第44話 異界商店
「私の名前はミイニ。
災人の一人にして『異界商店』の異名を持つ、スーパーガールだぞっ!!」
そう言い、良い笑顔で両手でピースサインを作る少女。
わしは間違いなく目を見開いているだろう。
この少女が本当に『災人』ならば、あんな空間に亀裂を作るなんて芸当ができるのも納得がいく。
しかし、そんな『災人』がわしに何の用なのだろうか。
もしこの少女がわしを殺しに来たというのならば、わしが不老不死であるとはいえ、瞬殺されるだろう。
文字通りの死である。
そんな未来を予想して背中に嫌な汗が伝う。
「おやおや~?
さっき言ったじゃん、警戒しなくていーよーって」
少女はニコニコしながら下から覗き込むようにわしの顔を見てくる。
「じゃったら、その放出しっぱなしの魔力を解いてくれんか……?」
「……あ」
わしが勇気を振り絞ってそう乞うと、少女は一瞬惚けた顔をした後、服を払うような動作をして辺りに漂い始めていた濃い魔力を霧散させた。
わしは再度目を見開く。
あんな軽い動作であれほどまでに濃い魔力を霧散させる事ができるのか!?
さ、流石災人。改めて格が違う。
濃い魔力が霧散したからか、少女に敵対の意思がないと分かったからか、わしの身体は動くようになっていた。
直ぐさまにジェニに顔を向けて安否を確認する。
やはりか、やけに大人しいと思ったらジェニはぐったり気絶していた。
「ごめんごめん!
魔力制御忘れてたよー。……お詫びをしないとだね?」
少女はそう言って横に出来た空間の亀裂に手を突っ込む。
次の瞬間、その手には革袋が握られていた。
それも中には何かが沢山詰まっているようだ。
何をするつもりだ?
そう思った時、少女の身体がブレた。
――いや、これは視認できない速さで動いて元の場所に戻った?
革袋に目を向けると、つい先ほどまで中身が詰まっていたであろう革袋は萎れたようにだらんとしている。
それがわしの中で視認できないスピードで動いた証拠となった。
「何をした」
「ん~? 私の魔力で倒れちゃった人たちにお詫びとして銀貨を配ったんだよ」
そう言う事か、あの革袋の中身は銀貨だったか。
というか、銀貨を易々と配れる財力って何だ??
「そ、そうか」
平静を装う事も出来なかったわしは明らかに動揺した声音を出してしまう。
「ジェニファー君のお詫びは――コレでいいよね?」
わしのような老人に対して君付けだと?
いや、この少女は災人。見た目より年齢が高いのかもしれない。
それこそ、わしと同じ不老不死なのではなかろうか。
「……レディに向かってそんな失礼な事を考えちゃダメなんだぞ~。
まぁ、当たりなんだけど」
そう言って肩を竦める少女。
やはりなのか。
災人ともなれば不老不死持ちはいるのか。
……そして心も読めるのか。
まるで神のようだな。
スルーしていたが、少女の言うコレとは一体何だろうか。
そう考えていると微妙な変化だが、少女の魔力が一瞬高まった気がした。
見間違えか? と目を擦り、瞼を開けるとフィンガースナップの音がした。
「じゃ、案内するね~!」
その少々嬉し気な色を滲ませた声が聞こえた時には、人々が行き交う商会ビルの一階広場のような空間にいた。
「っ!?」
行き交う人々は揃いも揃って途轍もない強い気配を秘めているのが分かる。
明らかに国宝級の装備を着ている者もいるし、ラフな格好の者もいる。
極端な者を言えば、白のTシャツに「私はつよつよ。」と筆で書かれた物を着ている自己主張の激しい?者もいる。
「なんなんだ……? ここは」
わしの勘がここは現世ではないと告げていた。
ならばここはどこだ?
「——ようこそ!
我が商会、『異界商店』へ!!」
わしの疑問に答えるように、少女――ミイニは両手を大きく広げ、世界樹のような大木を背にそう微笑んだ。
その後ミイニのスキル?によってジェニが目を覚ました頃にこの商会の案内を受けた。
一階は大木をぐるりと囲んだ『交流広場』と『依頼掲示板』のモニターが設置されていた。
ここでは自由に依頼を選んだり、即席のパーティーを作るために造られた階らしい。
二階から四階までは物販エリアだった。
ポーションから装備品、アクセサリー、服、食べ物、素材まで幅広く取り揃えている様だった。
ここでわしは気付いた。
確かに『ミアベルの鉢』でわしはありとあらゆる物が揃っている商店を考えていた。それのせいでこの少女を呼び寄せてしまったのか。
そう納得すると同時にわしは戦慄する。
ミイニはもしやこのリンファーレ全域に亘って人々の思考が読み取れるのか?
距離関係なく読み取れるのだったらまさにそれは神の如き所業。
もしくは、自分に関係する事柄だけ人々の思考から読み取れるというだけなのか。……いや、それでも十分途轍もないが。
そんな事を考えながらわしは興奮気味のジェニと案内をしてくれるミイニと共にこの商会内をまわる。
次に案内されたのは、『地下闘技場』と『個室訓練所』だった。
ここでは訪れる強者と戦い高め合ったり、買った装備を訓練所で試すことができる用だった。
因みに両方お金がかかる。
ジェニにはあまり見せたくなかったが『地下闘技場』では賭け事も行われているようだった。
「どうだった~? 私の商会は!」
浮遊魔法陣で階を跨いでいるとミイニはそう訊ねて来る。
わしは正直、ありとあらゆるの程度の認識を誤っていた。
想像の域を出ないと思っていたのだ。
しかし、どうだ? こうして案内されると分かった。間違いなくこの世の殆どが揃っている。
Z級のモノまで何でもない様に陳列されているのだから恐ろしい。
何より驚いたのは、いくつか大目玉商品として神級のモノや過去の英雄の魂までも販売されていた事。
まさかここまでとは……というのが正直な感想だ。
わしはそう伝える。
その後に興奮冷めやまぬジェニが語彙力の乏しい言葉を紡いだ。
「へへ……そうでしょそうでしょ! この商会には私の全てが詰まってるんだ!」
ミイニは誇らしげに胸を張る。
全てが詰まってる。その言葉にすごく重みを感じた。
この商会を作るまでにわしには計り知れない相当な努力があったのだろう。
大木のある広場に戻ってきたとき、ミイニは振り返って声を掛けてくる。
「あっ、最後にこれを渡しておくね!
胸の前に両手を受け皿のように出して~」
わしらは言われた通り両手を胸の前に出す。
するとミイニはいつの間にか手に持っていた、小枝程の杖を振るう。
瞬間、魔力が一瞬手の上に集まったかと思ったら、その魔力の周りに光が収束していく。
どういう魔力操作してるんだ。マジで。
そう思いながら食い入るように光を見つめる。
すると光が弾けた。
そこに現れたのは翡翠色をした美しい勾玉だった。
勾玉はゆっくりと掌に落ちてくると溶け込むように手の中に消えいった。
「こ、これは、なんじゃ?」
「これはね~、この商会への入場券だよ~。
心の中か声に出して『異界商門』って言うとここに飛べるよ
帰る時は『帰還』でだいじょーぶ。それで元の場所に戻れるぞっ!」
なるほど入場券……。
ん? という事はいつでもここへ来れるという事か!?
「有難い!」
「ありがとうございます!」
わしとジェニはお礼を言う。
ここまで嬉しいことは久々かもしれん。
これで旅の途中でも必要なものを買い足せる。物資面でこんなに心強いことはない。控えめに言って最高か。
「じゃっ、案内は終了ね!
私は業務にもどるよ~。当商会はまたのご利用をお待ちしております!
じゃあね~!!」
ミイニが頭を下げると同時にわしも頭を下げる。
顔を上げた時には、わしらが寝泊りしていた宿の中庭に居たのだった。
元英雄の爺さん、不老不死になる。 ~過去の未練を解消するため旅をしますが、なぜか厄介ごとが舞い込んでくるようです~ 魔王?貴族?そんなの知らねぇ ボンジュール田中 @bonzyu-ru_tanaka
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