【KAC20248】カズのめがね

オカン🐷

【KAC20248】カズのめがね

 大谷家の2階にあるダイニングに、良雄一家とオトとアズを遼平は招き入れた。


「適当に座って。その前に手を洗わないとな。洗面所はこっち。ああ、オトもヨッシーも知っているな」


「いらっしゃい」


 良雄がナオに祐奈と祐樹を紹介した。


「こんにちは」

「……」

「あら、恥ずかしいのん? かわええなあ」


 ナオが祐樹の頬を優しく撫でると、祐奈のスカートの裾に隠れた。


「僕、スーパーで買った荷物を家に置いて来ます」

「冷蔵庫の中もうすぐ空になるから、ちょっと待って。遼平、そろそろ出して」

「はいよ」


 横長のダイニングのテーブルに二つの箱が置かれた。


「ルナが世界的にも超有名なパティシエNに作ってもらったそうだ」

「Nって言ったら高級店じゃないか。向こうから送って来たってことはないよね」

「まさか、銀座店でレシピを再現してもらったそうだ」



 遼平は箱を開け、ケーキに立てたローソクに火を灯した。


「みんな集まって」


 すると部屋の明かりが消され、ガク、モンキー、顔なしがそれぞれの楽器でウエディングソングを奏でた。


「ヨッシー、祐奈さん、ローソクの火を吹き消して」


 一斉に拍手が沸き起こった。


「ヨッシー、祐奈さん、おめでとう!」


 口々に祝福の言葉を述べた。


「これって」


 目を潤ませた良雄が訊いた。


「結婚式もまだだったろう。せめてお祝いだけでもさせてくれ。イチ、ケーキを切ってくれ」

「おお、まかしとき」


 綺麗にカットされたケーキが次々に皿に載せられていく。

 ミオがキッチンからカップを運んで来た。


「祐奈さんは主役なんだから座ってて」

「あきこさんも臨月なんやから座ってるんやで」


 ナオはホットミルクを運んで来て言った。


「コーヒーの人?」

 

 レイはいそいそとカップにコーヒーを注いだ。


 オトが残りのカップに紅茶を注いだ。


「それではみんなカップを持って、ヨッシーと祐奈さんの前途を祝して、乾杯!」

「かんぱ~い」


 有名シェフのレシピだけあって、チョコレートが滑らかでこくがある。中のフランボワーズムースと一緒に食べると少し苦くて酸っぱくて、チョコレートの香りが口一杯に広がった。



「ヨッシー、おめでとう」

「あっ、ありがとう。ケーキ美味しいよ」


 良雄のシャツの裾を引っ張る祐樹を良雄は抱き上げた。


「パパ、たれ?」

「ルナちゃんだよ」

「ママ、おなし」

「違うわよ。ルナちゃん、初めまして、祐奈です」

「初めまして、ヨッシーがお世話になってます」


 ルナの後ろにハヤトを抱いたカズ。


「ルナちゃん、それは変だよ」

 

 笑いが弾けた。

 テレビ電話が1巡りしたとき一平が言った。


「あれっ、カズくんの雰囲気が違う。何だろう?」

「お義父さん、めがねじゃありませんか? レーシック手術をしてめがねがなくてもよくなったんです」

「またどうして?」

「ルナちゃんをよく見たいんです」

「がっかりしなければいいけどね」


 笑いのうちに電話が終わった。


「ケーキを食べ終わったらアンケートに協力してあげてください」

「ルナは何か商売を始めたのか? 有名パティシエと知り合いだし」

「何か協力はしてるみたいだけど」


 テーブルの奥でオトとケーキを突き合っているアズに遼平は視線を送った。


「アズくん、じゃない直人くん、就職は決まったの?」

「本社勤務を希望したら大阪が本社で」


 大阪と訊いてナオが興味を示した。


「どこの会社?」

「住之江の丸福不動産、ご存じですか?」


 キャハハハッ


「それってお兄ちゃんとナオさんが出会った場所」


 レイが笑い転げた。



「縁があるんやねえ」


 ナオがしみじみと呟いた。





         【了】










 



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