はじまりの海①
なら、一体 誰だって言うんだ?
そんな不信感が
『私は、このクダラノの開発者だ』
その少年は、確かにそう言った。
「え」
驚きの声をあげたのは、俺だけだった。
他の皆は持っていた酒瓶を落としたり、あんぐり口を開けたままスクリーンを見上げているだけ。
それだけ、驚きが大き過ぎるということなのだろうか……。
「開発者って……」
「本当に存在してたのか」
呆然としたまま呟くカーラとタイカさんの声。
相変わらず事情が分からない俺だけれど、その言葉で彼が姿を見せるのは相当な事なのだと理解できた。
『このクダラノをプレイしてくれている皆には心から礼を言いたい。本当は色々積もる話もあるのだけれど、なんせ時間がない。手短に要件だけ伝えることを許して欲しい』
そんな俺達の混乱は意に介さず、見た目に似つかわしくない冷静な口調で淡々と彼のセリフは続けられる。
『まず、この映像はリアルタイムではない。侵略者がクダラノに閉じ込められて少ししたあたりの時に僕はこれを撮影している』
……ということは、俺達が国連のおっさんからの放送を聞いていた頃だろうか。
『さて、どこから話せばいいのやら。最初から説明すると一晩かかっても語りきれないのだが、奴等は、もうそこまで迫っている』
そんな開発者の一言に、俺達……いや、クダラノ内の誰もが何かしらの不穏な雰囲気を感じ取ったに違いなかった。
『……物語の本当の始まりは、数百年も前に
そして、本当に長い長いストーリーを少年は語り出した。
『気づいている者もいるかもしれないが、私は地球人ではない。君達が地球外生命体とか宇宙人と呼ぶ者。
私の故郷は、今の君達では観測することも出来ないくらい遙か遠い場所に存在している。仮に惑星Zとしよう。惑星Zには知的生命体が生息し、地球よりも進んだ技術をもっている。
ああ、ただし外見は世の中でいわれているエイリアンのような見た目ではない。もっといえば姿とか形という概念はなく、私達は地球人とは違う“次元”違う“階級”のモノであり、一番近い存在をあげるとすれば、それは “神”と呼ばれるモノになるかもしれない。
話は脱線したが、惑星Zにはある危機が迫っていた。彼等の住む惑星はあと数千年ほどで寿命を迎えてしまうのだ。既に宇宙を航行できるレベルに達していた惑星Zの人々は必死に次の移住先を探し、各銀河に偵察員を送り込んでいた。その1人が私だ。
300年に渡り宇宙を航海していた私だったが、ある日 乗っていた機体がトラブルに見舞われてしまう。仕方なく不時着できる地を探し、偶然見つけたのが……この星だった。』
そこで一旦 開発者が言葉を切るまで、誰もが息継ぎすらできないようにその演説に聞き入っていた。
正直にいえば、俺は語られる話の半分も理解できていなかったと思う。
あまりにも
まるで、出来の悪いSF小説の出だしでも聞かされているような気分だった。
『そうそう。もしかしたら、クダラノのモンスターがおかしな形態をしているのは惑星Zの生物をモデルにしていると推理したプレーヤーがいたかもしれないが』
ふと思い出したように開発者は明るい声で言う。
『それは違う。何故なら惑星Zに住むモノは、君達からすればそもそも見えるとかそういう以前の問題だ。あれば私が適当にデザインした。将来 惑星Zからの襲来があった時、先入観を持たず地球の常識は通用しないと知って欲しかったので、あえてセオリーを外した珍妙な姿にしてみた」
と、どうやらシーファの推理ははずれたらしい。
斜め前を盗み見てみると、その紺色の瞳はどことなく不満そうである。
『この地球という惑星の存在は、私にとって嬉しい驚きだった。広大な宇宙でも生命、まして知的に発達した生物を
私は、まだかろうじて生きていた通信機器で遙か彼方の惑星Zへと報告をした。“
略奪。
「はあっ? じゃあ、こいつが地球を侵略してきた元凶じゃねえか」
「最初からそのつもりでクダラノを作って俺達を閉じ込めたってことかっ!?」
あっさり語られた衝撃の一言に、周囲からは一斉に怒声が沸き起こった。
それは無理もない。
いま彼ははっきりと、この地球を狙って仲間を呼び寄せたのだと告白したのだから。
「うるさい、黙れ」
しかし、それを静かな声で制したのは さっきまで
「そうよ。本当に彼が敵側なら、この状況はおかしくない?」
「とりあえず、続きを聞いてみようよ」
そう続けたのはミドリコとヒロカ。
俺の印象では彼女達は普通のギャルというイメージだったが、その振る舞いがかなり冷静沈着なことに少し驚かされた。
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