【KAC20247】お題:色

かごのぼっち

私の世界

 いつ頃からだろう? 私の世界は次々と色がなくなり、モノトーンの世界に赤が滲んだような世界が広がっていた。


 私の眼の前に広がるただただつまらない世界。


 つまらない人。


 つまらない学校。


 つまらない人生。


 皆何が楽しくて生きているのだろう?



 わからなかった。



 私はマーナガルムの出身で、獣人族の中の猫人族にあたる。


 名をノラと言う。

 

 マーナガルム獣王国は帝国軍の手によって墜ち、帝国の植民地となった。


 獣人族は人種カースト最下位となり、人族によって捕虜として奴隷のように扱われた。


 私の父親も獣王国軍として帝国と戦い、戦犯者として捕まえられて捕虜となった。 当然、その家族である私たちも捉えられて、捕虜と言う名の奴隷として帝国へと連れて行かれた。


 現代社会においては奴隷の売買は禁止されていて、私はその違法な取引によって売り飛ばされそうになった。


 しかし、帝国の魔警隊によって助けられた。


 その時、私を見つめる一匹の黒猫と目があった。


 気がした。


 不思議な猫だった。 猫の気配とはまるで別物で、変わったオーラを纏っていた。 気にはなったけど、それきりだった。


 その後私は、施設に入って過ごした。


 私は帝国に人生を潰されたのだ。


 マーナガルムを救いたいとかそんな綺麗事はどうでも良い。


 私は帝国に一矢報いたい!!


 そんなどす黒い感情が私の心を支配していた。


 帝国への報復の為にニヴルヘル冥国のリリーズ魔導学園への門戸を叩いた。


 そうして、私はマダムの温情を受けて、何とかリリーズ魔導学園への入学を果たした。


 しかし、入学した私に待っていたのも、差別による執拗な嫌がらせだった。


 そんな私を見かねて声をかけてくれたエカチェリーナと言う女性がいたが、正直なところ、こんないじめなど、慣れてしまって何とも思わなくなっていた。


 もう、帝国への報復しか頭にはなかった。


 その頃の私の眼の前の景色は、真っ赤に染まっていた。


 とても


 冷たい赤だった。


 そんなある日、三人の編入生が入ってきた。


 そのうちの一人の名をノワールと言った。


 彼の気配に記憶があった。


 あの時の黒猫だ。


 私には確信があった。 あの人はあの時の黒猫に違いない。


 その日から私は、ずっとその気配を追うように彼を見ていた。


 彼は他の誰とも違う、独特のオーラを持っている。

 それが良いとか悪いとかではないが、私はその気配に夢中になった。


 彼と出逢って私は変わった。


 エカチェリーナと言う女性を始め、何人か友達が出来た。


 目に見えている赤が


 温かさを帯びてきた。


 その温かさは次第に増してゆき


 やがて火傷をしそうなくらいの


 熱を帯びた。



 そしてあの日。


 エカチェリーナさんを皆で慰めに行ったあの日。


 私はノワールさんの後ろで彼に、


 触れた。


 どくんっ!


 心臓が跳ねた!


 私の中に熱い何かが流れ始めて、私の眼に火が点いたように世の中が明るくなった!


 ドラゴンの背中から視えていた冷たい真紅の世界は、次第に色を取り戻し、温かな光を帯びてきた!


 色づいた世界は、


 とても美しかった。



 その日以来、私の世界は極彩色に彩られて、私の中に燻っていたどす黒い復讐の色は、次第に影を薄めていった。


 ただ


 彼の隣には


 それはそれは真っ白な


 透き通るほどに綺麗なシロが


 とても眩しく輝いていた。



 眩しくて


 眩しくて


 すぐ眼の前にあるのに


 クロとシロの輝きは


 とても遠くに思えた。

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