不思議なできごとをたくさんの人に伝え、それが五色の花の伝説の始まりとなりました。


 次に願いを叶えたのは、病に苦しむ母を持つ少女でした。

 少女は母を心から愛しており、少しでも体がよくなるようにと苦労して働き栄養のあるものを食べさせ、森で病に効きそうな薬草を探して母に与えていました。

 少女はあるとき家の近くの草原で五色の花を見つけました。このときには五色の花の話は少しだけ噂になっていましたので、わらにもすがる気持ちで願いました。

『母が元気になりますように』

 五色の花はその願いを気に入り、紫の花びらを少女に与えました。

 少女が五色の花が伝えたとおりに花びらを母に飲ませると、母は見る間に回復し元気になりました。そのあと二人は仲良く元気に暮らすことができました。少女は五色の花にとても感謝し、この不思議な花の話をいろんな人に話しました。


 次に願いを叶えたのは小さな国の王でした。

 王は国を大事に思い、国の民を豊かにしようと思い日々頑張っていましたが、小さな国では財もなく、つねに他の国から攻められる危機を抱えていました。

 そんな王はあるとき隣国に攻められた戦の帰り、山の中で五色の花を見つけました。

 王はこれが伝説の花かと気づき、花の前に身分も顧みず跪くと強く願いました。

『この国の民が永く幸せでありますように』

 五色の花は王が心から民を思い、自分のことを願いに含めない様に感服し、黄色の花びらを王に与えました。

 王が花びらの導きのままに国の中を探すと、そこには莫大な金脈が出てきました。王はその金で国を豊かにし、自分はけしておごらず贅沢をせず長い間国を治め、民を幸せにしたと言います。そして、王は国の紋章にこの五色の花を飾るようになりました。


 次に願いを叶えたのは、砂漠を行く老人でした。老人は配達人で、人の思いを書き綴った手紙をたくさん届ける人でした。

 老人はあずかった大事な手紙を届ける最中で危険な場所として知られた砂漠を通りました。手紙の宛先が砂漠の向こうの国だったからです。

 その手紙は、遠くの国に働きに出向いた青年が恋人に向けてあてたものでした。老人はこの手紙を尊く思い、必ず届けようとだれも通らない砂漠を通ったのです。

 この砂漠は広く、そして水もなく、永いこと二つの国をへだてていました。とてもとても厳しい場所でした。

 老人の配達人も途中で倒れてしまい、一歩も動けなくなりました。そんなとき砂漠に咲くはずもない五色の花を見つけたのです。

 幻かと思いましたが、伝説のことを思い出し、老人はこう願いました。

『この砂漠に水が湧きますように』

 老人は死の間際に自分ではなく、この砂漠を通る人を思ったのです。

 五色の花はその思いに感じ入り、青の花びらを老人に与えました。青の花びらは老人の近くに大きなオアシスをつくりました。老人はその水のおかげで回復し、それ以降この砂漠は二つの国の道として活躍することとなりました。


 最後の願いを叶えたのは、とある両親でした。その両親は別の国から仕事のためにこの国にやってきましたが、よその国からきた家をなかなか受け入れてくれず、まだ小さい子供もずっと一人きりでした。

 なにより子供に友達がいないことをかわいそうに思った両親は、伝説を聞き五色の花を探すことにしました。噂をたよりに仕事の隙間をぬってはあちこち歩き回りましたが、普通に探して見つかるわけもなく、徒労に終わる日々が続きました。

 もうだめかと諦めかけたとき、なんと自分の家の花瓶の中に五色の花を見つけました。

 両親はこう願いました。

『この子にずっと仲良くしてくれる誰かがいてくれますように』

 両親の子を思う気持ちを気に入った五色の花は、赤の花びらを与えました。

 赤の花びらを持った子供のところに、あるときふらりとやってきた女の子が声をかけました。その子は子供が持っていた赤の花びらが気になっていたようでした。

 両親の子供とその女の子は、とても仲良くなり友達になりました。実はその子はその国の王族でした。この二人が友達になったことをきっかけにこの国は開かれた国になり、よそものだからと受け入れられないことも減ったと言うことです。

 余談ですが、その子と女の子は後に夫婦となったという話です。


 さて、そんないろいろなことがあり、五色の花の伝説は大いに広まりましたが、それから願いを叶えてもらった人はいなくなりました。

 なぜなら、五色の花の花びらが全部無くなったからです。五色の花はすべての花びらをあげてしまい、ただ黒くなってしまいました。

 もう五色の花は五色ではなく、願いを叶えることも出来なくなりました。五色の花は自分が美しくなくなったことを少しだけ悲しく思い、そして願いを叶えられなくなったことをとても悲しく思い、今度こそ本当に隠れてしまいました。

 そうしてだれもこの黒い花を見つけることもなく、永い永い時がたちました。


 そんなある日のこと、黒い花のところに小さな少女がやってきました。

 どうして見つかったのか黒い花にもわかりませんでしたので、黒い花は驚きましたが、すぐにその理由がわかりました。

 少女にはなにも願いがなかったのです。

 日々満ち足りていて、幸せで、とくに願うこともなかったのです。


 そんな少女が黒い花に言いました。

「わあ、素敵なお花!」

 その言葉に黒い花は驚きました。そしてうれしくなりました。それはきっとこの黒い花が言ってほしいと願っていたことでした。

 するとどうでしょう。黒い花に花びらが生えてきました。

 赤・黄・緑・青・紫。

 それはあの日の五色の花でした。

 五色の花はまた綺麗な姿を取り戻したのです。



 あるところに願いを叶えてくれるという、とてもとても不思議な五色の花が咲いているといいます。

 その花は今もきっと世界のどこかにひっそりと咲いているのです。

 また願いを叶えているかは別のお話。

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