1話完結型:猫説童話集

ヒビ猫

猫説桃太郎

むかしむかし、とある村のそのまた村外れの山にお爺さんとお婆さんが住んでいました。

お爺さんは村に出稼ぎに、お婆さんは川に洗濯しに行きました。


お婆さんが川で洗濯をしていると、川上からどんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れてきました。

久しく甘味を食べていないお婆さんはこれ幸いと、洗濯を切り上げ流れてきた桃を拾い上げるとお爺さんの飼っていた猿、雉、犬と共に持って帰りました。

お婆さん「久し振りの甘味だねぇ…美味しいといいのだけれど…さぁ猿ちゃん、雉ちゃん、お犬ちゃん…持って返ってみんなで食べようねぇ…」

猿雉犬もみんな待ち遠しく嬉しそうに鳴いて待っていました。


夕暮れ時、お爺さんが家に戻ってきました。

お爺さん「ほぉーこれは大きな桃じゃのう…」

お婆さん「みんな。お爺さんを待っていたのですよ…さぁ割って食べましょうか」

お婆さんがナタで桃を割ると、お爺さんとお婆さんは驚きました。

割った大きな大きな桃の中から赤ん坊が出てきたのです。


お爺さん「なんて事だ…これは夢か…?」

おぎゃぁおぎゃぁと泣き叫ぶ赤ん坊をお婆さんが抱きかかえました。

お婆さん「こんなに泣いて…あぁ…こんな婆さんでいいのなら…お世話させてね…?」

お爺さん「…これは天からの授かりものじゃぁ、無下に扱えんなぁ…みんなで、みんなで育てるんじゃ…」

子宝に恵まれなかったお爺さんとお婆さんはその赤ん坊を桃から産まれたので桃太郎と名付け我が子のように抱きしめ、慈しんで育てました。

猿雉犬も俺がお兄ちゃんだぞ!と、こぞって桃太郎の世話を甲斐甲斐しく焼いていました。



桃太郎の成長速度は著しく、2年もたたないうちに16歳と同等の身体へと成長していました。

しかしその2年で幕府からの圧政が酷くなり、お爺さんとお婆さんも生活が苦しくなってきました。

それでも桃太郎や猿、雉、犬には不自由をさせまいと自分たちの食事を切り詰め、その分与えてきたのです。

お爺さんとお婆さんはずっと隠し続けていましたが、隠し通せる筈もなく夜な夜なお爺さんとお婆さんが野草で飢えをしのいでいる姿に桃太郎も猿雉犬も心を痛めておりました。


そんな中で偶にの贅沢として出してくれていたきび団子…もちろんお爺さんお婆さんは手をつけることはありませんでした。

お爺さん「いやぁ年を取るとなかなかお腹が空かなくてねぇ」

お婆さん「えぇえぇ…そうですとも……子どもたちは食べて大きくなる事が仕事なのですから、きちんと食べなきゃダメですよ?」


桃太郎は泣きながら、うまいうまいときび団子を頬張るのでした。

猿雉犬も…泣きながら、桃太郎を慰めながら一緒にきび団子を頬張るのでした。


ある日、村の噂で鬼が諸悪の根源だと聞いた桃太郎はお爺さんとお婆さんに鬼退治に行くと話しました。


桃太郎「おいらが鬼をやっつける!」

お爺さん「ダメだ!!子供がやることではない!!いつの日か幕府がなんとかしてくれる!!陰陽師だって動き始めている!!お前が無理をする必要はないんじゃ!!」

お婆さん「ダメですよダメですよ…あなたはまだ子供!!…どうして桃太郎がいかねばならないのですか…思い直して頂戴!!」

お爺さんとお婆さんは反対し、泣いて懇願してきましたがやせ細るお爺さんとお婆さんを見ていられなかった桃太郎も泣いて訴えかけたのです。

桃太郎「お爺さん!!お婆さん!!もうそんなに痩せ細った姿になってまで僕たちに施して…そんな…そんなになってまで僕たちを育ててくれたのに…このままでは恩返しも出来ない!!お爺さんにもお婆さんにも死んでほしくないのです!!…だから…僕は鬼退治に行きます!」


桃太郎の決意を変えられないと察したお爺さんとお婆さんは、せめて『きび団子』だけでももたせようと、最後の貯蓄をはたいて桃太郎に手渡しました。


桃太郎はそのきび団子を手に、猿、雉、犬に問いかけます。

桃太郎「兄さんたち、恩返しをしたくありませんか…?」


黒い気配、嫌な気配が桃太郎から立ち込めましたが

猿、雉、犬は頷いて一瞬の迷いもなく桃太郎の手からきび団子を食べたのです。


その行動に驚くお爺さんとお婆さん。

桃太郎はニヤリと笑うと、次の瞬間から猿、雉、犬がお爺さんとお婆さんに喋りだしたのです。


猿「お爺さんとお婆さん、今までありがとうございました」

雉「今のお爺さんとお婆さんは見ていられません…僕たちは力を手にしました!」

犬「だから桃太郎と一緒に鬼退治に行ってきます」


そう告げると桃太郎と猿、雉、犬…桃太郎一行は鬼退治に出たのです。


猿「僕は群れから追い出されて死にかけているところをお爺さんに救われた」

雉「私は密猟者に撃たれ死にかけているところをお婆さんに救われた」

犬「俺は村の奴らが使えないと道端に捨てていたのをお爺さんに拾われた…」


桃太郎、猿雉犬も恩を返すべく決意を固め、桃太郎一行は悪政を敷いている悪代官を成敗しつつ、各地を周り鬼ヶ島の場所を突き止め鬼ヶ島に乗り込んだのです。


歌え騒げの祭りのような鬼ヶ島。鬼達は好きに生き、暴れ、過ごしておりました。


鬼ヶ島には人から巻き上げた金銀財宝が山のように積み重なっており、沢山の食料や人骨などが散乱していたのです。


正義の怒りを持って鬼達を討ち滅ぼす桃太郎一行。

猿雉犬は万ほどいる子鬼達を引き受け、桃太郎は鬼の総大将と一騎打ちを行いました。

鬼「小童…貴様が我の最後の敵と成るか?」

桃太郎「悪鬼…滅殺…」


鬼との総力戦は三日三晩続き、桃太郎達も疲弊しますが残っている鬼は総大将だけとなりました。


鬼の総大将は満身創痍になりつつも大笑いします。

鬼「あははははは!!あぁ…愉しい愉しい…愉快愉快…愉悦愉悦……良き生であった…游んで愉しんで好きに生きた…これこそが真実よ…」


大笑いしつつ鬼の総大将は桃太郎に問いかけます。

鬼「しかし、お前は何だ?人ではないだろう?…人はそんな力を持たない。人から外れた力を持つ、人ではないお前は何だ?…最初からわかっていたのだろう?それをみっともなく隠したつもりでちっぽけな正義感で人の為に動けば人となれると思ったのか?…違う違う、お前も本能の赴くままに生きることしか出来ない…『お前は鬼だ』…お前は鬼でしかない!!人に害を与えることしか出来ぬ!!護りたいモノさえもそのうち滅ぼすであろう!!」


そうです、桃太郎も鬼だったのです。

鬼の総大将が気まぐれで生まれたての子鬼を桃の中に閉じ込め、放流したのが桃太郎。


猿、雉、犬が戦う力を手に入れたのも桃太郎が鬼の力を与え、鬼化したためだったのです。

桃太郎「黙れェェェェ!!」

鬼「あぁ…その顔……正しく鬼だァ!!」

桃太郎は迷いのままに葛藤をぶつけるように、鬼の総大将を討伐しました。


世の中に平穏が戻りましたが、桃太郎に迷いが戻っていました。

猿、雉、犬も鬼化していたため、お爺さんとお婆さんの元に戻って良いのか迷い続けていました。


平穏が戻ってから1年。

迷いながらも桃太郎一行はお爺さんとお婆さんのもとに戻りました。

桃太郎「ただいま…お爺さん、お婆さん」

お爺さん「おかえり」


そこで桃太郎達が見たのは病床に伏すお爺さんとお婆さんの姿でした。


その姿を見た桃太郎はお爺さんとお婆さんに駆け寄ります。

お爺さんとお婆さんは旅立った頃よりさらにやせ細り、死期が迫っている顔をしていました。


そこで桃太郎に一瞬の邪念が横切りました。

お爺さんとお婆さんを鬼化させる事で命を救える…と

しかしそれでは自身の正体を明かすことになる…と

「お爺さんとお婆さんに嫌われたくない…鬼だと知ってほしくない」そう思っていたのです。


長くない身体を起こし、お爺さんは震える手を伸ばして桃太郎の頭を撫でながらいいました。

お爺さん「なに馬鹿なことを考えているんだい?…大方お天道様に顔向けできないような事だろう?……全くお前は馬鹿だねぇ…お前が鬼だと知っていたよ」

桃太郎「…え?」

桃太郎は驚きました。お爺さんは穏やかな顔で続けていいました

お爺さん「けどね?お前を鬼だと思った事は一度もない。桃太郎、お前だけでなく猿雉犬も大事な大事な家族、わたしたちの息子だと思っていたんだよ。今日(こんにち)までお前たちの事が心配で心配でたまらなかった…けど最後に会えてホッとしたよ」


今度はお婆さんが身体を起こして桃太郎を抱きしめます。

お婆さん「なんで泣きそうな顔をしているんだい?…そんな弱い子に育てた覚えはありませんよ?…人に限らず生き物は皆死ぬのです。だから別れが尊いのですよ?…猿ちゃん、雉ちゃん、お犬ちゃんももっと近くによって頂戴…最後に顔を見せて頂戴」


猿雉犬も近くに寄りました。

お爺さんは猿雉犬を抱きしめます。

お婆さんも桃太郎を残っていない力を振り絞り抱きしめます。

お爺さん「あったかいねぇ…」

お婆さん「えぇ…温かいですよ…だって私達の自慢の息子たちですもの…」

お爺さん「違いねぇ…違いねぇ…ちゃあーんと生きてる…お天道様に顔向けできないような事をさせないように教えてきた甲斐があるってもんさ…」

お婆さん「ほんと、いつまでも抱きしめていたいねぇ…」


猿雉犬も桃太郎も何も言えずにただ泣いておりました。


お爺さんは最後にこういいました。

お爺さん「桃太郎、お前は人だよ…他者を慮って大事に出来るのは人だから……優しいお前は人だよ…お前が人じゃないって誰かに言われようが、儂らがお前は人だと肯定してやる…桃太郎、お前はどっちを信じるんだい?」


桃太郎「僕は…人で…人でいたいです……『人』です!!だから死なないで下さい!!まだまだ教わり足りないんです!!お爺さん!!」


お婆さんも最後にいいました。

お婆さん「最後だから、ずるいお願いを聞いてね…できればでいいの。桃太郎、猿雉犬も…村の人達を守ってくれないかしら?…村の人達が私達を迫害していたとしても…それは過去のこと…だから皆余裕がなかったの…だから…お願い…」


雉「えぇ…護ります……護りますとも!!」

猿「ずるいっすよ…そのお願いを聞かないと…最後まで親孝行出来ないじゃないっすか…」

桃太郎「まだ…お婆さんの暖かさが僕たちには必要なんです…だから…」


お爺さん「良い息子達だなぁ…自慢の息子たちだ…」

お婆さん「そうですねぇ…お爺さん…」

そう言い終えると、お爺さんとお婆さんは事切れました。


桃太郎たちはその場で力の抜けたお爺さんとお婆さんを抱きしめ三日三晩泣き続けました。


村には犬の遠吠えが響き渡ったそうです。


桃太郎はお婆さんの願いを聞いて、猿雉犬と共に村を守り続けました。

最初は一切年を取らない、お爺さんとお婆さんの山からやってきた事もあり、迫害や嫌煙されていましたが、子供達が次第に桃太郎たちになつき

村の人達も護り人として頼りにされてきました。


それから200年、桃太郎たちは村を守り続けましたが

ある日の朝方、村の門の外…見張りをしていた姿のまま石化している桃太郎達を村の人達が見つけました。

鬼にも寿命があったのです。その最後の一時まで、桃太郎は村を守り続けていました。


石化した桃太郎達を見た村の人達は

社をつくり、今まで守ってくれていた桃太郎達を守り神として崇めるようになりました。

このことから、その村は『鬼守村』と呼ばれることになったそうです。


桃太郎が目を覚ますと閻魔様の前に猿雉犬と共にいました。

閻魔様はいいました。お前たちの行き先はすでに決まっている…と


桃太郎は私が鬼だから地獄へ行くのですね、と寂しそうに笑うと

閻魔様はわざと驚いた顔をしました。

閻魔「おぉ…それではお前たちが来るのを待ちわびてご馳走を作っているご老人がいるのだが…無駄になりそうだなぁ…」


それを聞いた桃太郎

閻魔様の後ろの大きな門が開くとそこは、ご馳走を作って待ってくれていたお爺さんとお婆さんがいたのです。

桃太郎は泣きながらお爺さんとお婆さんに駆け寄りました。

猿雉犬もお爺さんとお婆さんに飛びつくとしきりに頭を擦って寂しかったと内心を吐露したのです。


お爺さんとお婆さんはごめんね、と謝りつつみんなの頭を撫でました。

そこからお爺さんとお婆さんのつくったご馳走をみんなで食べて、末永く天国でみんな楽しく暮したそうです。


桃太郎も猿も雉も犬も、どんなご馳走様よりも

お爺さんとお婆さんがつくったきび団子を喧嘩までして取り合いながら美味しい美味しいと泣きながら口いっぱいに頬張るのでした。


めでたし、めでたし。

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