ある小説家の告白

バリー・猫山

私の世界

 私の世界には“色”が無かった。

 物心ついたときから世界は白と黒で、全てがつまらなくて退屈だった。


 私の世界に初めて色が生まれたのは小学生の時だった。

 学校の図書室、もうタイトルは思い出せないけど、確か子供向けの推理小説だったと思う。

 ページを開いた瞬間、私は世界がこんなにも“色鮮やか”なのだと初めて知った。

 探偵と犯人の高度な頭脳戦。

 手に汗握る駆け引きが私の心を彩った。


 でも、本を閉じた瞬間、世界の色が消えた。

 ただのモノクロ。

 無味乾燥なつまらない世界。

 気がつけば私は“色”を求めて本を開いた。

 様々なジャンルを読み漁ったけど、一番は推理小説だ。

 一癖も二癖もある探偵が、これまた個性的な犯人と戦う様は私の世界を鮮やかにしてくれた。


 初めて本の世界の色が消えたのは、高校生の時だった。

 ページをめくっても広がるのはモノクロの世界。

 私は絶望した。

 私の世界から全ての“色”が失われてしまったのだと思った。


 気がつけば私は小説を書いていた。

 もう一度、色のある世界を求めて筆を取った。

 処女作は勿論、推理小説。

 個性的な探偵が主人公の推理小説だ。

 今思えば、プロットも強引でトリックも好きな小説のパクリ。駄作でしかなかったと思う。


 それでも“私の世界”は“色鮮やか”だった。

 もう二度と戻ってこないと思っていた世界の“色”が再び戻ってきた。

 私の世界はどこまでも“色鮮やか”で、無限に広がっていくように感じた。


 ある時、私の小説を投稿してみた。

 ……そうそう、名前は忘れちゃったけど、よくあるWEB小説のサイト。

 私の小説は人気だった。

 投稿した瞬間からたくさん評価がついて色んな感想が貰えた。

 トントン拍子に書籍化の打診も来て、これこそが私の天職だったと思った。


 でも私の担当を名乗る編集者は最悪だった。

 もう思い出せないけど、さも的確なアドバイスを装って“私の世界”をけなされたと思う。


 私の世界に初めて色が生まれた。

 それはとても鮮やかな“赤”だった。

 

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