第8話 私は悪役王女〜紅茶〜①

  夏の暑さもまだ残る9月の半ば。

 今日は王城の1番広い庭を使って、ガーデンパーティーが行われている。

 招待客は、来年度に貴族学園に入学する子息子女たち。

 この国の貴族の子供にある、成人の前の3つの試練。

 1つ目が13歳の『お披露目会』。2つ目が14歳の『子供だけのガーデンパーティー』。3つ目が15歳の『貴族学園』。

 1つ目の『お披露目会』は、確かに主役は子供だけど、大人同士のマウンティング合戦でもある。

 自分の家は子供にこれだけ金をかけている、教育をしている…つまりは、それだけと言うアピールの場だ。

 子供たちは、それまでにしたこともないキッチリとした正装に身を包み、ライバル家門の大人たちからの厳しい視線に晒され、それなりの成果を示さなければならない。

 成功したならともかく、失敗したりライバル家門の子供よりも劣っていたと判断された子供は悲惨だ。


 2つ目の試練である『ガーデンパーティー』は、本当に子供だけで行われ初めての社交になる。

 大人は『ホスト』役の主催者夫婦だけで、主席者は本当に子供しかいない。

 ホストを務めるのはその地域の『貴族学園』の有力貴族の中で持ち回りで担っている。

 ある意味、ホストとなった家もホスト力(?)の見せ所で、一括りにガーデンパーティーとはいえ毎年どの家も趣向を凝らし、見栄の張り合いやセンス合戦が行われていたりする。

 パーティーとは押し並べて女主人(大体が奥方)のセンスや使用人の掌握、指揮力が問われ、夫はそれを支え実現できるだけの財力が試される場。

 流行ばかりを追えば軽薄と言われ、格式ばかりでは古臭いと笑われる。

 特に、『お披露目会』や今回の『ガーデンパーティー』は、子供が主役とはいえ、立派な国をあげての年間イベント。

 会場となる家は、向こう数年単位で決まっているのでそれに合わせて年間予算を組み催しの数を調整。場合によっては分家の家まで手伝いに呼んでの一代イベントとも言える。

 『お披露目会』と同じく各地域ごとに行われるが、やはりと言うか何というか。王都のそれらの取り仕切りは全て王族、つまりは女王なので、王都が1番格式が高く野心溢れる家は何とかして王都に子供を住まわそうとする。

 とはいえ、屋敷に使用人、子供1人だったとしても体裁を整えるために必要な金額は結構な高額。そこまでして投資した子供が出世するかは博打がすぎるため、成功したものはそれこそ偉人レベルの人間しかいない。


 3つ目の『貴族学園』はそのまま小さな貴族社会。

 成績は当然のこと、ここで得た人脈や立ち居振る舞い。卒業時のヒエラルキーがそのまま大人になってからも薄ら適用される。

 単純に爵位が高ければ良いわけではなく、顔は広いが中身がないのも貴族社会では体よく利用されるだけでしかない。

 まさに、本人の今後の人生に深く関わり、親や家門の身体にも影響するのでみんな必死だ。


 そんな試練は毎年行われているわけだけれど、私たちの年代は近年では特に注目がされている。

 何せ現女王直系の子供、双子の王女がいるからだ。

 特に女王の子育てに対する不信感が大きい。

 双子の姉妹の片方だけを溺愛し、片方を蔑ろにしている。

 それだけで、同じく双子や複数人の子を持つ親は女王の行動に激しい憤りを感じている。

 それが100万歩譲って、溺愛しているのが優秀な方ならばまだ理解できる。貴族だって家を繋ぎ盛り立てくれる人間を後継にするために、教育に熱が入りその気はなくとも差が出てしまうことは多々ある。それが国主ともなれば、尚更に熱も入ると言うのも…まぁ、納得はされずとも理解や共感はされただろう。

 しかし、現状はだ。

 『お披露目会』での出来事は王都近辺の全ての貴族に広がり、そこから地方に拡散されるのに1ヶ月もかからなかった。

 それまでに流されていた『意地悪でわがままな姉王女』と『いじめられるも健気に姉を慕う妹王女』が、女王および親女王派閥の流した噂だと判明してしまった。

 以降、どれだけ噂を流し直して計画を続行させようとしても、もはや誰も信じなくなった。起こった事実と目撃者、体験は覆らない。

 妹王女ミラエラの能力の足りなさは消せず、同じように姉王女の優秀さもすっかり周知されてしまった。

 なんなら『そんな悪質なデマで姉王女を下げてまで妹王女の溺愛を肯定したがったのか?』と、女王の人間性に疑問視の声も上がってきている。

 国を二分するほどの大事になっていないのは、そもそも現時点で姉王女のことを大ぴらに推す人間がいないからに他ならない。

 ボッチで良かった、助かったと心の底から思うのは初めてかもしれない。

 『披露目会』から接触のある魔術師団長は、本部内では距離を積めてくるけれど、外や人の目のあるところでは中立を保つ姿勢なので、ギリギリで親女王派閥の反発を防いでいる。


 そんなわけで、親女王派閥にとってこの『ガーデンパーティー』では何としても妹王女の復権を果たす!と、近年稀に見る気合いの入れよう…だと言われている。

 その入れた気合いが『溺愛してる妹王女殿下の参加するパーティーだけ特別にしようとしてる』と、要らぬ反発も産んだみたいだ。


 否定はしない。


 現に、会場となっている庭からして例年とは違う、格の高い庭になっている。

 『人数が多いから』『例年に比べ参加する子どもの家門の家格から』と、色々と理由はつけられているけれど、今までにない会場の変更は少なくとも憶測では済まないレベルの信憑性で『贔屓、溺愛、偏愛』を実証してしまっている。

 何せ、今までに会場変更があったのはたった一度。

 それまでの会場だった庭を作り替える理由で、改めて専用の会場として作られたのが昨年までの庭。

 他国の貴賓も出席する式典などで使用する格式高い庭の使用を巡って、『お披露目会』以降、冷めた目で見られることの多くなった肩身の狭い親女王派閥は、反対意見の全てを無視して強行。

 これには各地方の会場となっていた貴族も異議を唱えていたが、やはり全てを無視したことにより、地方貴族と中央貴族…と言うか、親女王派閥の貴族との折り合いは水面下で悪くなる一方になっている。

 

 そんな政治的に緊張感の高まっている状況を、分かっているのか分かっていないのか…分かってないんだろうな〜と思われるルシエラは、今日も今日とて1番目立つ格好で楽しそうに笑っている。

 

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魔法使いになった元・悪役王女〜30年ぶりに戻ったらヒロインはクーデターで投獄されてました〜 椎楽晶 @aki-shi-ra

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