望まない婚約

うり北 うりこ

第1話


「どの色にする?」

「ピンク!!」

 

 そう答える小さなご令嬢を見て、何とも言えない気持ちになった。

 今は無邪気に好きなものを好きだと言うことも、自分の意見を言うこともなくなった。

 たかが色。されど色。


 好きな色を身に纏えば、気持ちも少しは上を向くのかもしれない。

 けれど……。


「どの色にする?」

「もちろんルイス様の瞳の色ですわ」


 微笑みを浮かべれば、ルイスは満足げに瞳を細めた。何て滑稽なのだろう。

 ……滑稽なのは私もだ。好きでもない婚約者、好きでもない色、好きでもないデザインのドレス。

 まるで茶番だ。それでもやめることは許されない。

 この婚約には弟妹の未来がかかっている。


 私は歴史だけは古い伯爵家の娘。お金もなければ、豊かな土地もない。

 ルイスは新興貴族の嫡男。富はあれど、金で地位を買ったと蔑まれることも多い。


 金の欲しい我が家と貴族としての箔をつけたい彼の家。利害が一致した関係なのだ。

 そこに愛はない。

 けれど、これから先の人生をルイスと共に過ごさなくてはならない。


「俺もエリザベスの瞳の色を身に付けるよ」

「嬉しいですわ」


 あぁ、茶番だ。馬鹿馬鹿しい。

 それでも演じるのだ。マリオネットのように。



 ***



「どの色にする?」

「もちろんルイス様の瞳の色ですわ」


 ドレス選びで、そう答えてくれる婚約者が今日も可愛い。

 一目惚れだった。こんなに可愛い人がこの世にいるのだと衝撃を受けた。

 何度も父に頼み、何度も婚約の打診をして、頼み込みにも行って、やっと婚約できた。


 世界一可愛いエリザベス。

 こんなに近くにいても、いつも遠くを見ている彼女が本当はこの婚約を望んでいないことは知っている。

 それでも、俺はこの手を離すつもりはない。


「俺もエリザベスの瞳の色を身に付けるよ」

「嬉しいですわ」


 嘘だと分かっていても嬉しくなる俺は馬鹿だ。

 囲って、囲って、囲い込んで、絶対に逃がさない。


 滑稽でも、不格好でもいい。

 いつかエリザベスの言葉を本心にしてみせるから。

 

 

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