【黒歴史】謎のテーブルと謎のスープのお話

達見ゆう

洋楽好きだからって英語得意とは限らない

 それは中学生のある日のテスト。当時の私は国語や社会の成績は良かったのに、英語は壊滅的にできなかった。当時は深夜の洋楽番組などを録画しては熱心に見てたが、かと言って英語がわかる訳ではない。


 そして、確か外部業者の校内模試のテストだったと思う。紙質がわら半紙でなかったのと、後述するが開催方式が期末テストと違っていたからだ。


 確か、文章を読んでいくつかの設問に答える問題だったとように記憶している。


 予め言っておくと、筆者の中学生時代はスマホもネットも携帯も無いのはもちろん、英語の発音なんて聞く機会は学校の先生の思い切り日本語訛りイングリッシュか、テレビの英会話講座くらいである。もちろん辞書の発音記号は読めない子どもだった。例えるなら、楽譜の「ド」やら「ラ」は読めるけど、頭の中はメロディにならないようなアレだ。


 洋楽は? とツッコミ入るかもしれないが、ロックなんてメロディに乗るものだから発音なんて聞き取れるわけがない。辛うじてサビだけ歌えるやら、曲名の部分がわかるレベルの脳みそである。


 話を戻そう。テストの問題文に見慣れない単語があった。なんだか長い単語だ。


 はて、こんな単語あっただろうか。全体を読んで行けば何か分かるのだろう。


 ……わからなかった。


 いやいやいや、待て待て待て。英語は苦手だが単語を繋げればなんとなくわかるはずだ、落ち着けと私はもう一度読んだ。


 ふむ、どうやら何かのスープの問題のようだ。なんのスープなのだろうか。スープの前の単語がわからないから仮の読み方をして推測していくか。


 この単語も長すぎて読めない。テーブルと読めるが、前のつづりはローマ字読みで「バゲ」と読むことにした。バゲテーブル、やはりわからない。


 何か特別、あるいは独特のテーブルに供えるスープなのだろうか。それとも何かのテーブルを煮込む、いやいやいや、さすがにそんな破天荒な料理はない。世界三大料理の一つ、なんでも食べる中華料理だって、『食べられない四本脚は机と椅子だ』と言うではないか。バゲテーブルというテーブルのスープという仮説は儚くも消えた。


 しかし、設問にもそのバゲテーブルはやたらと出てくる。いや、だからバゲテーブルって何よ。海外には未知の食材はあるが、日本の英語テストなのだから、日本にある食材なのだろう。みそ汁ならMiso Soupとなるからみそ汁ではない。しかし、ハゲはあるがバゲなんてどこかの方言か?しかし、それなら英文にも産地くらい書いてありそうだが、それらしき単語はない。


 もはや、英語の解読というよりミステリの謎解きのようになってきたが、『バゲテーブルのスープ』として、なんとか空欄を埋めて解きテスト終了になった。


 時間後に解答と解説のプリントが配られてきた。


 例の問題は「野菜スープについて」の問題だった。


 そう、私はVegetableのつづりを斜め上の読み方をして斜め上の回答をしたのだ。


 友人たちが「ベジタブルの問題がちょっと難しかったね」と話しかけてくるたびに、先ほどまでのわざわざ謎問題にしてしまい、必死に推理して焦っていた自分を封印して「うん、私もうまく解けなかった」と澄ました顔でごまかし……ゴホン、答えた。


 言えない、ベジタブルを『バゲテーブル』と謎の物体にして必死に解こうとしたなんて。


 そもそもベジタブルと読めなかった時点で中学生とはいえ、頭の悪さ以前にVeをバと読む時点でどうかしている。自分が親だったら、塾へ放り込む前に眼科か脳外科へ連れて行く。


 私はこのことは誰にも言わないと決心した。


 テストはもちろん英語と数学は歴史的大惨敗だった。



 そんな私でもなんとか数学と英語はギリギリながらも高校入試は突破し、これまたこの二教科を捨て、他の得意科目を伸ばす方法で公務員試験を突破できたのは奇跡であるとしか言いようがない。

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