第7話 森に見送られて
「レイ……!!!」
アナベルに連れられて村へと帰ったボクは、お母さんにこれでもかと言う程力強く抱きしめられていた。村総出でボクの事を探していたのは、村の中に張り詰めていた緊張感からなんとなく分かっていた。
その中で一番心配してくれていたのはやっぱりお母さんだろう。
「──レイ。どうして森に行ってしまったの?森は危ないってずっと言ってるわよね?お母さん、本当に心配したんだから……!」
「ごめん、なさい……」
「貴方はね、お母さんとお父さんの大事な子供なの。だから危ない場所には行かないでちょうだい。それに昨日、セロと一緒に森へ入ったらしいわね。セロから聞きましたから。もう今後一切、森に入る事を禁じます」
ボクの身の安全を確かめた後、今まで見た事の無いくらい恐い顔でお母さんはボクを叱った。そして有無を言わさず、森に入る事を禁止されてしまった。
「…………お父さんやお兄ちゃんと一緒でもダメ?」
ダメ元でそう提案してみるも、一蹴されるだけだった。
「いい?貴方はまだ子供。貴方は狩りにおいてまだ狩られる側の存在です。相応の知識、経験、技能が無いと狩る側になんてなれません。せめて後五年待ってちょうだい。……当然セロにも森に入る事を禁じましたから。だから二人は暫くお母さんのお手伝いをしなさい。分かった?」
「はい……」
もうこれ以上異論を唱えるのは無駄らしく、ボクはこれ以上は喋らず大人しく黙っていることしか出来ない。
村中に走っていた緊張の糸はいつのまにか解れて、皆それぞれが胸を撫で下ろしている。無事で良かったという声と傍迷惑だなという声。村全体を巻き込んでしまったという事実がボクの心に罪悪感を注いでいく。
ごめんなさいの一言で心の中の汚水を排出したかったが、お母さんにガッチリと手を掴まれてしまって謝りに行く事が出来ない。そしてその代わりと言わんばかりに、お父さんとお兄ちゃんが別々に村の人達に頭を下げていた。
「貴方の勝手な行動で村の人皆んなを心配させるの。だから自分の行動に責任を持てないうちは、勝手な事をするのはやめてちょうだい」
お母さんはそう言ってボクを諭した。
ボクの思考回路じゃここまでの騒動になるとは気付かなかった。確かに村の皆がボクを心配してくれているのは嬉しいし申し訳ないと思うけど、森の動物にも優しさはあるんだって事をボクは知って欲しい。
だってボクがソレを知る事が出来たから。
『何事もまずはお互いを知る事から始めなきゃね。勝手に怖いだとか嫌だとか思い込まないで、少しずつ歩み寄っていくのが大事よ』
アナベルの言葉を明瞭に思い出す。ボクにとってその言葉はこの先の人生を変えてしまうのではと思うほど、衝撃的だった。ボクの価値観を大きく揺るがす一言だった。
みんなは多分知らないだけなんだ。だからそんなに畏怖しているんだ。
「レイ。お家に帰るよ」
さっきから掴みっぱなしのボクの手を引いて、家へと帰るお母さん。手を離してくれたのは、家の中に入ってからの事だった。
心を満たす黒い液体のような罪悪感が充満している中で、もう一度アナベルに会いたいと思うのは罪なのだろうか。
その日以降森に入る事を禁じられたボクは、アナベルに再び会う事は叶わなかった。
魔女嫌いの人間 大枝しお @sio7511
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