はじまりの海②

『私にとっては、ただ不時着しただけの異国の地。何の思い入れもありはしない。地球の侵略は、我々Z惑星人にとっては将来の住処すみかが得られ、私は新天地を発見した功績で出世できる。この星を奪うことは、私にとって得にしかならないはずだった。』


そこで、開発者は一度言葉を切った。


それまでの雄弁が嘘のように、少しだけ長い沈黙が続き


『惑星Zから返信があり、新しい移住地の発見に上層部はいたく喜んでいた。地球を陥落かんらくさせるため軍団を送り込むとのことだったが、惑星Zから地球までにかかる時間は約550年。私には その間に地球についての調査が命じられた。

ここが惑星Zの支配下となった時、速やかに統治を行うためだ。

植民地を得た時、一番難しいのはその土地にいた者達の処遇しょぐう。ここでは君達 地球人のことだが。私は地球人に姿を似せて君達を詳しく調べることにした。将来、奴隷化した時に生態や傾向が分かっていれば扱いやすいからね。』


そして、またしばらくの無言。


『しかし今から考えると、姿形だけでなく思考まで君達に似せようとしたのが大きな間違いだったのかもしれない。まあ色々あって、私は地球を……人類を滅ぼしたくはないと強く思うようになってしまった。

だが既に惑星Zからの制圧部隊は出発している。彼等が到着するまでに何百年もあるとはいえ、それまでに地球人が我々に対抗しうる技術力を持つことは不可能だ。

そこで私が考えたのが、やって来た惑星Zの仲間達を仮想空間に閉じ込め、実際の地球から切り離すという苦肉の策だった。』


ようやく辿り着いた話に、安堵とともに同じくらいの驚きに襲われた。


「それで作ったのが、このクダラノだったってことか?」


呟いた俺の問いに、キャンディがぎこちなく頷いてくれる。


「とりあえず、あいつが敵じゃないってのは本当かもしれないけど……」


アカネが歯切れ悪く言うように、それで当然 めでたしめでたし とはいかない。


『地球を救おうと決めた私は、当然この事実を地球人達へ広めようとした。最初に漂着した日本を足掛かりに世界中の首領に掛け合ったが、当時は今より世界が分断されていたし、君達は争いごとを繰り返していた。地球としての代表に謁見えっけんすることが出来るようになったのは、ここ50年ほどのことだろう。

紆余曲折うよきょくせつあったが、有難いことに今の首脳達は私の話を信じ、秘密裡ひみつりにではあるが惑星Zからの侵略への備えを進めてくれた。』


こんな大事な話を今の今まで俺達が知らなかったのは、恐らく偉い人々だけで共有して庶民には隠していたためだろう。


『この事実を内密にしていたことで君達のリーダーを責めないで欲しい。何故なら、惑星Zの大軍が地球に到達するのは本来ならば約300年先の予定であったからだ。恐らく惑星Zはこの期間に新しい法則でも発見したのだろう。航行の距離が大幅に短縮され、予想外に早く襲来がなされてしまった。』


そういえば、あの国連のおっさんも同じようなことを言っていた。


『とはいえ、300年先だったとしても地球が惑星Zの科学技術に追いつくことは不可能だ。やはり別次元へとおびき寄せるしかなく、その計画に沿って私は着々と仮想現実の世界を構築していた。

惑星Zに比べ劣るとはいえ、ここ数百年での君達の進歩には目をみはるものがある。その中で、つい最近であるが世界中に広まった“ゲーム”というものに私は着目し、これを利用することは出来ないかと考えた。

敵を仮想現実に封じたところで、いつまでも大人しくしていてくれるとは限らない。それならば、“こちらのルール”が通用するうちに殲滅せんめつしてしまうしか地球側に勝ち筋はない。

このクダラノは、惑星Z軍の閉じ込めと、彼等と戦う訓練場。その二つを目的として発足ほっそくしたものだった。』


そう説明され、クダラノに来たばかりの認識の俺としては素直にその話に頷くだけである。


しかし、他のプレーヤーは違う。


「ずっと疑問だったことがに落ちたわ」

「今から考えると確かにね」

「あ、じゃあクダラノ七不思議のあれもそうってこと?」


皆が興奮したように一斉に語り出す。


俺には分からないが、恐らく思うところが色々とあるのだろうか。


だが、そんな喧騒けんそうの中で俺の頭には ふと一つの疑問が浮かんだ。


クダラノはゲーム。


ならば、ゲーム内で使用するのは魔法や特殊能力みたいな非現実的な力のはず。


そんな夢のようなものが、宇宙人とはいえ現実世界の相手に通用するものなのだろうか。


『そうそう。このクダラノ内で君達が使っている魔法や技能についてだが。』


すると、まるで俺の心を読んだかのように開発者はその件を話し出した。

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最強ランカーはレベル0の捨て垢で地球を救いたい 愛澤 ゐ猫 @reiroh

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