五色戦隊カラフルジャー
澤田慎梧
五色戦隊カラフルジャー
「
赤・白・青・黄・緑、五色の戦闘スーツに身を包んだ青年たちが、地球侵略を狙う悪の宇宙人「ダーク・ブラック」と戦う、いわゆる「戦隊ヒーロー」ものである。
ローカル局制作による低予算番組ながら、「五人の戦士がお互いの力を組み合わせ、新しい『色の力』を生み出してピンチを切り抜ける」という設定がウケ、放送以来好評を博している。
そのお陰でいよいよ全国ネットに進出し、倍増した予算で今まで出来なかった派手な特殊効果も使えるようになったのだが――そこには、思わぬ罠が待ち受けていた。
「……これ、どうすればいいんだ?」
撮影スタジオに、監督の嘆きの呟きが響く。他のスタッフも、皆一様に項垂れており、なんとも空気が重い。
彼らの目の前には、巨大な緑色のスクリーンと、その前に立ち並ぶカラフルジャーの五人の戦士がいた。
この緑色のスクリーンは俗に「グリーンバック」と呼ばれるものだ。床まで伸びるこのスクリーンを背景に撮影した映像に、他の背景映像を合成する際に使用される。
スクリーンの緑色部分は容易に他の映像に差し替え可能なので、あとからド派手なCG映像を合成し、迫力ある特撮映像を作成可能なわけだ。
――だが、グリーンバックには弱点もあった。
「駄目ですね。どうしてもグリーンが消えてしまいます」
撮影後の映像に、仮のCG背景映像を合成してチェックしていた撮影監督が、諦めの言葉を漏らす。
彼の見つめるモニターの中には、カラフルレッド・カラフルホワイト・カラフルブルー・カラフルイエローの五人の戦士が、月面を舞台に縦横無尽のアクションを披露している映像が映し出されていた。
その中に、緑の戦士であるカラフルグリーンの姿は見当たらなかった。
――否、より正確に言うと。
「見てください。グリーンの身体、何となく輪郭だけはぼんやり浮かんでますが、殆ど背景と同化しちゃってますよ。これじゃ『プレデター』だ」
「ああ、光学迷彩……」
撮影監督の言葉に、監督が唸る。
「光学迷彩」というのは、SF作品に頻繁に登場する姿を隠す為の技術だ。自分の体の表面に周囲の映像を投影して姿を隠すもので、往年のSF映画「プレデター」で敵の異星人が使用していたことで、一般にも知られている。
何故、こんなことになってしまったのか?
言わずもがな、それはカラフルグリーンの戦闘スーツの色にある。彼のスーツの色が「グリーンバック」と同系色である為に、映像を合成する際、彼の姿も差し替えられてしまうのだ。
わずかに輪郭部分や緑色以外の部位だけが浮いて見えるので、まさしく光学迷彩により姿を隠したようになってしまっている。
「……なんで、こんな簡単なことに気付かなかったんだ!」
「仕方ないでしょう。カラフルジャーは元々、低予算でCGも使わずにやってきたんですよ。グリーンバック使うのだって、今回が初めてでしたし」
監督たちの間に沈黙がおりる。
グリーンバックが使えないとなれば、従来の撮影方法に戻せばいいのだが、既に機材の導入に大枚をはたいた後である。
プロデューサーから何を言われるか、分かったものではない。
「監督。今回だけグリーンは別撮り、というのは?」
「むう……それしか、ないのか」
監督たちの相談に、グリーン役のスーツアクターが「え? 俺?」等と反応する。他の四人も「やれやれ」と所在なさげだ。
スタッフたちもいい加減、指示が欲しいところだった。
――結局、五人が集合するシーンやグリーン単体のシーンは、「グリーンバック」を使わずに撮影することになった。
それに伴い、脚本も若干の修正を余儀なくされた。が、そこは大きな問題ではない。
「大枚はたいて導入したグリーンバックが制限付きだなんてプロデューサーに知れたら……胃が痛い」
「まあまあ、監督。さっき調べたら、機材によってはイエローやブルーもアウトな場合があるそうなんですが、うちの機材では大丈夫みたいですから。不幸中の幸いと思いましょう」
「う~ん、でもなぁ~」
撮影監督の慰めの言葉にも、監督は渋い顔だ。
プロデューサーの不興を買えば簡単にクビが飛ぶ。雇われ監督の辛いところだった。
なにかこう、「グリーンバックを導入して良かった点」をアピールしなければ、心証が悪すぎる。
「……いっそ消えたいわ」
「っ!? か、監督……それです!」
「え、なに? お前俺に消えろって言うのか?」
「違いますよ! 消えるのが問題なら、消えて当たり前にすればいいんですよ!」
***
――後日。全国ネットになってパワーアップした「五色戦隊カラフルレンジャーR」の放送が開始された。
監督たちの苦労の甲斐もあって、CGの導入もまずは成功し、お子様には好評だった。
その第二話でのことだ。
遂に登場した「ダーク・ブラック」のボス「ブラック提督」。最強にして人類には操れない色「黒」の力を操るブラック提督に、カラフルジャーたちは苦戦を強いられる。
「はははっ! これで終わりだカラフルジャーの諸君! くっくっくっ!」
空も地面も真っ暗な「暗黒空間」の中にカラフルジャーたちを追い詰め、慢心するブラック提督。
だがその時――。
「喰らえ!」
「ぐ、ぐはっ!?」
ブラック提督の背中に、突如として爆発が起こる。
振り返ったブラック提督は見た。そこに、ぼんやりと浮かぶバズーカを構えた人影を。
「と、透明人間……? いや、貴様はカラフルグリーン!」
「見たかブラック提督! これが新しく習得した俺の必殺技『カメレオン・ストライク』だ!」
カラフルジャーのピンチを救ったのは、仲間たちの力を借りて「カメレオンの力」を手に入れたグリーンだった。
彼は様々な色の力を組み合わせて、背景に溶け込むことが出来るのだ!
***
カラフルグリーンの新たな力は子どもたちの間で好評を博した。
唯一の欠点は「背景に溶け込む」という性質上、玩具を作りにくいことだったとかなんとか。
(おわり)
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五色戦隊カラフルジャー 澤田慎梧 @sumigoro
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