日蝕①

「なんだ、驚かすなよ」


思わずそんな言葉が口をついて出たが、そもそも今は昼間。


店の中の電気が消えたところで、それほど支障はない。


慌てた自分がちょっと恥ずかしくなった。


「……それで、プレイヤーの死についてだが」


周囲が落ち着いたタイミングを見計らって、話題を戻そうとシーファが一つ咳払いをする。


そうだ、このクダラノのゲームオーバーのシステムについて話していたのだった。


「ああ、そうだったな」

「とはいっても、こればっかりは試す訳にもいかないしな」


それについて、再び皆が顔を見合わせた時。


 「おう、こんな所に集まってたのかよ」


突然 乱暴に開いた店の扉。


振り向けば、そこには見るからにガラの悪そうな男達が立っていた。


今度は一体何なんだ?


「何の用だよ」


その光景を眺めていた俺の前で勢いよく立ち上がったのはアカネ。


「ヘンなことしたら許さないから」

「私達には接触しないって約束だったよね?」


続いて、ミドリコとヒロカも怖い顔で店の出入口へと向かってゆく。


そんな様子に、更に俺は首を傾げた。


「なんだよ、冷てぇなあ。一緒にクダラノに閉じ込められた同士だろ」

「クラスメイトとして助け合おうぜ?」


男達の真ん中にいたやけに美形なプレイヤーが肩をすくめる。


ん? クラスメイト?


「あいつらも、アタルやお姉ちゃん達の知り合いなんだってよ」


その言葉に引っかかっていた俺に、キャンディが横からそっと教えてくれた。


「え、そうなのか?」


あんなイケメンの知り合いはいないはずだが。


「頭の中で、“確認”とか“スカウター”って思ってみて」

「は?」

「いいから、やってみろ」


突然の指示に戸惑う俺に、キャンディはぶっきらぼうに言う。


なんだよ……。


心の中で思いながらも、言われた通り『スカウター』という言葉を思い浮かべてみると


「うわっ、何か出てきた!」


すると、突然 目の前に中にデータ画面のような映像が現れた。


「それが皆がスカウターって言ってるやつ。仲間や敵の情報とかアバターの設定、色々そこから分かるから」


偉そうに教えられたのも当然。確かにこれはすごい便利機能だ。


さっきモンスターに遭遇した時、皆が何を言っていたのかがやっと分かった。


早速その機能を使って改めてイケメンを見てみると。


「え?」


スカウター上にあらわれたのは


「小林、竹内、木暮?」


聞いたことのある名前ばかり。


「ん? 間瀬じゃねえか」


すると、竹内と表示された青年がニヤニヤと俺へと近づいてきた。


「え?」


どうして、俺の本名を?


「まあ、この間は色々あったけどさ。クラスメイトのよしみで仲良くやろうぜ?」


この肩にひじを置いて、馴れ馴れしく笑いかけられる。


「……えっと」


「ちょっと、アタルに触らないで」


そんな態度に固まってしまっていると、きびすを返したミドリコがその腕を振り払ってくれた。


「おお、こわー」

「いいじゃんよ。俺らD高3年3組の仲間じゃん」


大袈裟に身震いをする竹内と、ミドリコへ薄ら笑いを浮べてみせる木暮。


D高校3年3組は俺の通う学校と学年、クラス。


やっぱり間違いない。こいつらは、クラスメイトの小林達3人組だ。


しかし、それにしたって俺は彼等とも接点はほとんどない。


調理実習で食材を忘れて来た小林に卵を分けてやったのが唯一の関わりだったはず。


ミドリコ達といい、このゲームの中で俺は彼等とどんな関係性だったのだろうか。


「まあ、今日は揉めるために来たんじゃねえんだよ」


そんなことは聞けないでいる俺の横で、小林は皆へと切り出した。


「どうせろくでもない話だろ。さっさと帰れよ」


取り付く島もないアカネに、彼等は少し苛ついたような素振りを見せたが


「いいのかなあ~、これからクダラノを支配する俺達イクリプスに逆らっても」


どことなく舐めた態度で、そんなことを言ってのけたのだった。


「は?」


その場にいた誰もが呆気にとられた顔をしていた。


「……イクリプス?」

「後で教えてやるから、黙ってて」


それが何を意味するか分からない俺は隣のキャンディに聞いてみるが怒られてしまう。


「それは、可笑しな話だな」


ざわつく雰囲気の中、静かに口を開いたのはシーファ。


「あ? 誰だてめぇ」


竹内が近づいてガンを飛ばすが、そんなものを当然 意に介する彼女ではなかった。


「確かに私達はリアルへ戻ることは不可能となったが、情報が遮断しゃだんされている訳ではない。それならば現実世界でのリーダー……まあ便宜的べんぎてきには国連のお偉いさんや各国の首脳の指示に従うものではないか?」


冷静にそんな話をされると、それはそうだと納得させられた。


小林達はクダラノを支配すると言ったが、これはもうゲーム内で収まるような話ではないのだ。


宇宙人侵略という地球上の歴史的大事件なのだから、これからの方針や決断については全世界で協議してゆくのが当たり前だし、そうでなくてはならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る