最終話 時止め探索者とダンジョン配信
「うーん、やっぱり外の空気はいいですね」
破界現象が収束して五日後。
病院で治療を受けていた僕は、ようやく退院できるまで回復した。
普通なら一年は入院が必要らしく、驚いたお医者様に身体の隅々まで入念に検査されてしまった。
いまは久しぶりにサンプロ本社へ行こうと、街を歩いているところだ。
特に仕事があるわけじゃないんだけど、『配信ドローンのメンテナンスが完了しました』ってメールが来てたし、自分の目でチェックしておきたかったんだ。
そのことを伝えた小岩井さんは、車で迎えに来てくれると言ってくれたけど、時間を取らせるのも申し訳ないので丁重にお断りした。
ずっとベッドだったから、身体を動かしたいのもあるしね。
『事件の首謀者、
街頭の大型ビジョンには、『人為的破界現象発生事件の続報』と漢字だらけのテロップが表示され、黒コートの男の顔が映し出されている。
『救世委員会』のような他団体を利用して、破界現象を起こした事例は今回が初めてのことだ。
各地にある他のダンジョン解放団体にも、厳しい調査が入るそうだ。
市民に銃を突き付けて、街をめちゃくちゃに破壊したんだから、今までみたいに見逃してはもらえないと思う。
ちなみに街で暴れていたドラゴンたちは、殺生寺宇迦先輩が一匹残らず討伐したらしい。
僕も配信をアーカイブで観たけど、あれはたしかに人間技じゃないな。
リリカさんが力の差を感じるのも仕方ないと思う。
もちろん絶対に追いつくつもりだけど。
そんなことを考えていると、サンプロ本社に到着した。
中央ホールを通ってエレベーターに乗り、廊下を歩いてメンテナンス室へ向かう。
金属製の扉を開けて中に入ると──
「天道くん、退院おめでとう!」
「いっちー、生きててくれてマジ嬉しい!」
千景さんとリリカさんが左右から抱き着いてきた!
あれ? 二人とも今日僕が来ること知ってたっけ?
「快復おめでとうございます。退院がわかったらすぐに連絡をくれるようにと、皆さんに言われていましたので。黙っていてすみません」
小岩井さんも室内で待機していたらしく、そう言ってペコリと頭を下げる。
「千景さん、リリカさん、お久しぶりです。この通り、天道一夜復活しました」
「無事でよかった……あの後ずっと会えなくて本当に心配したんだぞ」
「解放団体の報復があるかもって、移送先の病院教えてもらえなかったんだもん。めっちゃハラハラしたって!」
二人の瞳は涙で潤んでいた。
心配をかけた申し訳なさと、自分を待ってくれる人がいる嬉しさ、両方の気持ちがじんわりと胸に広がる。
なんだか僕まで泣きそうだ。
「他の方からはメッセージを預かっているので、お伝えしますね」
小岩井さんはスマホに目を移すと、メッセージを読み上げてくれた。
『退院おめ。また起こしに来て。@倉石怜』
『無理させてごめんねー。今度ご飯おごるよー。@獣坂プレデター』
『俺を頼ってくれてサンクス! 天道くんのおかげで登録者も増えたぜ! @千葉リョウト』
『大型新人のキャッチコピーは誇大広告やない。キミのこともっと知りたくなったわ。@南波海琴』
『よくぞ破界現象を食い止めてくれた。お主には色々と期待しておるぞ。天道一夜くん。@殺生寺宇迦』
大型コラボのメンバーから、労いの言葉が届く。
有難い。
というか、殺生寺先輩もいない!?
まだ会ったこともないんだけど、今回のことで僕を知ってくれたのかな。
ところで、さっきから気になっていることがあるんだけど……。
「千景さん、リリカさん……そろそろ離してもらってもいいですか?」
お二人の胸がずっと当たってます。
「気にするな。わたしは気にしていないぞ」
「あ、いっちー赤くなってる。カワイイー!」
「あの……そういうわけには……」
「天道くん、もう離さない」
「リリカもうちょっと、こうしていたいかも」
涙ぐんだ声に、僕は何も言えなかった。
二人の体温を感じていると、病院ですら忘れていた生きている実感が湧いてくる。
心の奥底から感情が溢れてきて、僕は声を上げて泣いた。
退院からさらに五日後。
僕は今日もダンジョン配信をする。
破界現象事件のことがニュースに大きく取り上げられて、探索者のランクはCからA級へ一気アップ。
チャンネル登録者数も200万人を超えた。
これでダンジョン協会が選抜する、『天魔六王のダンジョン』攻略メンバーにも、かなり近づいたと思う。
「こんにちは。時間停止の天道一夜です。今日は『蛇竜大海のダンジョン』を攻略していきたいと思います!」
:復帰配信きたああああああああああああああああああああ!
:攻略の時間だあああああああああああああああああ!
:Σ退院おめでとう!
:ずっと待ってたぜ!
:街を守ってくれてありがとう!
:初見です、ニュースで見ました
:復帰配信からA級ダンジョン攻略は攻めてるなー
:戻るのはえーよ、お前が復帰するまでハロワ行かないつもりだったのに
:へー、けっこう元気そうじゃん、ま、オレは心配してなかったけどね
:ツンデレもいます
:今日も時間停止魅せてくれよな!
:さっきから横揺れすごくない?
:海の上だからな、船出すアイテムも揺れは止められん
:マジで応援してるぞ! このダンジョン俺の学校飲み込んでるからな!
:ワイの職場なら飲み込んでいいのに
リスナーのコメントが大海原に映し出される。
今日も楽しんでもらえたら嬉しいな。
さあ、攻略を始めよう。
僕はサンライト・プロダクション所属のA級探索者、天道一夜だ。
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『時止め探索者の無双配信』は、今回の話でひとまず完結となります。
読者の皆様、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
時止め探索者の無双配信~ダンジョンで人助けをしたらワケあり美少女たちが所属する大手ギルドからデビューすることになりました~ 須々木ウイ @asdwsx
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