最終話
体を失った紫は空を飛んで母のもとへ帰る。
後ろは振り向かずにまっすぐに。
振り向いてしまえば戻りたくなるから、思い出してしまうから。
楽しかった日々、村で作ったたくさんの思い出を。
葵は、花火を見ただろうか。喜んでいるだろうか。
そんなことを思いながら心の底から祈る。
葵、幸せになってね。
この世界は綺麗な色であふれてる。そのすべてを、その目で見てほしい、知ってほしい、あの時はしゃいでた紫という少女が、見ていた景色を。
どぉん
遠く後ろから聞こえてくる音に思わず振り返ってしまった。
向こうの方からだ。どぉん、どぉんと花火の上がる音。
雲ひとつない澄んだ夜空に大輪の炎が華の如く瞬間的に咲き誇る。
遠くから、ここまで響いて聞こえてくる囃子の音と人々の笑い声で出来た華やかな雑音が、私の居場所はあそこにはもうないんだと突きつけてくる。
花火を写した目から流れる一筋の涙は七色に光りながら地に落ちていく。
私が溶けていくのだと、そう思った。
大きな花火が上がった。先ほどより大きな花火、そして最後の花火。
思わず見入った。
そして感じ取った。
葵が、あそこで笑っている。
なないろに咲く わちお @wachio0904
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