お茶でもしましょう②
「レベルは5。このレベル16エリア付近ではよく見かける水属性に弱いモンスターです」
カーラの説明に他の皆は頷いているのに、俺だけが状況についてゆけない。
「予想が正しければ、いつもみたいに普通に倒せるはずなんだよね……」
隣でミドリコが青色の刀を握りしめながら言った。
「こうなったら考えていても仕方ありません。私が行ってみます」
「ううん、水属性に弱いなら私が」
「いや、ここは僕が」
そして、何故か急に前のめりになる面々を俺がボーっと眺めていると。
「皆、頼もしい限りだな」
それまで当然のように仕切っていたシーファが一歩下がって満足気に微笑んでいる。
「お前はどうするんだ?」
何故か他人事の顔に尋ねると、紺色の瞳は意味ありげに俺を見て
「前にも言った通り私は戦力にはならんのでな。後は頼んだぞ」
あっさり、そう
そういえば、確かにそんなことを言っていたが。
「役立たずのくせに、あんな威張っていたのか?」
「お主に言われたくはない。……が、つい普段の癖が出てしまってな」
少し気まずそうなところを見るに、彼女も自分がレベル0という事実をすっかり忘れていたのだろう。
とすると、セカンドでない本来の彼女はかなり強いプレイヤーだったということなのだろうか?
だが。そんな俺達がわちゃわちゃと騒いでいる都合などモンスターは待ってくれなかった。
ヴィゥーィインッ
不機嫌な唸り声は、既に間近に迫っていた。
「え」
聞こえた
……死ぬ
大袈裟でなく、生まれて初めて俺はその恐怖を感じた。
「ジブール!」
けれど、目の前で鮮やかな水飛沫があがる。
ミドリコの青い刀から飛び出したそれは、俺に触れる直前だったモンスターへと直撃した。
続いて甲高い雄叫びがあがり、目の前に転げたピンク色をした毛むくじゃらの鳥のような体から煙があがったかと思うと
「……消えた」
まるで蒸発するように、その姿はあっけなく消え去ってしまった。
「これって」
確かに、アニメなんかじゃよく見たことのある光景。
けれど、それは間違いなく自分の目の前で起こったこと。
この臨場感は、音も光も感覚も、単なるゲームとはとても思えない。
ここは、もう一つの“現実”なのだと……その時に初めて俺は実感したのだった。
「おお、これは予想が当たったのではないか」
「本当に普通に倒せたな」
ただ立ち尽くす俺の横でシーファやボーテさんが喜びの声をあげる。
「うん、特に変わったところはなかったと思う」
「今までと同じように、自分が倒せそうな敵と戦えば問題ないということでしょうか」
続いてミドリコとカーラも神妙な顔で話し込む。
この“モンスターを倒す”という行動に驚いているのは本当に俺だけ。
それは、皆と俺の間に横たわる経験と時間の差を痛感させられた。
本当に、俺はこの“世界”でちゃんとやれていたのだろうか?
「ボーテ!」
「それに皆も」
そんなことを考えていた俺の背後から声がして、振り向くと3人の人物が森の木陰から現れた。
「タイカさん、ビクトリアさん、アビー! 無事だったかっ?」
最初に反応したのはボーテさんで、その姿を見つけると一目散に彼等のほうへと駆け出して行く。
恐らく、あの人達がボーテさんの仲間なのだろう。
「ボーテも無事で良かった」
「アタル達も助けに来てくれたの?」
青いマントの青年と、戦士のような衣装の女性が微笑みながらボーテさんと俺達を交互に眺める。
「まったく、来るのが遅いんじゃねーの?」
そして、生意気そうな顔をした少年が俺の元に来て脇腹をつついた。
「え?」
誰だ?
「え?」
そんな俺の反応に少年もビックリした顔をして、しばし時間が止まった。
「……あー、実はアタルは何故か記憶を失くしてて」
「は?」
「それと、モンスター達についても こちらの仮説を話していいですか?」
「仮説?」
「はい。えっと、その仮説はシーファが立てたんだけど」
「シーファ?」
「おお、そなたらは初めましてだな」
俺を起因にして、話はどんどん面倒な方向へと転がってゆく。
恐らく元々親しい間柄なのだろうが、だからこそ余計にややこしくなっているように見受けられる。
「……とりあえず、お茶でもしましょう」
困り果てたカーラの提案で
「それがいい」
とりあえず俺達は、トリアエズの町に帰ることにした。
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