エージェント金畳元哉

たたみや

第1話

「先輩、掘っても掘っても相変わらず土ばかりですね」

「ああ、もう慣れっこさ。昔はこの土を給料代わりに現物支給されてさ。『これで焼き物でもやったらどうですか?』って言われたもんさ」

「今の聞かなかったことにしていいですか?」

「冗談だよ」

 エージェント金畳元哉きんじょうもとやは後輩の土屋翔つちやしょうと一緒に徳川家の埋蔵金を掘り起こそうと必死になっている。

 地下に眠る山吹色の景色を夢見て、二人の探索作業は進む。


「俺、いいこと思いつきましたよ」

「何だ何だ?」

「土偏に肥えると書いて、『土肥とひ』」

「ただの苗字じゃねえか、土肥さんってよ! 何をお前やったりましたって顔してんだよ!」

 翔のドヤ顔に思わず元哉がツッコミを入れる。

 今日の作業をぶっ続けで七時間やっている割には元気だ。


「そういえば、先輩のとこって子供いるんですよね?」

「ああ、三人だ」

「マジっすか! 令和の徳川家斉とくがわいえなりっすね!」

「流石に向こうが格上過ぎるわ。相手は五十三人だぞ!」

 さらりと元哉が徳川家斉の話をする。

 元哉は徳川埋蔵金を探し求めているだけのことはあるようだ。


「それにしても、先輩って子供に仕事のことなんて言ってるんですか?」

「掘って掘って掘りまくる仕事だって言ってる」

「それ聞いて子供たちどう思うんすかね?」

「そうだよなー」

「うわ、おとんバリタチじゃんって」

「思わねぇだろ子供が! 大人になっても思って欲しくねえけどさ!」

 元哉が素直な思いを吐き出す。

 無理もない話だ。


「話は変わるんですけど、俺は徳川吉宗とくがわよしむねが好きですね」

「なるほどな、俺もなんだ」

「噂では相当な熟女好きだったそうですね」

「え、そうなの?」

よね将軍、よね将軍って」

こめ将軍だよ! なんで読み仮名間違えるんだよ!」

「それにしてもよねって今だと古い感じですよねー。せめておはつとかじゃないと」

「おはつも相当古いよ!」

 元哉には翔の感覚がどんなものなのかいまいち掴みきれない。

 そんな中、時間だけが過ぎ去っていった。


 結局、今日の作業を終了したものの埋蔵金が出てくることはなかった。

「お疲れ様です、先輩」

「翔もお疲れ」

「先輩、これ少ないですけど僕の気持ちです。受け取ってください」

「翔! この小判一体どこで見つけたんだ?」

「近所のお土産屋さん」

「パチモンじゃねえか!」

 結局二人は、何の成果も得られませんでした。

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エージェント金畳元哉 たたみや @tatamiya77

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