お茶でもしましょう③
「なるほど」
それから。町に戻った俺達は、今まであったことや俺の記憶喪失のことをかいつまんで皆に説明した。
武器屋(武器屋だったらしい)の中には出て行く前よりも人が集まっていて、店から
「何はともあれ、モンスターを倒せると分かったのは大きい」
中央で話を聞いていた白い
「そうね」
「そこについては何かを変える必要はないってことだもんな」
ビクトリアさんとタイカさんがほっと息を漏らしたように、人というのはどうすればいいか分からない状態が一番しんどいのかもしれない。
それまでは
「でも、それって やけに私達に都合良くできてない?」
しかし、そんな
「都合?」
「うん。なんていうか、私達は今まで通りにするだけで通用するなんて、敵からしてみればずるいっていうか」
言いたいことは、何となく分かるような気もする。
確かに俺達は合意もなくゲーム世界に閉じ込められるという理不尽きわまりない目に遭っている。
しかし、地球に侵略者襲来! という絶望的な状況の割には案外平和……とまではいかなくても平常は保てている。
それは、とりあえず命の危機については自力で解決できる目途がついたことが大きいだろう。
でなければ、今頃もっとパニックが起こっていてもおかしくない。
「うむ。それは、最初からそういう風にこの世界が造られていたのだろう」
ミドリコの疑問に答えたのは、顎に手をあてたシーファであった。
「そういう、風?」
「そうだ。こういう状況になった時、プレイヤー側、ひいては地球人側が有利になるように仕込んでいた」
そう語る彼女の口調は滑らかだ。
「さっきからその説を推しているが、何か理由はあるのか?」
武器屋の主人に尋ねられ、シーファはちょっとキョトンとするが
「まあ、クダラノの開発者なら、それくらいはやってのけるだろう」
胸を張るが、特に根拠はないらしい。
「……でも、その説なら説明がつくことも実際あるんじゃないかと思うんです」
そう横から会話に入ってきたのはカーラだ。
「例えば?」
ボーテさんの問いに、少し考えた後
「例えば、このゲーム内の“死”のペナルティが必要以上に重かったこと」
ポツリとした発言に、他の皆は互いの顔を見合わせる。
だが、俺にはよく意味が分からない。
「クダラノでは、戦闘不能=死とみなし強制ログアウトをさせられるんです。それに加えてレベルの減退や罰金などもあり、他のゲームに比べ格段に厳しい処置がとられていた」
首を傾げていると、そんな話を簡単にカーラが説明してくれる。
確かに、それは俺が知っているゲームの常識ではありえない。
大体ゲームというのはプレイヤーを楽しませるもの。
ゲームオーバーとなったとしても、すぐにまたチャレンジしてもらわなければ意味がない。
それを、そんな意地悪のような真似をするというのはなるほど異常だ。
「こういう事態に備え、死に対する
タイカさんの言葉は的を得ているように思えた。
普段から死んでもいいと思ってプレイするのと、必死でそれを回避しているのとでは、いざという時の結果は全く別物になるだろう。
ここまでの話を総合するに、今がそのいざが来てしまった時ということなのだろうか……。
「でも、ゲームオーバー……要は死んだ場合どうなるかって問題は解決していない」
キャンディの呟きに、それまでざわついていた一同が静まり返る。
そう。もし前々からプレイヤーが死を避けるよう教育されていたのだとしたら。
つまりは、それは死んだらヤバいという
確かにレベルに見合ったモンスターと戦っていれば死ぬ確率は減らせるのだろうが、もし突発的に格上の敵と戦わねばならなくなったりしたら……。
それは、あまり考えたくない現実だった。
「うおっ」
そんな沈んだ空気でいた俺達は、誰もが一斉に
足元が突然大きく揺れたのだ。
「地震?」
隣の家から盆に載せたコーヒーを運んでいたヒロカが声を上げる。
「クダラノに地震はないはずだ」
「何かの不具合か?」
他の面々が口々に言い合っていると
「きゃっ」
突然、辺りは暗闇に包まれた。
女性の悲鳴があがる。
俺や他の人々も何事かとざわついていたが
「あ、ついた」
アビーが言ったように、すぐに店の中の豆電球には明かりが戻ってきた。
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