Silver Blue
🌳三杉令
Silver Blue & Red
君は、僕との関係をよく色に例えていた。
「あなたと出会っている時は『赤』ね。血の色の赤い薔薇」
「血の色って…… ちょっと怖いな」
「単に情熱を意味しているのよ」
「そっか。いや表現がちょっとね……」
「あなたと出会う前は『灰色』ね。大体みんなそんな感じでしょ」
「まあね、それは分かる」
君は僕と出会った頃から、ある作品にそれこそ血の情熱を注いでいた。その入れ込みようと言ったら、僕がその作品に嫉妬したくらいだ。でも、その精魂込めた作品の評価結果が今日出た……
『二次通らなかった…… もうあなたとも一緒に居られない―― 』
それは君からの突然のメッセージだった。長い間の努力が身を結ばなかった。そのショックは想像以上の様だった。君の何かが崩壊しかけて、二人の関係もこれからどうなるか分からない。そんな言葉が綴られていた。携帯ですぐに電話した。
「すぐ行くよ。そこに居て」
寒い夜だった。皮肉なことに満点の星がきらめいていた。部屋の明かりは全て消えていた。僕は震える肩をそっと抱いた。君は静かに涙を流しながら、窓から星空を見つめ続けている。
「まだ、チャンスはあるよ。気を落とさないで」
そう言って僕は目を閉じ祈った。(彼女に笑顔を戻してください) 目を開くと銀色の星々が瞬いているのが見えた。その奥には深い青色の海が広がっている。彼女はなおも星空を見つめ続けている。
◇ ◇ ◇
一年もかけて精魂込めて創った私の作品は選ばれなかった。私の心は壊れかけた……
そして、私は知っている。私が作品を作るのに集中していた間に、あなたが他の女の人と何度か会っていたことを――。でも無視した。そんなことで二人の関係が壊れるのが嫌だったから。
でも、今はもう作品を作る意欲もあなたへの情熱さえも失った。私は涙が枯れると、あなたに言った。
「あなたが他の女性と会っていたことは知っている。でもそれは私のせい」
「知っていたのか……」
「あなたとは今日が最後……」
天の川のような海が広がっている。
青色の海と銀色の星々、私は一人でそこに落ちていく。
いつの間にか私は泣き疲れて眠ってしまった。
◇ ◇ ◇
数時間後、まだ夜が明けきらない内に、僕は君を起こした。
「上着を着て。ちょっと見せたいものがある」
渋々従う君を助手席に乗せて、僕は暗い中、車を走らせた。
やがて君は訊いてきた。
「どこに行くの?」
僕は答えない。その代わりに伝えなければならないことがある。
「他の女性と会って本当に悪かった。でも信じて欲しい。それ以上の関係は無い。すぐに自分の過ちに気が付いて別れたんだ。君が一生懸命がんばっているのに僕は何をやっているんだってね」
「本当なの? 信じていい?」
「ああ、嘘じゃない。約束する」
東の空が白み始めていた。
「また二人で赤い世界を見れるかな?」
君が言った。
「これから二曲音楽をかける。目を瞑って聞いていてくれる?」
僕はロックセットの『Silver Blue』とテイラースイフトの『Red』を流した。
車は、西側の山々が見渡せる場所まで来た。僕は車を停めた。
曲が終わる頃、朝日が差し込み始めた山々でそれは始まった。
「見て」
僕が言うと君はゆっくりと目を開けた。
山々が朝日に照らされ真っ赤に燃え始めた。
モルゲンロートだった。本当に燃える赤だった。
「また二人で赤い世界を見れるかな?」
僕は君のセリフをそっくり繰り返した。
君の瞳に徐々に輝きが戻ることが僕にははっきりとわかった。
「うん」
朝はまたやってきた。
Silver Blue 🌳三杉令 @misugi2023
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