エージェント三畳博史

たたみや

第1話

「ド平日の昼間だから、こんなもんか」

 エージェント三畳博史さんじょうひろしは色町の無料案内所に勤務していた。

 やたらけだるそうにしている。

 そうしていると、一人のおじさんが無料案内所に入って来た。

 博史はその男に見覚えがある。

 奴の名は、エージェント六畳一間ろくじょうひとま


「おい、一間のおっさん! ミッションはどうしたんだよ!」

「今日は代休だから」

「なんか言い訳くせえな」

「俺たちのミッションは極秘だ。例えエージェント同士でも話すことは許されない」

「すまねえ、愚問だったな」

 何とも言えないような会話を交わす二人。

 そんな中、ギクシャクした雰囲気をぶち壊すかのように一間が話し始めた。


「それで、今日はどんなパイオツを紹介してくれるんだい」

「言い方よ! フェミニストに目のかたきにされるぞ! 手遅れかもしれんけど」

「貧乳に人権などない」

「完全に手遅れだったわ」

 博史が呆れ返ってしまっていた。


「俺は嬢に必ず言ってもらってるセリフがあるんだ。これがないと始まらない……」

「おい、言葉責めされるのが好きなのかよ。何言わせてんだよ」

「一間おじ~チュッチュしよ、チュッチュ」

「キショっ、ガチでキショっ!」

「そして俺もまた嬢に必ず言っているセリフがある」

「言葉責めも好きなのかよ。正直聞きたくないけど、何言ってるんだ?」

「処〇膜から声が出ていない」

「無理ゲーだろ! 令和最大の理不尽だわ! 言われる嬢がかわいそうじゃねえか!」

 博史にはこの六畳一間という人間が全く理解できない。

 この欲望に入り混じった狂気は一体何なのだろう。


「そして俺はこの町で生きる意味を探しさまよっている」

「ただ楽しんでるだけじゃねえか」

「人間の三大欲求は性欲、性欲、そして性欲の三つから構成されており……」

「重症じゃねえか! 食欲と睡眠欲が出てこねえ時点で! どんだけ性欲に脳みそ支配されてるんだよ!」

 博史は一間のイカレ具合を堪能させられることとなった。

 ハナから話についていけないのだからキツいに決まっている。


「それに、この町には出会いがあるからな」

「お前が出会いって言うとキショいんだよ」

「以前、俺がお世話になっていた嬢で、平日はSE、休日に勤務している子がいてな」

「それ大分ハードだな」

「そしてその嬢は知識と経験を活かして、現在は……」

「おっ、IT社長にでもなったのか?」

「地方できくらげの栽培に勤しんでいる」

「完全にIターンしたやつのムーブじゃねえか!」

「現在は『飲むきくらげ』の研究開発に精を出していると聞く」

「なんか気持ち悪っ」

 博史は『飲むきくらげ』を想像してしまったせいか、若干何かがこみ上げそうだった。

 正直言って一間の話がどこまで真実なのか分かりかねる。


 案内所の嬢を眺めていた一間がゆっくりと口を開けた。

「一通り見させてもらったけどさ」

「どうしたんだよ」

「なんか違うんだよな。しょうがないからネットで検索するかぁ」

「じゃあ帰れよ!」

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エージェント三畳博史 たたみや @tatamiya77

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