日蝕②
「それに、もしクダラノ内で団結する必要がある時は、そのトップはアマテラスくらいにしか務まらないと思います」
続けてきっぱり告げたのは、それまで黙って皆の話を聞いていたカーラだった。
アマテラス……?
全く馴染みのないはずの名前に、何故か少しだけ頭がズキンと痛んだ気がした。
「はあ? アマテラスだあ?」
「あんな奴が何の役に立つんだよ」
しかし、それを聞いた途端小林達の表情が急に険しくなったのが分かった。
まるで、その人物?に恨みでも抱いているかのように。
「少なくとも、お前らよりは大勢の人を動かせるだろ」
「知名度も実績も信頼も、どっかの底辺プレイヤー達とは大違い」
そこに便乗するようにタイカさんとミドリコが彼等を
「なんたってランク1位だもんねえ」
「支配するとか、せめてランカーになってから言えよ」
「笑えるんですけどー」
追撃でとどめを刺すのはヒロカ、アカネ、キャンディ。
面と向かってそれを言われた小林達は、ぐぬぬぬと悔しそうな顔を真っ赤にしている。
それにしても、戸田はまだ分かるとして、天野や榎もこんな奴だったか……?
「う、うるせえ!」
「お前らなんて、宇宙人の前に始末してやるからなっ」
唾を飛ばしながら怒鳴るイクリプス?の連中。
「やってみろよ」
「とっとと出て行きな!」
それに言い返すトリアエズの町の住人達。
間違いなく俺だけが この
……一体、どうしたらいいんだ。
どんどんヒートアップしてゆく周囲についてゆけず、増々小さくなっていた俺だったが。
『間もなく、No.2ランカー インティのライブ配信が始まります。視聴しますか?』
そんなアナウンスが急にどこかから聞こえてきて、驚きに跳ね上がった。
「おい、インティが何かやるって」
「え、アマテラスじゃなくて?」
見回せば、俺と同じようにそれが聞こえた人もいれば、そうじゃなさそうな人もいる。
どういうことだろうか。
「あ、アタルは聞こえたんですね」
キョロキョロとする俺にカーラが近づき声をかけてくれた。
「うん。なんか直接 頭に話しかけられるかんじで……」
それはクダラノ全体に響き渡った緊急放送とは違い、まるで耳元で囁かれるようなヘンな感触だった。
「アバターが、そういった情報を受け取る設定になっているんでしょう」
耳を触る俺に、あくまで冷静に彼女は言う。
「設定?」
「“運営や他プレイヤーからのお知らせを受け取る”って項目があるんです。それがオンになっているのだと思います」
そう説明されるが、さっきスカウターの出し方を知ったばかりの俺には何とも難しい話だ。
まあ、それは後で何とかするとして。
「その、インティ?ってプレイヤーなのか?」
まず疑問に思っていたことを尋ねると、当然のようにカーラは頷く。
「このクダラノにおける不動のNo.2。アマテラスの影に隠れていますが、相当の実力者です」
「噂だと、このゲームの開始からプレイしてたらしいわよ。アマテラスとも10年来のつきあいだとか」
ビクトリアさんも会話に入ってきた。
「へえ、そんなすごい奴が一体なんの用なんだ」
俺は当然の疑問を口にしただけ。
なのに、そのインティという名に触れるたび、今度はどうしてか胸のあたりがチクチクとするのだ。
「恐らくですが、わざわざ全体チャットに通知したのはクダラノとしての方針を語るつもりなんでしょう」
「もしアマテラスがログインしてないなら、彼女が現状のトップってことになるもんね」
カーラとビクトリアさんの口調からするに、その人はかなりの重要人物のようだ。
胸のざわつきを抑えるように空を見上げると、ちょうど町の上空には四角いスクリーンが現れた。
てっきり、あの国連のおっさんのような人が登場するのだと思ってたのだが
『皆さん、見てくれて ありがとう』
そこで俺が見たのは……
「ちょっ、アタル
とても、とても美しい
「汚いなっ。早く拭いてよ」
キャンディにボロ布を押しつけられるが、そんなものも目に入らない。
見つめているのは、
俺は、一瞬で彼女に目を奪われていた。
「インティに見惚れるなんて、アタルも男だのう」
「まあ、クダラノの男性プレーヤーは、必ず一度は彼女に恋するって言われてるくらいだしね」
シーファとタイカさんに からかわれたが、そんな声も耳に入ってこないほど、俺はただ ひたすらに空を眺めた。
確かに、インティは美しい。
男ならその美貌に見とれてしまうのは当然だろう。
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