第7話 丸メガネの男がいる三件のアパート

「寮を出ようと思うんだ。ケイタが泊まりに来れるように」



よく寮暮らしでテロ活動ができたな。

そして俺を連れ込もうっていう魂胆を隠す気が無くて怖い。



「一緒にアパートの内覧行こうよ」


「なんで?」


「恋人同士みたいなことがしたいんだよ」



古路のケイタに対する恋心は募る一方だった。

ここで振ったりしたら、また爆弾魔になるかもしれない。

そう思って、曖昧に調子を合わせてきた。

今回の内覧も仕方なく行くことにした。


古路は、すでに目星をつけていたらしく、三件分の内覧日時が送られてきた。



予定の日時に最初の物件に行った。



「だから、何でマモルも来るんだよ」


「古路の気が変わって、俺を連れ込みたくなるかもしれないから」


「無いから、そんな世界線」



業者の人の手前、それ以上は二人とも自重した。


大学が近くて、中は少し狭いがキレイなアパートだった。

業者の人が色々説明する中、古路は腕まくりをした。

物件選びにこの能力は一番役に立つかもしれない。


「見晴らしがいいですね」なんて言いながら、古路は窓に触れた。

せっかくなので、ケイタもキッチンに触れてみた。

ここなら余計なものを視ることは少なくていいだろう。



女性がキッチンに立っている。

料理をしているのだろう。

真後ろに男が立っている。

男は真っ黒な影で、丸メガネだけがはっきりわかる。



「ケイタ、大丈夫?」



マモルが話しかけた。



「あ、うん……」


「顔色悪いよ」


「大丈夫……」


「今日、パンツ検定してないから、調子悪い?」


「ああ、うん、そうなのかな……?」



いつもならスルーするセリフだが、本当に調子が悪いのかもしれないと思い、マモルの尻に触れた。



「……蛍光ピンク?」


「あたり」



力は普通みたいだ。



♢♢♢



二件目に行く。

業者が違うので、そこまでは自力で向かう。



「さっきんとこ、丸メガネの幽霊みたいなのがいたな。女のそばにはりついてた」



古路が言う。



「うん。俺にも見えた」


「地縛霊みたいな?」



マモルがきく。



「ああ。物には、生きてる人間も死んでる人間も関係ないから」



気味の悪いものを視た。

正直、古路がいて、話が共有できて良かった。




二件目は住宅地の奥の方だった。


中に入り、靴を脱ごうとシューズボックスに手をついた。


すると、目の前にさっきの丸メガネの影が現れた。


ギョッとしながら凝視した。

幽霊なんだろうか……



「ケイタ、何してるの?早く入りなよ」



マモルが後ろにつかえていた。



「ああ、ごめん……」



ケイタは靴を脱ぎ、先に入った古路の後を追った。


古路は険しい顔で部屋のあちこちを触っている。

あんなに能力を使えるなんて、古路は能力を使いこなせているようだ。

自分も、もう少しちゃんと訓練とかした方がいいんだろうか。



「ここもなんかヤバいの?」


「うん、丸メガネの男がここにもいる」


「ふーん。共通点、無さそうなのにな」



♢♢♢

 


今日ラストの物件に向かっていた。



「俺は一箇所しか視なかったけど、そっちはどうだった?」



古路にきいた。



「やっぱり丸メガネ男はいたよ。前の物件と共通してるのは、風呂場とトイレと寝室にはいなかった」


「へぇ……幽霊だとむしろその三箇所にいるけどね」


「なんか、ケイタと探偵ごっこしてるみたいで楽しいな。いっそ、一緒に探偵事務所やる?」


「むしろ古路は、探偵に暴かれる側だよね……」



古路は本当に罪の意識が無さそうだ。




三件目は、大学から少し離れるが、ケイタの家に近かった。



「ここなら俺のアパートに通いやすいだろ?」


「その配慮、怖い……」



中に入り、気合いを入れて力を使ってみた。




男性がテレビを見てる横に、あの丸メガネがいる。

幽霊だろうが残留思念だろうが、無作為に選ばれた場所に共通して現れるなんて、ありえない。

何かが、俺と古路の能力に直接干渉しているんだろうか。



♢♢♢



物件の内覧を終え、三人で近くのコーヒーショップに入った。



「あの謎が解けない限り、安心して暮らせないよね」



ケイタは遠回しに引越しをやめる方向に促した。



「でも、実害ないようだし、大丈夫じゃない?」



さすがに古路はその程度じゃビビらないか……



「俺は、大学近くにしてくれると遊びに行きやすいな」


「マモルの意見はいらないから。それにしても、よく来たよなお前、三件も。半日がかりだぞ」


「実家暮らしだと、内覧なんて経験ないからさ。興味があったんだよ」


「本来、お前に関係ないことですけど。で、ケイタはどこがいい?」


「大学近くがいいかな。マモルも来やすいから」


「マモルと物件は関係ないから。この話は、最初から最後までマモルがいなくても成り立つの。マモルありきで考えないで」


「じゃあ、古路君はどこがいいの?」


「……マモルを抜きにしても、大学近くのアパートなんだよな」


「結論、同じじゃん」


「いや! マモルが決め手かどうかは全然違う! 俺とケイタの間に入って来ないで!」



♢♢♢



古路は結局、大学近くのアパートにした。

なんだかんだ、マモルが付いてきても中に入れてくれた。



「古路、このチラシが入ってたんだけど」



マモルが、古路の郵便受けからチラシを抜いて持ってきた。



「二人が見た丸メガネの男、この人じゃない?」



マモルは一枚のチラシを見た。

メガネ屋のチラシで、丸メガネをかけた店長の顔写真がでかでかと載っていた。



「雰囲気が同じだ」



古路が言った。



「でも、何で部屋の中にまで店長が??」


「チラシを視てみたら?」



二人は、チラシに触れた。



パソコンと睨めっこしている店長。

コピー機で印刷する店長。

ポスティングする店長。


チラシの文面も、メガネ愛と、お客さんの声の記事だった。



「店長の想いがチラシに残ってた……ってことか」



古路がつぶやいた。



「すごい……けど、想いが……重すぎない?」


「ケイタ、うまいこと言うな」



マモルはぷっと吹いた。



「ま、一件落着だな」



古路が言った。



「解決したのはマモルだから、探偵事務所やるならマモルがいないとね」



ケイタが言った。



「お、いいね。俺たち三人、仲良いからうまくやれるよ」


「俺はマモルと仲良かったことないから」


「こんだけ一緒に遊んでて仲良くないとか、もう古路とはパンツを交換するくらいしないと、認めてもらえないようだな」


「認めるとか認めないじゃないし、やったらお前の実家吹き飛ばすからな」


危ういバランスの三人であった。


―第七話 おわり―


▼こちらの内覧話もどうぞ!『ともだちハウス』

https://kakuyomu.jp/works/16818093073085697158/episodes/16818093073086607642


▼こちらのメガネ話もどうぞ!『賢者のめがね』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074360464594/episodes/16818093074360903333

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る