【KAC20247】召喚された勇者はゲームの知識で無双した

八月 猫

召喚された勇者はゲームの知識で無双した

 この世界に召喚され、突然勇者に任命されてから早二年。

 俺はようやく最後の敵である魔王の住む魔王城へと辿り着いていた。そして――


「ギャアァァァァ!!」

 四天王の最後の一人を倒した。

 部屋の奥にある玉座に座る黒いマントを羽織り、こちらを驚いたような顔で見ているのが魔王だ。


「四天王を全て一撃で倒しただと……。な、なんだその我をも凌駕する凄まじい力は!!どうやって手に入れた!!」

「パワーレベリングだ」

「え?」

 俺の言葉の意味が分からないのか、ぽかんとした顔をする魔王。


「この世界に喚ばれた俺は、この国で一番強い冒険者パーティーと、この国最強と呼ばれている騎士団長と共に、東に魔物が出たと聞けば東へ、西に魔物が出たと聞けば西へ。彼らが魔物たちと戦っている後方でじっとその様子を伺い続けて経験値を頂き、勇者チートのお陰で人よりもレベルの上がりやすかった俺は、一か月ほどでこの国最強の力を手に入れたんだ」

「お前、それは寄生ち――」

「パワーレベリングだ!!俺の血の滲むような努力を馬鹿にするな!!」

「血どころか汗も滲んでおらんだろうが!!――いや待て。一か月でそこまで強くなった後は何をしておった?確かお主がこの世界に喚びだされたのは二年ほど前と記憶しているが……」

「ダンジョンに潜っていた」

「ダンジョン……ま、まあ、人間最強となったくらいでは、この魔王に勝つことは叶わぬからな。更なる修行といったところか」

「そうだ。俺は朝から晩まで絶対に安全な敵しかいないダンジョンを何度も何度も周回を繰り返し続けていた。体力が尽きそうになればポーションで回復し、寝る間も惜しんで周回を重ねていた」

「絶対に安全なダンジョンで?」

「絶対に安全なダンジョンで」

「二年間も!?」

「二年間もだ!!」

 元廃ゲーマーを舐めんなよ!!


「魔王よ。お前のレベルは86だな」

「――鑑定スキルか!?」

「俺は絶対にお前に勝つために、この二年間――絶対に安全な場所で死に物狂いの特訓を重ねてきたんだ」

「絶対に安全な場所で……死に物狂い?」

「その努力の成果を教えてやろう!!俺のレベルは――293だ!!」

「馬鹿か!!――え?何?293!?いやいや、この世界のレベルって3桁になることあんの?上限99のはずじゃぞ!?」

「努力で上限突破した!!」

「世界の理を努力で超えるんじゃない!!しかも、全く感動しない努力で!!」

 エナドリをがぶがぶ飲みながら何日も完徹しながらレベル上げをする感動を知らないとは。


「過剰戦力にもほどがあるぞ!それにそこまで上げずとも我に勝つことは出来たじゃろう!」

「いや、ギリギリだと万が一があったら困るから余裕をもって」

「慎重すぎる……。それに、お主がレベルを上げている間にも苦しんでいる人々がおったはず。少しでも早く助けてやろうとは思わなかったのか?」

「苦しめてたお前が言うな!!」

「それはそう!!そこは全面的に我が悪い!!」

「じゃあそろそろお前を倒させてもらう!!」

 俺はダンジョン周回中にいつの間にか手に入れていた聖剣を構え、魔王を睨みつける。これこそが唯一魔王を倒すことの出来る剣なのだ。


「ふん!そう簡単に我がやられると思っていたのか?」

 魔王はニヤリと笑うと、俺と魔王の間の床から何かが召喚されるように湧き出してきた。


「これは……」

「ふふふ。これこそが我の最終兵器だ!!」

 そこに現れたのは五匹のスライムだった。


 青、赤、黄、緑、黒。

 特に何の変哲もないカラフルな五色のスライム。


「最終兵器がスライム?おい、馬鹿にしているのか?」

「フハハハハハ!!そいつらはただのスライムではないぞ?その内の四匹には、この魔王城ごと吹き飛ばす術式への発動キーが組み込まれているのだ」

「術式への発動キー?」

「そうだ。そいつを倒すと術式が発動し、この城ごと吹き飛ぶという仕掛けになっておるのよ!」

「なんだと!?」

 城ごと吹き飛ぶような攻撃だと、いくらレベル293の俺でも耐えられるとは限らない。一体どうすれば……。


「解除するには、その中に一匹だけいる解除キーを持ったスライムを倒すしかない!」

 あ、教えてくれるんだ。


「お主がそこで足止めをされている間に我は逃げさせてもらう。そして力を蓄え、再びこの世界を破滅に陥れる為に現れるであろう!!フハハハハハ!!」

 逃げ出そうとしているくせに、まるで勝ったかのような高笑いをする魔王。


 マズイ!このまま逃げられてしまっては、せっかくここまで追い詰めたのが水の泡だ。

 俺は目の前のスライムを見る。

 五匹共何の変哲もないカラフルなスライムにしか見えない。もしかしてこれは魔王が俺を足止めする為の嘘じゃないのか?いや、もし本当だった時のリスクが高すぎる!

 確率は五分の一。勘に頼るには分が悪い。

 どこかにヒントは無いのか?色的には青とか安全そうな気がする。いや、そう思わせることが罠かもしれない。じゃあ逆に赤とか黒?いやいや、如何にもって感じで選べない。


「勇者よ!また会おう!その時が貴様の最後になるだろうがな!!フハハハハハ!!」

 クソッ!魔王が逃げてしまう!!

 どうする!どれにする!いっそ魔王ごと巻き込んで……それは絶対に嫌だ!!


 ――そうだ!!






「勇者よ!よくぞ魔王を倒してくれた!これでこの世界に再び平和が訪れた!この国の民を代表して礼を言うぞ!本当にありがとう!!」

 王様が涙を流しながら俺に頭を下げてくる。


「これで俺は元の世界に帰ることが出来るんですね?」

「あ、ああ!もちろんだ!魔王を倒した事で召喚陣の魔力も充電出来た。お主が望む時に帰ることが出来るぞ!しかし、良かったらもう少しゆっくりしていってはくれぬか?まだお主への感謝を伝えきれておらんのじゃ」

「そうですね。せっかくの異世界ですから、もう少しゆっくりしても良いですね」

「おお!そうか!ではすぐに宴会の準備をさせるからの!!」

 その会話を聞いていた周囲の騎士たちからも歓声が上がり、口々に俺の名前を叫んでいる。

 その嬉しそうな顔を見ていると、本当にやり遂げて良かったと思う。

 あ、そうだ。


「王様。残っている魔王城なんですけどね」

「ん?ああ、あそこも近々兵士を向かわせて調査する予定にしておるぞ」

「それは良いんですけど、一つだけ注意しておいて欲しいことがありまして。魔王の間に五色のスライムがいるんですけど、そいつらには近づかないようにしてください」

「五色のスライム?」

「ええ。もし間違えて倒してしまうと、城ごとドカーン!ですから」

「――ふぇ!?わ、分かった!兵士たちには厳命しておくことにする!」

 王様は慌てて騎士を呼んでその事を伝えた。


 え?結局どうやったのか?

 冷静に考えれば簡単な事だったよ。


 ゲームのイベントだったら何かヒントがあったりしてクリアーするんだろうけど、これは現実の話。


 レベル293の俺には、スライムを飛び越えて魔王を倒すことなんて簡単な事だったってだけの話。


 リアルは危ない。ゲームの方が簡単。

 そうかな?イベントに絶対に従う必要の無いリアルの方が、ゲームに慣れていた俺には簡単だったよ。


 色々とね。




【了】



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