シアン色の唄

くまだんご

第1話 角の折れた鬼

ある暑い日、私の元に一人の男がやって来た。

「…俺は“猿木さるき 夏一なついち”。『黄楽こうらく』住みのただのじじいだ」

「夏一さん…。わざわざ遠くからありがとうございます……私は“稲神いながみ 紫安シアン”ともうします。」

「あぁ…」

お互い、ペコリと頭を下げ自己紹介をする。

冷えたお茶をお盆に乗せ、丸机の上に置く。

この暑さだ…氷で良く冷えたお茶は身体に染み渡った。


「今日は…どう言ったご用件で?」

私が問うと、彼は少し遠くを見つめ口を開いた。

この時に少し重めの話しなのだろうと察した。

「見て欲しいがいるんだ………えーっと…病人なんだがな?」


私の仕事状、こんな事は良くある。

病人を見て…何かがいてないか確認したり……その人の話し相手になったり……死期の近い人に寄り添ってあげるとか…。

も…きっと……

「と…言うと…その方は黄楽にいらっしゃるのですね?」

そう聞くと彼は「あぁ…」と発した。

「…では……すぐに向かうとしましょう」



この時、私はいつもの仕事の様に心を落ち着かせて向かった。

“彼女”の姿を見るまでは……



─シアン色の唄 序章『角の折れた鬼』―



私達は船を伝い、黄楽の大地にたどり着いた。

紅葉の綺麗な国…『黄楽』。この国には前、来たことがあった。

その時は旅行の様な気楽な感覚だったが…今日は少し違う。

彼の言う『彼女』がどれ程、深刻かに寄って……私の荷の重さは変わって行く。

「………暑いですね~」

「あぁ……ここ最近…また、暑くなって………。そうだ…アイスでも買って行きますかな?」

「……あはは…そうしましょうか……」


私達はアイスを口に含み路地裏の様な道をジグザグと進んで行った。

何故こんなにも裏を通るのか不思議でならないが…気にせず彼に着いて行く。

「こちらですか…」

路地裏を抜けると、目の前には大きな門。

なかなか大きな屋敷の様だ。


「ささ…どうぞ中へ」

彼は門を開き、私を中に案内した。

屋敷の中に入ると、玄関前に白髪の少女が座していた。女将さんと言うやつだろう。

彼女は頭を深々と下げる。

「暑い中ご足労ありがとうございます…。私はミコト…当屋敷の女将になります…。」

「ご丁寧に…。こちらこそ…よろしくお願いいたします………」

この方の気配……妖怪?……いや、半妖か…。

等と、そんなことを考えていると、夏一さんが話し掛けてきた。

「見ていただきたいのは彼女ではありませんよ…」

「あっ!はい…そうですね!」

私が考えている事とバレバレみたいですね………。




私は二人に連れられ、ある部屋に案内される。

夏一さんが襖を開け、中の人物に一声掛ける。

「…『カスミ』…。入るぞ…」

襖が開けられ…私は中の人物を見た。

布団に横たわっていた彼女はちょうど起き上がっており、庭を見つめ外から飛んできた蝶を指の先に止め…ぼーっと…見つめていた。


「…………鬼…?」

そう…その少女は…白髪の…傷跡だらけの…角の“折られた”鬼。

傷だらけでありながら、あり得ない程に美しく…その儚さに私は見とれてしまっていた。


そして…一目見て気づいた。

彼女の心が………『壊れてしまっていることに』

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