日蝕③

……けれど、俺もそんな外見だけに惹かれたのだろうか?


こう上手くは説明できないけれど、俺は彼女のもっと深い部分を……。


 『早速ですが、私から今後のクダラノの展望についてお話ししたいと思います』


しかし、何かに辿り着けそうだった思考は、彼女の美しい声音によって中断させられてしまった。


「おい、キラがいる」

「あ、スィーティーも」


周囲がスクリーンを指さして言うから俺も目を向ければ、それまで気づかなかったがインティの背後には他にも誰かが映っていた。


右側にはキラキラした青い髪の物凄い美形の青年。左側は……ウサギ?と人間の女の子を交ぜ合わせたようなピンク色の獣人がそれぞれ正面を向いて座っている。


『改めて自己紹介します。私はインティ、クダラノのNo.2ランカーです。こちらがキラ、No.4。スィーティー、No.5。要はトップランカーと呼ばれるプレーヤー達となります』


俺は、どうしてインティがそんな回りくどい話をするのか分からなかった。


皆の反応からするに、彼女がすごい存在ということは誰もが知っている。


わざわざ自分の地位を自慢するような人には見えないし、一体どういう目的なのだろうか?


『ちなみにNo.1のアマテラス、No.3のシュヴァートは現時点ではログインが確認できていません。

私がこのような話をするのは、この混乱した状況ではクダラノに取り残された者達の意思統一が必要と考えるからです』


そんな俺の疑問に答えるように、あくまで淡々とその形の良い唇は語り出す。


『ならば、プレーヤー全員をまとめリーダーシップをるのは誰が適任か? それはクダラノ内で唯一目に見える順列であるランクに沿うのが反発が少ないと判断して、こんな話をさせてもらってる』


ウサギ獣人が後を継ぐように説明する。


『ほら、キラも何か言ってよ』


そして、そのピンク色の腕は小声で横の美形をつついたが。


『…………』


いや、喋らないんかい。


自分には関係ないみたいなつらですかしてるキラと呼ばれた青年に俺は心の中で突っ込みを入れたが、周囲の人々はそれを眺めているだけ。


この雰囲気からするにランカーというのはかなりの有名人達であり、彼等の人となりも広く知られているものなのかもしれない。


『そういう理由から、現状では私達が皆さんの代表となることご了承ください。状況が落ち着いたら、当然 話し合いや選挙などへ向けた行動もとりたいと思っています』


そうまとめたインティの言葉で、俺や他の人々も大体は納得した様子であった。


迅速に誰かが代表となり意見の取りまとめや調整役をこなさなければならない。


それには多数の参加者が認める象徴しょうちょうとしての何かを持ち得ていることが必要で。


クダラノでは、それが『ランク』というものだったのだろう。


しかし、あくまで世の中は多数決。すれば必ず主流に異議を唱える者というのも存在する。


「はあ? 俺達の時と話が違ってるじゃんよ」

「外の世界の偉い奴に従えとか言ってたよなあ?」


不満そうに口を尖らせているのは、当然あの小林達の集団。


「さっき確かにお前ら そう言ったよなあ?」

「ダブルスタンダードですかあ?」


こちらに近づき、下からのぞき込むように俺達をにらみつける三つの顔。


その態度は確かにムカつくものの、こいつらもこんな奴等だったか……?


俺の知っている彼等は、クラスの隅でゲームの話で盛り上がる 目立たないが悪いこともしない普通の男子生徒だったはず。


何があって、こんな別人格のようなことになってしまっているのか。


 『このクダラノ内で無理にリーダーを決めずとも、現実世界からの指示に従えばいいのではないか。そう思っているプレーヤーもいると思います』


だが、小林達の悪態に答えるようにインティは言った。


『私達も最初はそう考えていました。……だけど』


それまで堂々と話していた彼女の表情がふと曇る。


「どうしたんだ?」

「そんなの、リアルの世界と繋げばいいだけだろ?」


言い淀んでしまった沈黙に周囲からはざわめきが起こるが。


『……これについては、まあ直接見てもらったほうが早いと思う』


代わりに口を開いたのはスィーティーというウサギ獣人。


『よいしょ』といいつつ何かのボタンを押した姿が映っていたスクリーンは、一瞬の乱れの後 全く別の場面に切り変わった。


 『やあ、こんにちは』


そこには、まるで時代劇のような簡素な着物を着た少年が薄闇の中にたたずんでいた。


「なんだ」

「誰だよ」


それが誰か分からないのは俺だけじゃなかったようで、周囲からは戸惑いにも似た声がそこかしこから上がる。


「あれもランカーか?」

「いや、あんなプレーヤーは見たことがないな」


いつもは何でも自信ありげに喋るシーファさえも首をひねっている。





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