XX. 溢れる想い

 一年後――


 城の中庭にある立派な石碑。

 これを囲むように色とりどりの花々が咲き誇っている。

 石碑はユウヤの墓標だ。


 そこに花を一輪手向たむける魔族の女・ギィゼ。


「ユウヤ、こんにちは。綺麗な百合の花が手に入ったから、ユウヤにもお裾分け」


 ギィゼは優しく微笑んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 王都への凱旋後、『虹色旅団』は解散した。


 ユウヤは城の中庭に手厚く葬られ、王国を守る神として祀られることになり、今ここで聖剣とともに静かに眠っている。


 赤い髪・片腕のドワーフのダノは宮廷鍛冶師として腕を振るっているが、武器や防具の作成や整備はそこそこに、市民の生活がより便利になる道具の開発を精力的に進めている。


 黄色い髪・はぐれオーガのバルガスは、故郷に帰った。

 村人たちとは良い関係になり、森の中で静かに暮らしているようだ。

 戦の神とは、時折鍛錬を一緒にする間柄になったらしい。


 緑の髪・エルフのリリィは、宮廷魔術師に。

 新たな魔法の研鑽に余念がなく、時折ふらりと精霊王の元を訪れている様子。そのため「あら、三十年振りね」などと言うことがあり、ギィゼたちを驚かせている。


 青い髪・マーマンのトラーラは、慈愛の神と修行中。

 海の世界に戻り、慈愛の神のところに身を寄せて、日々信仰心を高めていきながら修行を重ねているようだ。


 桃色の髪・フェアリーのピッチュは、城に住んでいて、お城のみんなの人気者だ。何も無い時は、墓標に乗ってぼんやりしている。彼女もまたユウヤを真剣に好きだったひとり。寂しいのであろう。


 紫の髪・魔族のギィゼも城に住んでいて、クレア姫専属の侍女ということになっている。心が落ち着くまでは面倒をみるというクレア姫の厚意を受けた形だ。

 あれから一年、心の隙間は中々埋まらない。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ギィゼ」


 ピッチュが飛んできた。


「なに?」

「アンタどうすんの?」

「なにが?」

「この間、若い騎士から言い寄られてなかった?」

「あぁ、あれね。断ったよ。興味ないもん」

「もう一年も経ったんだし――」

「ピッチュだって同じでしょ?」


 微笑むギィゼに、ピッチュは苦笑いで返した。


「……まぁ、そうだね」


 ギィゼの頭に乗っかるピッチュ。


「あのバカ、ギィゼと私を本気にさせて逝きやがって!」

「ふふふっ」


 ピッチュらしい愚痴に、思わず笑ってしまうギィゼ。


「こんにちは、お嬢さん方」


 そんな声に振り向くと、ローブをかぶった年配の男性が立っていた。

 顔ははっきり見えないが、口元のシワが年齢を感じさせる。

 警戒するギィゼとピッチュ。


「なにか?」

「いや、想い人を生き返らせる方法があるとしたら……どうしますか?」

「そんなもの、あるわけないじゃない」

「あなたはこの世のすべてを知っているわけではないですよね?」


 その冷静な声に、真実味を感じるふたり。


「……その方法を教えて」


 ギィゼの一言にニヤリと笑う男。


「あなたの命と引換えに生き返らせられます……それでも――」

「いいわよ、私の命で彼を救えるなら安いものだわ」

「私のも持っていきなさいよ」


 男性の言葉に被せるように答えたふたり。


「分かっていますか? あなた方は彼と会えないのですよ?」

「そういうことじゃない。彼は命を賭けて私を救ってくれた。私を抱き締めてくれた。だから私たちも命を賭けて彼を救う。それだけよ」

「私とギィゼは旅に出たことにしておいてね。彼の心の重荷になりたくないからさ」


 男性はふっと笑った。


「愚かな……」

「そうね、愚かよ。でも、恋する女ってこんなものよ」

「そういうこと! 好きなひとのためなら、何でもしてあげたくなっちゃうの!」


 両腕を上げる男性。


「よかろう!」


 その手から光の粒が次々とこぼれ落ちていく。

 その光が石畳に降り注ぎ、人の姿を形作っていった。


「うそでしょ……」

「ホントに……?」


 その光景を呆然と眺めているふたり。


 やがて、それはひとりのヒューマンの男性の姿となった。

 全裸で横たわっている男性。漆黒の髪が風に揺れている。


 ピクリと動いた。


 ゆっくりとまぶたが開く。漆黒の瞳が輝いていた。

 ギィゼたちと目を合わすユウヤ。


「ギィゼとピッチュ……?」

「ユウヤ……!」

「ユウヤー!」


 ユウヤを抱き締めるギィゼ。

 ピッチュはふたりの周りを飛び回っている。


「ユウヤ、もうどこにも行かないで……!」

「ごめんな、ギィゼ」

「ユウヤ、愛してる」

「ギィゼ、愛してるよ」


 唇を重ね合わせるユウヤとギィゼ。

 ふたりともお互いをしっかり抱き締め合っていた。


「ちくしょうめ! おふたりさん、さっさと一緒になっちまえ!」


 ピッチュが腕を振り上げると、周りにある色とりどりの花がふたりの周りに舞い散った。ピッチュなりの祝福だ。

 美しい花々が舞い散る中、ふたりはいつまでも抱き締め合っていた。



(私、死んでない……)


 ふと、ローブをかぶった男に目を向けるギィゼ。

 男はにっこり笑った。


「気まぐれですよ」


 そう言い残して、煙のように姿を消した。



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【KAC20247】虹色旅団の凱旋 下東 良雄 @Helianthus

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